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2008年05月16日(金曜日)付

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高齢者医療―筋の通った見直しを

 75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度をどのように見直すか。政府・与党の検討作業がようやく具体的になってきた。

 その一環で、厚生労働省が全国の実務担当者を集め、どんな苦情が寄せられているのか、制度のどこに問題があるのかを聞いた。現場でお年寄りから直接、不満の声をぶつけられている人たちだ。

 「説明しようにも、制度の詳しい中身を知らせてくるのが遅すぎて対応できない」

 「負担を凍結したり、名前を変えたり、くるくる変わって混乱している」

 出席者たちからは、準備不足のまま見切り発車した厚労省への怒りの声が噴出した。制度を抜本的に変えようというのに、いかに現場の事情に疎かったか、改めてあきれさせられる。

 政府や与党の検討のなかで、焦点となっているのは、低所得者の保険料負担の軽減▽年金からの保険料天引きの見直し▽自治体が独自に実施していた人間ドックなどの助成事業の復活――などだ。

 なかでも、所得の低い層で保険料負担の増えるケースが出てきたのは深刻な問題だ。保険制度の運営を都道府県単位の広域連合という新組織にしたため、これまで市区町村が独自に税金を投入して講じていた軽減措置がなくなった影響が大きい。

 新制度では、保険料の未納が続くと保険証が取り上げられる罰則まで導入された。それを考えると、この点での手直しは急がねばならない。

 市でもなければ県でもない広域連合というのも分かりにくい。窓口がどこなのか利用者には戸惑いがあるし、当事者意識に欠ける面はないか。組織のあり方や周知を考える必要がある。

 その一方で、この制度に対する反発のあまりの強さから、とにかく負担を減らすか、先送りしさえすればいいという考え方には賛成できない。

 サラリーマンの扶養家族になっているお年寄りの保険料凍結を延長しようという案は、その最たるものだ。

 自営業の家族に扶養されている人は、これまでも国民健康保険の保険料を負担してきた。この不公平を再び認めるというのでは、新制度が目指した理念の根幹がゆがんでしまう。

 不評であっても政府が説得を尽くすべき問題と、早く手直しすべき問題とを峻別(しゅんべつ)すべきだ。

 野党は近く、新制度の廃止法案を国会に提出するという。しかし、廃止した後にどうするのか。批判の強かった以前の老人保健制度に戻るだけというのでは、国民的な納得は得られまい。新制度の創設は、共産党を除く与野党の合意事項だったことを忘れてもらっては困る。

 与野党の建設的な議論を期待する。

超原油高―サミットで知恵しぼれ

 原油高が止まらない。ニューヨーク市場では史上最高値を連日更新し、一時は1バレル=126ドルを超えた。100ドルを突破した年初から、上昇ピッチを速めている。

 思えば5年前、03年3月の米国によるイラク侵攻までは20〜30ドル台だった。侵攻で地政学的リスクに注目が集まり、04年に50ドルを突破して、超原油高といわれた。そこから2.5倍にもなったのだ。いまや「スーパー・オイルショック」といっていい。

 ところが不思議なことに、企業や消費者にパニック的な動きは出ていない。生活関連品の価格が上昇しているのは心配だが、70年代の石油危機時とはずいぶん雰囲気が違う。

 大きな要因は、円高ドル安が日本経済を守るガード役を果たしていることだ。原油高というパンチを打たれ続けても、そのガードのおかげで、決定打にはなっていないのだ。

 昨年夏以来、サブプライム問題で米国経済の後退が懸念され、ドル安が進んだ。1年ほど前に1ドル=124円だった円相場は、3月に一時は95円まで上昇した。このおかげで、円換算した輸入原油価格は、国際市況ほどには上がっていない。

 100円を突破すれば、以前なら輸出企業から悲鳴があがるところだ。それが様変わりしたことが、経済産業省の緊急調査からうかがえる(3月下旬、国内主要メーカー82社が対象)。原油高が企業収益を圧迫したと答えた企業は91%だが、円高が圧迫したという企業は44%にとどまった。

 海外生産が進み、円高耐久力が格段に増しているからだが、それにもまして、円高が異常な原油高ショックの緩衝材になると考えているのではないか。このていどの円高は、景気にとってもプラスなのかもしれない。

 世界の原油需要が伸びて原油が高騰していることには、新価格に対応できる経済体質をつくるしかない。省エネ・新エネ開発に死にものぐるいで取り組むのは当然のことだ。

 だが、最近の原油高には別の要因もある。あふれんばかりの余剰マネーが流れ込んでいる点だ。世界の金融市場からみれば、原油や穀物の市場規模は相対的に小さいため、急激な価格上昇を引き起こしている。金融、原油、食糧、住宅――。まったく別々だった市場が、金融技術の発達とグローバル化により強く結びついた。

 こうした構図を正すには、主要国が長らく続けている金融緩和策を早期に正常化し、世界的なカネ余りを収束させるしかない。いまは金融市場の動揺を抑えることを優先して世界的に金融を緩和させているが、同時に、カネ余りにも取り組まなければいけない。

 難問だが、洞爺湖サミットで知恵をしぼりたい。

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