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NIKKEI NET

社説1 先行き厳しさ増す経済に細心の注意を(5/17)

 今年1―3月期の日本の実質GDP(国内総生産)成長率は年率換算で3.3%と予想をやや上回った。アジア向けを中心に輸出が高い伸びを見せたことと、個人消費の増加が成長の支えになった。だが、原油など原材料価格の上昇や世界景気の減速など厳しい逆風も吹いている。先行きは決して楽観できない。

 世界経済のけん引役である米国の景気が急減速する中で、GDPが潜在成長率を上回る伸びを見せたのは朗報だ。だが、うるう年で日数が1日多く、消費はかさ上げされている。一方で設備投資は減少に転じており、手放しでは喜べない。

 これから大きな逆風になるのは、原油や鋼材など原材料の値上がりだ。上場企業は2009年3月期に7期ぶりに減益となる見通しだが、原材料価格の上昇がその主因である。原材料コストの増加分を製品価格にそのまま転嫁するのは難しい。利益の減少は、企業の投資意欲を冷やす要因になる。

 ガソリンや食料の値上がりは、個人消費にも暗い影を落としつつある。企業の収益悪化を背景に今年夏のボーナス支給額は伸び悩みそうで、消費の伸びは所得面からも抑えられる可能性がある。

 成長の支えになっていた外需に頼り続けるのも難しくなってくる。中国をはじめ新興国の景気は、米経済の落ち込みにもかかわらず今のところ堅調だ。しかし、国際通貨基金(IMF)は08年の世界の実質成長率見通しを昨年よりも1ポイント以上低い3.7%としており、輸出が高い伸びを続けるとは考えにくい。

 やっかいなのは、需要の伸び悩みと物価上昇が同時並行的に進む恐れが出てきたことだ。消費者物価上昇率はまだそれほど高くはないが、エネルギーや食料の値上がりを背景にインフレ心理が広がれば、そうしたシナリオは現実味を帯びてくる。

 米国はすでに、高い物価上昇率と需要停滞が共存するスタグフレーションの様相を見せ始めている。

 日本は円高で原材料価格の高騰がやや相殺されているうえ、米国発の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題による悪影響も限定的で、スタグフレーションの懸念は米国ほど深刻ではない。だが、抱える問題の構図は似ている。

 需要が伸び悩む中で金融を引き締めれば、景気後退を招きかねない。とはいえインフレのリスクが浮上すれば、無視するわけにもいかない。持続的な成長の実現へ向けてリスクのバランスをどう見るか。日銀には細心の注意が求められている。

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