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メタボ健診始動 4月から義務化 保健指導も

[キーワード]医療情報

[更新日時]2008年03月23日

 ■制度周知と態勢、急ぐ保険者

 地域や職場で行われる40-74歳の健康診断が4月から、メタボリック症候群(内臓脂肪型肥満)対策を重視する「特定健診・特定保健指導」に変わる。腹囲測定を含めた健診を行い、メタボやメタボ予備軍と判定された人に保健師らが生活改善を指導するもので、国は生活習慣病を減らして医療費を抑えようと、国民健康保険を運営する市町村や企業の健康保険組合などに健診と保健指導を義務づけた。成果の上がらない保険者には“罰金”を課すだけに、保険者は準備に躍起だ。

 14日午前、福岡県筑前町で、中高年の町民20人ほどが、手の指をくるくる回したり両腕をゆっくり上げ下ろししたり、手軽にできる運動を楽しんでいた。健康運動指導士による町の運動教室。「お嬢さん上手(じょうず)かね」と時におだてられる参加者のほおが、赤みを増していった。

 現在は町民全般が対象の教室は新年度から、国保の被保険者で、かつ特定健診でメタボ予備軍を意味する「動機付け支援」と判定された人だけに参加が限定される。対象者は保健師と面談して生活習慣の見直し指導を受け、この教室で運動法を学ぶ。半年後には再び、保健師から健康状態のチェックが入る。

 メタボと判定された「積極的支援」の対象になると、町民の健康づくりに長年協力する福岡大学の医師らも面談に加わり、家庭訪問、電話など多様な手段を使った食事や運動の指導が、より頻繁に入ることになる。

     ■

 市町村の国民健康保険担当者が懸念するのは、住民がどれだけ協力してくれるかだ。

 国は新制度導入にあたり、2012年度までの健診実施率を70%とし、指導対象者の45%に生活改善を促し、メタボや予備軍を10%減らす目標を定めた。

 国保の場合、目標実施率は65%。だが現在の住民健診の受診率は全国的に低く、筑前町の場合、06年度は16%。新年度は33%を目指すものの、それには千人近く受診者を増やさなければならない。昨年11月の調査では「町民の9割が特定健診のことを知らなかった」(町健康推進課)という。

 健診実施率が低いなど取り組みが十分でない保険者には、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度への支援金を加算されるペナルティーが課される。「加算されれば保険料の値上げになりかねない」(同)と広報誌などでの周知に懸命だ。

 指導者集めも一苦労で、保健師などを確保したいところだが「現状では人材が足りない」(福岡県健康対策課)。

 筑前町では、食生活の指導に欠かせない管理栄養士の確保にめどが立たない。このため、指導対象者から福大の医師らにメールで質問できるしくみを立ち上げ、回答を通して大学の管理栄養士が指導する方法を取ることにしている。

     ■

 健保組合の場合、従業員など被保険者にはこれまでと同様、職場などで健診を行うが、専業主婦などの扶養家族にも受診を強く促さねばならなくなる。

 福岡県内の米の卸・小売業者らが加入する福糧健康保険組合(福岡市東区)は、01年から保健師による家庭訪問指導などを独自に展開。06年度の医療費(保険給付費)が10%ほど減る効果が出たという。

 ただ、従業員など被保険者の健診受診率は78%と高いものの、扶養家族は13%にとどまる。「家族の受診率をどうやって上げるかが難しい」(担当職員)と、資料配布や情報提供のホームページを開設するなど知恵を絞る。

 メタボ対策をめぐっては、激しいダイエットに励んだ結果、健康を害して命を落とす人が出るなど無理は禁物。また、目標達成時期が5年後ということもあり「当面は対応を急がずに模様眺めをしたい」(健保関係者)という声も聞かれる。 (田中伸幸)

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 ●「UMI」で克服を 九州大教授が指南本

 生活習慣病のイエローカードを出されても、悪癖を改めるのは容易ではないかもしれない。特定健診・保健指導の制度化に先立ち福岡県宇美町が実践した健康支援「UMIモデル」の開発などに携わった九州大医学研究院の馬場園(ばばぞの)明教授が、テキスト「脱・メタボリックシンドロームのための健康支援」を出版した。

 U(家(うち)でもできる)、M(自ら決定する)、I(嫌なことはしない)-という行動哲学のUMIモデル。「酒はだめ塩はだめ」と制限するのではなく、食事で野菜の量を増やし、歩数計をつけてウオーキングを心掛けるという前向きな2つの目標によって成果を挙げた宇美町の取り組みなどを詳しく紹介している。

 指導は成果を焦るのではなく、無関心期→関心期→準備期→実行・維持期という段階を理解し、動機づけと達成感を大切にすべきだと指摘。例えば食事では(1)10回以上かんで食べる(2)野菜から食べ始める(3)飲み物は水かお茶にする-など、できそうなことを本人に決めてもらい実行を促すのがこつだという。

 肥満傾向にある九大生を対象にした健康支援プログラムの報告、保健指導の評価の方法などユニークで実戦的な一冊。中央法規出版。2000円(税別)。

【写真説明1】健康運動指導士(右)が指導する運動教室。新年度からはメタボリック症候群の予備軍だけが対象となる福岡県筑前町
【写真説明2】メタボリック症候群の仕組み
【写真説明3】特定保健指導対象者の選定方法
【写真説明4】健診項目の判定値
【写真説明5】「脱・メタボリックシンドロームのための健康支援」

=2008/03/23付 西日本新聞朝刊=

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