「もはや、すべての市町村にフルセットの生活機能を整備することは困難である」--。大都市への人口流出の防止に向けた自治のあり方を検討していた総務省の「定住自立圏構想研究会」(座長・佐々木毅学習院大教授)は15日、こんな刺激的な文言を盛った構想を提言した。人口5万人以上の「中心市」に都市機能を重点的に集積させ、周辺町村との連携で自立可能な「圏域」の形成を目指すプランだ。
国、地方の財政難が深刻な中、自治体が横並びで機能整備をしても地盤沈下は避けられない、との発想だ。市町村それぞれに住民サービスに必要な「受け皿」能力を求めるこれまでの自治行政の前提の転換につながる。「平成の大合併」後の市町村の制度論と並行して、新構想の議論を深めるべきである。
研究会は、地方からの人口流出に歯止めをかける「ダム機能の確保」(増田寛也総務相)に向け、検討を続けてきた。報告書では、生活圏の中核となる「中心市」を人口5万人以上を目安に設定。通勤、医療、商圏などを考慮して周辺町村と自主協定を結び、自立可能な「圏域」を形成するよう提案した。
たとえば中心市は中核医療機関などの担い手となり、それを周辺町村は一定の費用負担で共用し、医師の派遣などを受ける。その際、国は施設整備などに配慮し中心市に財源を重点配分する、という具合だ。
住民に必要な都市機能が多様さを増す中、「集中とネットワーク」で地域の埋没を回避する発想は理解できる。ただ中心市への傾斜は、地方間格差を拡大する懸念もある。総務省試算では、人口5万人以上の市に居住する人は日本の総人口の約8割で、2割がそれ以外の区域に住む。相当のメリットがない限り、周辺町村も協定に参加しまい。「限界集落」地域に代表される過疎対策とセットで議論を進めるべきだろう。
市町村合併との関係も問題だ。「平成の大合併」は10年に一応の区切りをつけるが、市町村数は1800を割る水準となった。これまでの合併推進を転換し「圏域」を自治体連合として永続させるのか、それとも将来の合併への通過点なのか。国民に説明が必要だ。
分権が進むにつれ、基礎的自治体(市町村)にも、受け皿機能がますます求められる。政府の地方制度調査会は将来の市町村像の検討に着手しているが、自治体の規模や能力に応じ権限や機能に差を設けるかが論点となる。新構想は、こうした議論とも大いに関係するはずだ。
魅力ある圏域作りには施設などハードだけでなく、人材育成などソフト面の拡充、住民参加も肝要だ。だが、構想はこうした点でも生煮えの印象である。地域再生構想が地方切り捨てに堕さぬよう、政府は肉付けを急いでほしい。
毎日新聞 2008年5月16日 東京朝刊