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社説1 「ダムありき」の河川行政を改めよ(5/16)

 関西の淀川水系で計画中のダム建設に対して、国土交通省近畿地方整備局が設けた有識者委員会が「待った」をかけた。しかし、委員会の意見を無視して、国交省は建設を強行する方針だ。同省の姿勢には首をかしげざるを得ない。今こそ「ダムありき」の河川行政を改める時だ。

 問題になっているのは大戸川ダム(大津市)、天ケ瀬ダム(京都府宇治市)など4つのダムだ。委員会はダムの治水効果や事業費などを検証し、ダム建設は「適切ではない」という意見書をまとめた。流域の堤防強化など他の対策も検討し、比較することを提案している。

 大戸川ダムの場合、200年に1度の規模の洪水時でも下流の水位を19センチ下げるだけの効果しかないというのだから、委員会の指摘はもっともだろう。事業費をみても3つのダムだけでも約2700億円と当初計画よりも大幅に膨らんでいる。

 大戸川ダムが多目的ダムとして計画されたのは30年前だ。その後、水需要が見込みよりも少ないことがわかり、2005年に事業は凍結された。ところが国は昨年夏に、ダムの下底部に放流口を設ける治水専用ダム(穴あきダム)として建設する方針を突然打ち出した。

 小泉純一郎内閣の時にダム建設を見直す動きが広がったが、最近各地で復活している。多くが今回と同じ「穴あきダム」だ。川の流れをせき止めないために環境への影響が小さいとされるが、巨大な構造物を自然の中に造ることに変わりはない。

 有識者委員会は意見書のなかで、環境の保全と再生のために「治水・利水の考え方を根本的に転換する」ことを国に求めた。堤防整備、河川改修、自治体間の水利権の調整などで、ダムに頼らなくても住民の安全・安心を守る道はあるはずだ。

 国がダムに固執するのは用地買収や住民移転が進み、今さら計画をやめられないというメンツだろう。建設予定地では確かに早期着工を求める声が多い。しかし、過去の経緯にとらわれるのではなく、代替案をまず検討することが必要だ。

 住民や学識経験者の意見を河川計画に反映しようと、1997年に河川法が改正され、その後、有識者委員会が設置された。このままダム事業を強行するならば、河川法の精神を国が踏みにじることになる。

 今後は滋賀、京都、大阪の3府県の知事の判断が焦点になる。岐阜県の徳山ダムのように完成した今でも必要性が疑問視されている事業もある。知事は国にはっきりと計画の変更を求めるべきだろう。

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