早い話が

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早い話が:地震、洪水、外国人怖い=金子秀敏

 アジアは天変地異だ。ミャンマーで天が吼(ほ)えた。ベンガル湾で発生したサイクロンが、南部のアンダマン海海岸沿いにタイへ抜けた。3メートルを超す高潮がイラワジ川のデルタ地帯を襲った。

 中国四川省では地を裂く大地震だ。万を超える死傷者の正確な数はまだわからない。震源地はヒマラヤへ続くチベット高原の東の端。かつてはチベットのアムド地方だった。

 ミャンマーの軍事政権は死者3万4000人余、行方不明2万7000人余と発表した。国連は、合わせて最高10万人にのぼると見ている。これほど大きな被害なのに、外国人の救援を頑(かたく)なに拒んでいるのはなぜか。モノ、カネの支援は受け付けるがヒトは入れない。中国も似たようなものだ。

 だが、軍事政権に入国を許可された外国民間団体もある。台湾の仏教系慈善団体が派遣した「中華民国捜救総隊」だ。食糧6トンを持ち現地入りした。隊長はミャンマー華僑の出身で、軍事政権から「身内」と認められたからだ。

 隊長によると、被災地では軍隊が必死に救助活動をしていた。しかし被災地域が広大で、村落が散在し、道が水没し橋が流され、外国人にできることは限られていたという。

 恐ろしいのは水害の後の伝染病だ。1970年、ベンガル湾の大型サイクロンが東パキスタンを襲った。高潮で約10万人が死んだ。伝染病が大発生し50万人ともいわれる犠牲者が出た。この惨事を引き金に東パキスタンは崩壊、バングラデシュになった。

 ミャンマーはこれから雨期。難民がヤンゴンに流れ込んでいる。被災地でコレラ、マラリア、デング熱などが流行したら大変なことになる。それでも軍事政権は外国人の救援を拒んでいる。

 軍事政権が一番恐れているのは全米民主主義基金(NED)ではないか。昨年、ミャンマー各地で起きた僧侶のデモは、「サフラン革命」とも呼ばれる。サフラン色は僧侶の衣の色だ。

 2003年、グルジアで起きた「バラ革命」に始まり、ウクライナの「オレンジ革命」、キルギスの「チューリップ革命」と続く民主化ドミノが「カラー革命」である。米国のNEDが背後で支援したといわれている。軍事政権はサフラン革命も敵対的な民間団体の陰謀がかかわっていたと見ているのである。中国もチベット暴動の背後に陰謀があったという。国民を犠牲にしても外国から救援隊を入れないのはこのためだろう。(専門編集委員)

毎日新聞 2008年5月15日 東京夕刊

 

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