北京五輪聖火リレー終了後、ソウル市庁舎前で中国国旗を振る中国人ら=4月27日夕(共同) |
質的に変化した反中感情
4月27日、ソウルで開かれた聖火リレーで中国人が米国人や韓国の市民、果ては警察官にまで暴行を働いた。29日、中国外務省のスポークスマンは会見で「聖火リレーを守るために集まった中国人の意図は正しかった。一部の行為は過激で感情的過ぎた」と述べた。韓国の最大手紙、朝鮮日報(4月30日付)はこれに関し「中国政府は謝罪しなかった」と報じた。
領土問題や在中韓国人への不当な扱いを巡り、韓国人は反中感情を高めてきた(「韓国の不安」=2007年10月1日参照)。今回の事件で韓国人はまた怒ったが、怒りの質は明らかに変化している。
27日の夜のKBSニュースは、中国人に暴行された中年の韓国人男性が「大韓民国で、中国人が、外国人が、われわれ(韓国人)をこんな目にあわせるとは」と叫んでいる光景を流した。
新聞各紙も中国人が白昼堂々と暴行に及んだことに加え、大きな中国の国旗を持った中国人が数千人も集まってソウルの街を占拠したことに焦点を当てた。「どこからあれほどの中国青年が現れたのか」(朝鮮日報=4月29日付)などと「韓国の内側に入り込んでいた恐ろしい中国」への不安感が初めて率直に表明された。
中国人の入国審査強化へ
これまで領土問題などを巡り韓国人が語ってきた反中感情は、韓国人らしく過激な言葉で彩られてはいたが、観念的であり、切迫感には乏しかった。しょせん、面子を傷つけられたことに対する怒りだったからだ。だが、今回の事件の後に聞いた韓国人の反中感情は「身近な脅威」を懸念する生生しいものに変わった。
韓国では中国人の入国に関し議論が始まった。真っ先に俎上に上ったのは中国人留学生の質の問題。「少子化で韓国人を集められない地方の一部大学が、いいかげんな基準で中国人を入学させているから、容易に暴行に及ぶような中国人が韓国に集まる」という論理だ。5月1日付の中央日報は「政府は中国人留学生の入国審査を厳しくする」と報じた。
程度の差はあれ、韓国で起きた現象と韓国人の反応は、日本のそれらと極めて似ている。日本でも中国人の留学生の質を問題にする議論が起きた。そもそも中国からの留学生を増やそうなどという政策がおかしい、という声も出始めた。
専門家から普通の人へ
もうひとつ注目すべきは、韓国のメディアが日本の聖火リレーの状況に加え、日本人の反中感情の高まりをも詳しく報じたことだ。ある韓国メディアの東京特派員は「日本の親中派とみなされてきたメディアさえも、政府の指令で数千人の中国人が長野に集まったことに違和感を表明した。これは日本の大きな変化だ」と分析した。
こうした情報のやりとりは日本と韓国の間に限らない。世界のメディアが世界中の聖火リレーでの混乱に加え、各国の人々の対中感情の悪化を報じた。
これまで中国と各国の間で、領土紛争や技術スパイなどさまざまの問題が発生し、それは増え続けてきたが、多くは二国間問題として処理されてきた。
しかし、先進国のチャイナハンズやさまざまの分野の専門家は、強大化した中国に対するには連合して当たるしかない、との共通認識で次第に一致してきた。安全保障はもちろんのこと、人権、先端技術の保護、国際金融、環境など、多くの分野の専門家が「異質な中国VS世界」の図式を語る時代に入りかけていた(「チャイナハンズが見る日本A義和団モデル」=2008年2月27日参照)。
そこに、突然、世界共通の認識となり始めた普通の人々の中国に対する違和感や脅威感。こうした感情こそは、専門家の世界の論理的な「中国封じ込め策」に根を与えるに違いない。もちろん、これに対抗して中国も「対中包囲網」の結成を阻止すべく、硬軟の策を織り交ぜて各国に対することだろう。
ある中国人が肩を落としてつぶやいた。「五輪までに、そしてその後も、思いもかけぬ摩擦が起こるだろう。そうなれば五輪は、期待していたような世界との和合の機会にはならないだろう」。