4月から始まった「後期高齢者医療制度」は、06年6月に自公が強行採決をした「医療制度改革関連法(医療構造改革)」の一つとして成立したものです。75歳以上の高齢者を対象にしたこの制度は、「うば捨て保険」として、国民から厳しい批判と怒りの声があがっています。政府はあわてて「長寿医療制度」と言い直しましたが、中身はまったく変わっておらず、姑息なやり方に、国民の怒りはさらに高まっています。 保険料を年金から天引きするなど、問題の多い「後期高齢者医療制度」ですが、その中身については十分に国民に知らされていません。9日に開催された日本ジャーナリスト会議主催のミニ・シンポジウムで、相野谷安孝さん(あいのや・やすたか=中央社会保障推進協議会事務局次長・全日本民主医療機関連合会〈全日本民医連〉理事)が、この制度の問題点などについて話してくださいました。以下にその要旨をお伝えします。 75歳という年齢で区分けし、差別されたことへの怒り 相野谷さんは、全日本民医連にFAXで届いた後期高齢者医療制度に対する女性の訴えを紹介しながら、この制度に対する高齢者の本当の怒りは、75歳という年齢で区分けし、差別をされたことへの怒りであると語りました。この制度に対するメディアの関心も高く、自民党の中にも医療改革議連を発足させて見直しの動きがあることや、野党4党が廃案にするための法案を参院に出す準備が進んでいることに言及しました。 徹頭徹尾、医療費削減の発想からできた制度 後期高齢者医療制度の一番のポイントは、国民に対してきちんと医療保障をしようという発想ではなく、徹頭徹尾、どうしたら医療費が抑えられるか、という発想から制度ができている、と述べ、医療費の抑制については、30年前の臨調「行革」以来、老人医療が有料になったり、窓口の本人負担が1割から2割になり、さらに3割になるといった医療費抑制が30年間に渡って行われてきたことを明らかにしました。 最大の眼目は、2025年までに公的医療給付費を8兆円削減することに決めたことだ、と述べ、具体的に金額を示したのは今回が初めてだと指摘しました。昨年の医療費の総額は約33兆円なので、その4分の1を削ることになります。これから17年かけて8兆円分の削減をする仕組みをつくる。まず、最初に8兆円の削減ありきから出発した制度であると語りました。 高齢者は医療費を使いすぎなのか、それとも当たり前なのか 33兆円のうち、75歳以上の医療費は11兆円。75歳以上の人口は1割なので、人口1割に対し、医療費が3分の1かかっていることになります。65歳以上の医療費が17兆円なので、65歳以上の高齢者が医療費の半分を使っていることになりますが、高齢者は使いすぎだという発想と、そうではなく、これは当たり前なのだという発想があると述べ、いまの与党と厚生労働省は前者の発想をとり、(8兆円のうちの)5兆円を75歳以上の高齢者から削ることに決めたと語りました。 現在、75歳以上は1,300万人ですが、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上になるので、2,500万人に倍増します。人口が倍増しても医療費はいまの水準に抑える仕組みになっている、と相野谷さんは指摘します。2025年になると、2人に1人しか医療を受けられなくなることになり、いまの水準の半分の医療しか受けられない。その仕掛けが今度の後期高齢者医療制度であるとしました。 「法整備」によって医療費抑制のための法律を手に入れた さらに、「老人保健法」にあった「健康の保持」(第1条:目的)が削除され、「医療費の適正化」が盛り込まれたことについて、この「法整備」によって医療費抑制のための法律を手に入れたと述べ、その目的を達成するために75歳という年齢で区分けをし、75歳を境に国民健康保険や健康保険の扶養家族から外して後期高齢者保険に加入させ、90歳、100歳と、死ぬまで保険料が年金から天引きされる仕組みができたと語りました。 団塊の世代が最大のターゲット (政府や厚生労働省は)保険料が下がったと言っているが、かなりの人が上がることになると述べ、しかも、2年ごとに自動的に値上げをされる仕組みになっており(75歳以上の人が増えると、増える割合によって保険料が上がる仕組みになっている)、7年後には保険料が1.5倍、2025年にはほぼ2倍になることを明らかにしました。 国保では、保険料を滞納すれば「資格証明書」が発行されます。しかし、いったん窓口で全額(10割)を負担しなければならないので、保険料を滞納する人が窓口で10割払うことは困難であり、事実上、医療が受けられない状況が生まれていると語りました。実際、医療が受けられないために、手遅れで亡くなる人の数が増えているそうです。 