グリーンピースが証拠として東京地検に提出する鯨肉(ウネス)(15日午前11時、記者会見で荒木祥撮影)
5月15日の朝日新聞朝刊に、以下の記事が載った。
「調査捕鯨の鯨肉を持ち出し? 乗組員らをNGOが告発へ」。1面では、見出しは「調査捕鯨肉の持ち出し横行 乗組員をNGO告発へ」となっている。
記事は、調査捕鯨で捕獲した「標本」の副産物の一部を、乗組員が勝手に持ち出しているという内容で、その量は1人で200kgを超えるケースもあり、自家消費・土産の域を超えていて小遣い稼ぎに使っている可能性が疑われる。鯨研側は、「土産は商業捕鯨時代からの慣習」とし「全乗組員約250人に赤肉とウネス(畝須)を数キロずつ無料で配ることは認めている」としているが、いまは調査捕鯨の時代である。
無償配布の規模も議論されるべきだろうし、国庫補助を受けた事業の、経費をまかなうための商品である鯨肉を、調査主体の鯨研が認めた以上に無断で持ち出しているとすれば、鯨研も真相を明らかにしなければなるまい。
これはグリーンピースが告発を受けて調査したものとのことで、同団体は、23.5kgの塩蔵ウネスが入った箱が、乗組員名で発送されたのを確認しているという。ミンククジラのウネスは、昨年は3,750円/kgで鯨研から卸されている。調査の拡大によって増産されたことから卸価格は下がったが、2004年時点では5,500円/kgだった。
2002年頃筆者が調べたときには、鯨ベーコンは2,700円/100gだった。今月は1,980円/100g前後で店頭に並んでいる。ウネスは、ヒゲクジラの喉に拡がる蛇腹の部分だが、口先や脇の下側は肉が薄く中央部分が肉厚で高く取引されているという。同記事の内容が以前から続いていたなら、目利きの乗組員たちのことである、値の付く部分を持ち出してきたはずだ。さらに、塩蔵とされているので、生よりも15〜16%水分が抜けていることと、冷凍せずに直接塩蔵熟成させてあるとなれば、生のウネスよりも相当高く取引されたと考えられる。
15日午前10時10分現在、グリーンピースの公式WebSiteには、
『グリーンピース告発レポート 奪われた鯨肉と信頼 「調査捕鯨母船・日新丸」での鯨肉横領行為の全貌』(PDFファイル)が公開されている。詳細は朝日新聞の記事及び、グリーンピースが発表するレポートをお読みいただくとして、ここでは、2006年4月13日に鯨研が発行したプレスリリースに記された奇妙な一文を紹介しておこう。この年は、ナガスクジラが調査捕獲として10頭捕獲され、その「副産物」が持ち帰られて販売された年である。
プレスリリース「第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)- 第一次調査航海の結果について-」の
「2.今次調査の概要(12)調査結果要約」のなかに、こうある。
「今回初めて10頭のナガスクジラを捕獲したが、商業捕鯨時の経験に照らして、やせている印象が強く、いわゆる尾の身はほとんど有していなかった」
直前にはクロミンククジラ、ザトウクジラ、シロナガスクジラ、イワシクジラ、ミナミセミクジラの発見分布が図示されているし、上記の一文の前後には、鯨種毎の生物量(重量)を元にした南極生態系の中での位置付けや、餌生物であるナンキョクオキアミの資源量について触れているので、この一文だけが妙に商品情報くさいのである。
そして鯨研は、「日本鯨類研究所・副産物販売委員会で、鯨類捕獲調査事業の副産物処理販売基準の改定を決定した。これら販売基準変更について全国で販売説明会」(水産経済新聞・2006年6月7日)を行いつつ、6月8日にはプレスリリース
「第19次南極海鯨類捕獲調査で得られた調査副産物の販売について」を発表。ミンククジラの肉を(853頭から)3,468.7t、ナガスクジラの肉を(10頭から)267.1t販売するとしている。