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2008年5月16日

◎北陸の景気減速 企業、消費者心理の悪化憂う

 北陸の景気の減速が鮮明になってきた。原材料高が企業業績の重しになり、設備投資に ブレーキがかかり始めている。ガソリンの再値上げや食品価格の上昇は消費者心理を冷やし、財布のヒモは固いままである。企業の設備投資や個人消費が回復しない限り、景気後退の局面もありうるのではないか。

 福田康夫首相は政権浮揚に四苦八苦のようだが、心を砕くべきは「政権」ではなく「景 気」の浮揚である。企業経営者や消費者マインドの悪化について、政府・与党はもっと危機感を持ってほしい。

 日銀金沢支店は、五月の基調判断を前月に続いて「減速」で据え置いた。北陸三県の雇 用・所得はほぼ横ばいとはいえ、三月の有効求人倍率は三カ月連続で悪化し、昨年十二月から今年二月までの雇用者所得(事業所規模五人以上)も前年比マイナス0・1%と悪化の兆しが見える。今年二月―四月の企業倒産(負債総額一千万以上)は件数が百五件で前年同期比9・4%増、負債総額は五百億円で同83・5%も増えている。

 生産は輸出が好調な半面、内需が振るわない。四月の百貨店売上高は前年比1・2%の マイナスで、ガソリンなどの石油製品、小麦や大豆など食料品の値上げがボディー・ブローのように利き始めている。企業の景況感と消費者マインドの悪化が、景気に冷や水を浴びせている様子がうかがえる。

 特に今後の景気動向を左右するのは、これまで好調だった北陸企業の設備投資の行方だ ろう。全産業の〇八年度の設備投資計画は、マイナス13・4%となっているが、上期はプラス2・8%増で、下期がマイナス26・1%の見通しになっている。景気の減速をある程度織り込んだ数字であり、このままでは設備投資に急ブレーキがかかる可能性がある。

 個人消費についても雇用と所得が増えない限り、大幅な伸びは期待できない。むしろ食 料品や石油製品など身の回りの品の値上がりなどで生活防衛意識が高まり、できるだけ消費を抑えようとするだろう。北陸はもとより、日本の景気は今、大きな曲がり角を迎えているのではないか。

◎四川へ緊急援助隊 災害協力の足がかりに

 四川大地震で、日本政府は中国の要請を受け、国際緊急援助隊を派遣した。死者五万人 以上と推定される深刻な被害をみれば、自国だけで対処できないのは明らかであり、もはやメンツにこだわり、外国の人的支援を躊躇している場合ではないだろう。

 四川大地震の衝撃のさなか、中央防災会議が近畿・中部圏での直下型地震の被害予測を 公表した。日本としても今後、国際社会、とりわけ中国、韓国など近隣国の支援を求めるような大地震が起こらないとも限らない。中国が震災で外国の援助隊を受け入れるのは異例だが、今回のケースを国際的な災害協力の足がかりにしたい。日本も救援活動を通じて、大地震への備えを強化する必要がある。

 四川大地震の発生直後、日本など各国が人的支援を伝えながら、中国側は消極姿勢だっ た。交通が途絶され、通信も寸断された被災地で、受け入れ態勢が整っていなければ、かえって混乱が生じる恐れもある。言葉が違えば、意思疎通も十分にはいかないだろう。

 だが、生き埋めになった人の生存率の分岐点が被災後七十二時間とされ、人命救助が時 間との勝負であることを考えれば、人的支援の受け入れはもっと早く決断してよかったのではないか。

 死者二十四万人を出した一九七六年の唐山大地震の際も、中国は外国の救援隊を拒んだ 。自然災害でも他国の力を借りない「自力更生」の考えが今なお根強いとされる。外国人を入れることで情報統制の不安もあるのだろうか。今回の決断は国際的な孤立を避けたいという政治的思惑も垣間見えるが、他国の支援も柔軟に取り込む協調的な大規模災害対策が最初からあれば、受け入れ対応は違ったものになっていただろう。

 ミャンマーのサイクロン被害に続き、アジアの自然災害のリスクの大きさがあらためて 浮き彫りになった。四川大地震は中国国内の惨事というより、その影響は一国にとどまらず、政治、経済の不安定化は近隣諸国にさまざまな形で波及する。その意味でも、防災、復興を含めた災害の国際協力の構築は極めて重要な課題である。


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