高齢者から保険証を奪ってはいけない NHKが番組「NHKスペシャル」で社会保障の問題を取り上げることになり、全国の救急病院で亡くなった人のアンケートをとったところ、衝撃的な数字が出たそうです。相野谷さんは、その数は少なくとも3桁以上になるとの予測をしながら、医療を受けられなくなるような証明書は出すべきではない、と反対しました。本来、国民の命を守るはずの保険が医療を受けられなくなっている現状に、相野谷さんは強い危機感を抱きながら、「高齢の人から保険証を奪ってはいけない」と訴えました。 75歳以上の高齢者が保険料を1年間滞納すると、「資格証明書」が渡されます。年収18万円(月々の年金額が1万5,000円)に満たない人は、年金から保険料(900円ちょっと)が天引きされないため、自分で払いに行かなければなりません。この所得層に滞納者が生まれる可能性があります。75歳以上の2割は年金額が月々1万5,000円に満たない人たちで、半分は無年金者。75歳を境に高齢者を苦しめ、障害をもっている人や寝たきりの人や透析を受けている人は65歳から加入させられるという、社会的弱者を苦しめる制度であるといえます。 相野谷さんは、このような制度は外国では一つもない、と憤りをあらわにしながら、保険制度では絶対につくれない制度だと断じました。リスクの少ない人から集めてリスクの手当てをするのが(保険制度の)目的であり、一番リスクをもっている人たちだけを集めて保険をつくることは考えられないからです。なぜそんなことをするのか。医療費を抑えるため、(高齢者に)医療にかからせないようにするためだと語りました。 家族の概念がなくなることへの懸念 さらに、この制度によって家族の概念がなくなることへの懸念を示しました。現在、(保険は)家族単位で入っていますが、個人加入になるため、子どもや夫の扶養家族になっている人は、新たに保険に加入しなければなりません。後期高齢者医療制度の(保険料の)上限は年額50万円。国保の上限は56万円なので6万円安くなります。年収1,000万円や2,000万円でも50万円。高額所得者には逆減免になりますが、夫婦ともに高収入の場合は、夫婦で100万円払うケースもでてきます。 一番多いのは、夫が76歳で健康保険本人、妻73歳で扶養家族という場合。夫は後期高齢者医療制度、被扶養者だった妻は国保に加入し、それぞれ保険料を払います。また、事情があって孫を扶養してる場合、残された孫が小学生であっても国保に加入し、保険料を払わなければなりません。低所得者の軽減は介護保険と同じように、本人収入と世帯主収入を合算した金額が適用されるので、一人暮らしに比べ保険料がはね上がります。 メタボ検診は絵に描いた餅か 4月から「住民基本検診(老人健診)」が「特定検診」(生活習慣病の予防)へ変わりました。「メタボ検診」と呼ばれるものですが、男性は腹回り86cmの人はやせる努力をしなさいと言われます。厚生労働省はこれで将来、生活習慣病が25%減って医療費を2兆円削減できるとしていましますが、相野谷さんは「絵に描いた餅」と断じました。生活習慣病になる原因はいっぱいあり、最大の要因としてストレスの問題があるからです。 格差が広がり、所得の少ない人が増えています。埼玉のある病院では、窓口の負担を工面するために患者が食事を2回に減らしたので、薬が余っていることがわかったそうです。問題は、目的を達成できなかったときどうするか。やせる努力を怠ったということで、「自己責任論」が出てくるとしながら、「腹回り86cmは非国民のメッセージではないか」との認識を示しました。 「特定検診」は、40〜74歳までは義務ですが、75歳以上の人は検診を受けても受けなくてもよくなります。75歳以上の人も検診を実施しますが、過去1年間病院にかかって診察を受けた人は検診をしなくてもよいとされ、事前に紙を渡されてアンケートをとり、該当すると、今回は検診を受けなくてもよいと言われます。ある自治体では、過去1年間歯医者さんに1回でもかかれば検診を受けなくてもよいといわれたそうです。医療費を削減するために、検診を受ける人の数を減らすのがねらいです。 療養型病棟の削減は医療難民を生む 入院期間を短くし、療養型病棟を2015年までに15万床に減らすことで、1年間に4,000億円の医療費が削減できるとしています。去年は38万床だったので、その3分の2を減らすことになります。23万床も減らすことは、医療難民を生むことになりますが、その問題についての言及はなく、療養型病棟の削減は去年から着手し、この1年強で1割減ったそうです。 新たに創設された「診療報酬制度」は、療養病棟を続けると病院の収入が減る仕組みになっています。診療報酬を引き下げ、「定額制」の診療報酬を導入します。患者は高血圧や心臓病など、特定の慢性疾患の医療機関を選び、そこで一定回数以上受診すると、それ以上は何回受診しても医療機関が受け取る報酬は定額となります(後期高齢者診療料を新設し、月600点とする)。 