偵察衛星など防衛目的の宇宙利用に道を開く宇宙基本法案が自民、民主、公明の3党の賛成で衆院を通過し、今国会で成立の見通しだ。宇宙開発に「非軍事」の縛りをかけた1969年の国会決議を事実上修正し、組織も抜本改革する。国際情勢を考えれば、安全保障に絡む宇宙利用を進めやすくするのはうなずけるが、基本法の具体化には熟慮が必要な課題も残る。
基本法が掲げる原則はこれまでと同様に宇宙開発の「平和利用」だ。しかし、その定義は国会決議が「非軍事」だったのに対し、基本法は「憲法の平和主義の理念」と微妙に違う。趣旨は防衛省の衛星保有・利用の足かせを取り除くことにある。背景には北朝鮮の核開発やミサイル発射など、安全保障上の懸念材料があり、国会なりの軌道修正と言ってよいだろう。
ただ、安全保障上の宇宙利用の自由度を高めるにしても、その範囲はあいまいなままだ。国際的には衛星破壊の試みもあり、それも認めるかは定かではない。宇宙軍拡への歯止めは何らかの形で必要だろう。
防衛目的となると秘密も多くなる。宇宙開発計画はこれまで議論が公開され、決定過程の透明性が保たれてきた。だが、防衛目的では計画の決定経過や評価が明らかにされなくなる可能性がある。基本法は首相直轄の宇宙開発戦略本部が総合戦略を練るとしているが、防衛目的が聖域となって民生分野とかみ合わぬ開発戦略ができたり、民生分野も秘密が増えたりする懸念は残る。
防衛目的では同盟国とのしがらみ、性能面から衛星も海外調達を考えたりしかねない。基本法は国内の技術力、産業の強化も掲げており、その趣旨を貫く意志の強さも要る。
日本の財政状況を考えれば、基本法が成立しても宇宙関連予算がすぐに急増するわけでもないだろう。そのなかで技術力をつけ、産業を強化するには、人材も資金も分散を避け、無駄を排する必要がある。宇宙分野では中型のGXロケットのように、意義や評価を中途半端にしたまま惰性で計画を続け、開発費が膨らんで大問題になっている例もある。基本法が成立したら、こんな文化も改めねばならない。