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2008年05月17日(土曜日)付

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四川地震救援―開いた道をさらに広く

 未曽有の災害の全容はまだ見えない。確認できただけで、生き埋めになっている人がまだ1万人以上いるという。死者は5万人を超えそうだ。

 中国四川省の大地震で、刻一刻、時間と闘いながら、これも未曽有の規模で救出、救援活動が続いている。

 人民解放軍の兵士13万人と輸送機、ヘリコプターなど約300機が投入され、感染症対策の専門家を含む医師約1万人が派遣された。

 だが、生き埋めになっている人の生死を分けるといわれる72時間を過ぎて、焦りの色が深まっている。

 そんな中で、日本の国際緊急援助隊が現地に入った。条件は厳しくなっているが、一人でも多くの人を救い出してほしいと思う。

 中国政府が自然災害で外国の救助隊を受け入れたことはほとんどなく、異例の決断だ。日本に続いて、韓国やロシア、シンガポール、台湾の救助隊を受け入れることも決めた。

 中国国民の間では、救出が進まないことへのいらだちや政府への不満の声も上がっている。あらゆる手段を尽くしていることを国民に見せる必要があったろう。北京五輪を控えて、周辺国との協力関係を重視するという政治的な判断もあったかもしれない。

 そうしたことはともあれ、遅ればせではあったが、受け入れを決断したことを歓迎したい。

 過去の災害では、すべて自力で対処してきた中国が、国際社会の支援を求めたことは注目すべき変化である。

 今後焦点となる医療や復興対策でも、豊富な経験や優れた技術を持つ国々がある。中国政府は海外からの支援を積極的に受け入れて、救出活動で開いた道をさらに広げてほしい。

 これほどの大災害ともなれば、町や村を元通りにして、住民が再び住めるようにするまでには、長い時間がかかる。日本としても、息の長い支援をしていきたい。そうした協力の積み重ねは日中間の信頼を深める効果を持つだろう。

 一方、サイクロン被害を受けたミャンマーの軍事政権は、インドなどの医療救援チームの受け入れを表明した。ほかにも周辺国の救援隊は受け入れる方針のようだ。だが、日本や欧米からの派遣は依然として拒んでいる。

 こちらは発生から10日以上たつ。ミャンマーの国営放送は、死者・行方不明者が13万人を超えたと伝える。膨大な数の被災者が救援を待っている。救援国を選んでいる場合ではない。

 大災害が世界のどこで起きても、各国の救援隊が互いに直ちに駆けつけるシステムをつくれないものか。とりわけ隣人同士の助け合いが大切だ。

 外国の救助隊を受け入れた中国の決断が、アジアでのその一歩になることを期待したい。

企業と景気―収益構造を見直す好機に

 上場企業の今年3月期決算の発表が山場を越えた。勢いがやや衰えてきたとはいえ、全体として6期連続の増収増益を記録している。

 きのう発表された今年1〜3月期の国内総生産(GDP)の実質成長率も年率換算で3.3%だった。輸出の好調などを反映して、意外に高めの成長率を達成した。

 現在の景気回復は02年に始まった。この春までは、企業業績の改善に支えられながら経済活動が息長く拡大を続けてきたことになる。

 ところが今、風向きが急速に変わりつつある。いわゆる「三重苦」が企業業績の足を引っ張る構図が顕著になってきた。米国のサブプライム問題に端を発する金融危機とそれに伴う対米輸出の不振、原油や原材料の高騰、そして円高ドル安の三つだ。

 09年3月期には、たとえばトヨタ自動車が売上高で約5%、営業利益で約30%の減収減益を予想している。3月期決算の企業全体で、7期ぶりに減益へ落ち込みそうだ。

 これまでの景気は、輸出の好調で企業業績が改善し、それが設備投資の拡大に結びつく、という好循環に支えられてきた。この構図が逆回転を始めたとなれば、業績が悪化して景気が腰折れする恐れがある。

 そんな懸念のなか、東芝は現在の売上高7.7兆円を10年度に10兆円へ拡大する中期経営計画を発表した。

 東芝は原子力発電の米ウェスチングハウスを買収し、フラッシュメモリーなど半導体部門で巨額投資に踏みきり、東京・銀座の本社ビルを売却するなど、思い切った「選択と集中」を続けている。出遅れ気味のデジタル家電をてこ入れして、3年間で3割の増収を図るという。

 思えば大半の日本企業は、米国の住宅バブルに引っ張られた世界的な好況のなか、受け身で業績を伸ばしてきた。6期連続の増収増益は、自力で切り開いたものとは言いがたい。

 逆風が吹き始めた今こそ、企業の実力が問われる。収益構造を中長期的に見直していくべき部分はまだまだあるはずだ。人件費などのコスト切り詰めで利益を出しているだけでは、次の発展への素地はつくれない。

 北米に依存しすぎている企業は、新興経済圏へシフトするなど、戦略の転換が必要になるだろう。研究開発や設備投資への資源配分は怠れない。

 独自性のある商品やサービスが決め手になる時代なので、とくに人材育成など「人への投資」が、これまで以上に大切になってくる。

 経済環境が変化する時は、いままでの経営の課題を洗い直す好機だ。足元を見つめ、中長期的な成長戦略を練り直す。聖域なき発想転換こそが、企業に求められている。

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