厚生労働省は、中立的な立場で医療事故の調査に当たる第三者機関「医療安全調査委員会」設置法案の今国会提出を目指している。
医療事故の疑いがある死亡事例が発生した場合、警察の捜査や民事訴訟にゆだねられるのが現状だ。医師や看護師ら個人の責任追及に力点が置かれる。捜査当局の介入や医療訴訟の多発は医師の萎縮(いしゅく)医療や、医師不足を招く要因にもなっているとされる。医療の衰退を招くとの指摘も出されている。
医療事故の原因を探り、再発防止につなぐのが調査委創設の目的だ。厚労省が示した第三次試案では、調査委は政府内に置かれる中央委員会と全国八カ所の地方委員会からなる。メンバーは医師や法律家、患者側代表の有識者などで構成する。
現在、医師法の規定によって医療事故が疑われる場合には医療機関は警察に「異状死」としてすべて届け出なければならない。警察の捜査が優先される。これを新制度では届け出先を調査委としている。遺族も調査を依頼することができる。
調査の結果、医療機関側にミスがあれば調査委は再発防止策を提言することになる。医療の専門でない警察の結論に比べ、医療機関側は納得しやすいだろう。事件性が疑われるケースは警察に通報するが、故意や重大な過失が認められる場合などに限られる。
医療の質を高め、事故を引き起こさないためには刑事責任の追及など罰則重視でなく、原因究明と再発防止へ前向きに考えていく必要があろう。だが、医療機関側には警察に通報する「重大な過失」の判断基準が厳しくなりすぎないか、懸念の声もある。医療側、遺族側双方が納得できる調査委へ議論を深めなければならない。