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社説2 四川大地震は日本への警鐘(5/17)

 中国の四川省で起きた大地震は被災者が1000万人を超え、死者は5万人以上との見方が出ている。家屋や建物が軒並み倒壊し、壊滅状態に近い村落の映像を見ると、地震のすさまじさを改めて思い知らされる。救出活動で1人でも多くの命が救われることを祈るばかりだ。未曽有の災害が教えているのは、備えの重要性だろう。自らの防災は万全なのか、日本も早急に点検が必要だ。

 四川大地震では阪神大震災と同様に家屋や建物の倒壊による死傷者が目立つ。倒壊の多さは、地震の規模の大きさやこの地域特有の家屋の構造ゆえかもしれないが、耐震が不十分だったのは明白である。

 日本では阪神大震災をきっかけに耐震強化が叫ばれてきた。だが、実際には補強は進んでいない。中国の家屋や建物は脆弱(ぜいじゃく)だからと、今回の震災をひとごとのように考えて済む問題ではない。

 国内の小中学校の場合、耐震化されている校舎の比率は昨年春時点で6割未満だ。四川大地震は発生が昼過ぎで、校舎の倒壊による子供の死傷者が多かった。日本でも4割の校舎で同じような惨状が起きかねない。耐震化されていない建物は病院で5割近く、防災施設でも約4割というから、対策を急ぐ必要がある。

 大地震はいつどこで起きてもおかしくない。海溝型地震も内陸の直下型地震も、現在の科学では発生の日時や場所、規模を予知できない。にもかかわらず政府は予知幻想にとらわれ、防災や減災の対策が遅れた。耐震化の遅れも、そのためだ。

 気象庁は昨年秋から大地震の初期微動をとらえて地震波が届く前に揺れを知らせる緊急地震速報を流している。だが、速報は直下型なら間に合うはずがない。大きな地震は不意打ちでやってくる。事前に情報が流れるという誤解は油断を生む。

 地震には備えも覚悟もいる。首都圏でも近畿圏でも、大地震が起きれば多くの家屋が倒壊し、死者がかなり出る。地方でも家屋の倒壊が死傷者をもたらすだろう。

 だから、学校や病院、住宅の耐震補強を徹底し、地震発生と同時に被害を最小限に抑える減災計画が欠かせない。四川大地震は対策が遅れる日本への警鐘でもある。

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