医師会も「定額制」に反対している この「定額制」については、差別医療につながるとして医師会の反発が大きく、全日本民医連もこれを採用しないように連絡をしているそうです。将来、これが拡大すると、2025年には、高齢者は主治医を一箇所に決め、そこから指示された範囲でかかるように制限され、入院した人も長くいられないような仕組みになっている、と相野谷さんは語ります。 75歳以上の高齢者は、退院のための計画書をつくると病院の収入になるようになっており、終末期の医療についても、延命治療の意志を事前に本人や家族に確認し、それを文書などに記録として残しておくそうです。映像(ビデオ)でもよいとされているそうですが、警察の取調べの可視化はイヤだと言いながら、医療のビデオはいいと福田首相や舛添厚生大臣が弁明していることについて、相野谷さんはそのご都合主義を厳しく批判しました。 後期高齢者医療制度の目的は、75歳以上の医療費削減 後期高齢者医療制度の目的は、75歳以上の医療費削減であることは間違いなく、その狙いは、 1.高齢者から確実に、より多く保険料をとる。 2.高齢者の医療を制限し、入院や長期療養を困難にする。 3.保険料が払えなければ保険証を奪う。 この3点であるとして、相野谷さんは次のように語りました。 「所得が低く、病気が多いハイリスクの後期高齢者だけを集め、他の医療機関から切り離すことで、今後、医療費が上がれば保険料の値上げをするか、医療水準(診療報酬)の引き下げを迫るか。二者択一のひどい制度」 国民の間に怒りが広がっている 全日本民医連は、自公によってこの法案が強行採決されたとき、強く反対したそうです。可決されたあとは、この制度について問題点を訴え続け、いまも毎週水曜日に国会に行って座り込みをしながら撤回を求めていると語りました。現実の問題にならないと怒りにならないため、反応は今ひとつだったそうですが、実際に保険料が年金から天引きされたり、新たに保険料の負担が増え、国民の間に怒りが広がっている、と語りました。 現在、557の自治体が「中止・撤回」の意見書を出しているそうです。全会一致でないと意見書を出せない自治体もあるので、実際はもっとあると述べ、27の県の医師会も明確に反対していることを明らかにしました。多くの県の医師会が自民党の後援会なので、自民党議員は苦しい立場に追い込まれているそうです。 「見直し」ではなく、断固やめさせる 老人会などを中心に署名が広がっており、高齢者の怒りが高まっていると語りました。自民党に動揺が生まれており、地方は自民党議員が意見書を採択し、廃止を先導しているそうです。相野谷さんは、この制度は政府が主張している「見直し」などで問題が解決するようなものではなく、廃案以外に根本的な解決にならないことから、断固としてやめさせるということで運動を進めていく、との決意を表明しました。 また、保険料滞納者に保険証を強制的に取り上げて資格証明書を発行すれば、いま国保で起こっている以上の大変な問題が起こると警鐘を鳴らしました。現実に、制度が施行された直後、87歳の母と介護心中した男性がいたことに言及しながら、格差を広げ、弱い立場の人たちにさらにムチを打つような制度を実施した政府・厚生労働省を厳しく批判しました。 日本には高齢者を大切にする文化がある 相野谷さんは、日本では「喜寿」「米寿」というように、高齢者をみんなで祝う習わしがあり、伝統的に高齢者を大切にする文化があることから、「75歳以上の人は医療を受けるな」という政府のやり方は、長く続かないのではないか、との見通しを示した上で、そのような方向に向かうような運動を進めていきたい、と語りました。 質疑応答 質疑応答では、後期高齢者医療制について多くの人がその内容を理解していないので周知させる必要性があるのではないか、という意見や、政府は財源がないと言っているが、こんなに増税しているのになぜお金がないのかわからない、といった素朴な疑問や、団地がたくさんある町に住んでいるので、自治会などに働きかけ、この制度についての関心を高めていきたい、との意見なども出されました。 |
1位相次ぐ硫化水素自殺 ...(668p)
2位格差社会の元凶作った...(146p)
3位報道されないフランス...(84p)
4位リュ・シウォン来日 ...(84p)
5位「9条」の精神こそ世...(81p)
6位船場吉兆バッシング報...(71p)
7位ゲストスピーカーたち...(71p)
8位なぜ放置されるのか、...(68p)
9位道路特定財源で公演し...(50p)
10位一人暮らしなど少数派...(49p)
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