『夜のミッキーマウス



著者名:谷川俊太郎
出版社:新潮社
定価:1,500円(税別)

実を言うと、私はディズニーが嫌いなのです。
自慢だけど、生まれてから一度として、あの浦安のディズニーランドに言った事がない。どうだ、すごいだろ。生まれてからずっと関東在住なのにだぞ。彼女に誘われたって断固として拒否だぜ。うひひ。
理由は何となく。何となく、あの子供の夢と、商売がまぜこぜになった感じが嫌いというだけなのだけど。(でも、初期のクリエイティブな創造の業績は認めてます。はい。)
なので、「あんなネズミ野郎を見る為に疲れたくない」とディズニー嫌いを公言して憚らないのです。なので、その象徴たるミッキーマウスなんて嫌いなのです。だって現に今「みっきーまうす」とキーボードを打っても「ミッキー麻ウス」になっちゃうもん。「ドラえもん」なんて一発変換だぞ。そのくせ、偉そうに手袋なんかしやがって。という感じで鼻息も荒いです。
で、それは、もちろん昼のミッキーマウスに関してです。実際のところ、ミッキーマウスが夜に何をやってるのかは私の知るところではないのです。そんなとき、谷川俊太郎氏がこの『夜のミッキーマウス』を刊行したと聞いて、あの憎きミッキーをどのように料理しているのかと興味を持ち、この詩集を読み進めることにしたのです。

表題の『夜のミッキーマウス』という作品を含むこの詩集。あとがきにも書かれるとおり、特にコンセプトを持って書かれたというわけではなく、折々で書かれた様々な作品を集めた物となっている様子。

作品は、

夜のミッキーマウス
朝のドナルドダック
詩に吠えかかるプルートー
百三歳になったアトム

ああ
ママ
なんでもおまんこ

不機嫌な妻
有機物としてのフェミニスト
スイッチが入らない知識人
愛をおろそかにしてきた会計士

よげん
ちじょう
ふえ

三人の大統領
鍵を探す爺さん
無口
私らしき男

広い野原
目覚める前
あのひとが来て

雨のカポラ
いまぼくに
些細な詩
忘れること

永瀬清子さんのちゃぶだい
ひとつまみの塩
世界への睦言

五行

の29編。新しいものは今年。古いものは1995年に書かれています。特筆すべきは、やはりディスニー+アトムの4編と、『なんでもおまんこ』でしょうか。
ディズニーシリーズ(勝手に命名)は、つくりはキャッチ―だけれど、奥深い感じ。永遠の楽しさ(幸せ?)の象徴の彼らを上手く日常にシフトさせて、新しい側面を浮き出させている。悲哀?そんな簡単なものじゃないかもしれないけど、こんなミッキーだったら、日曜日に遊びに行って、チビッコと一緒に背中からキックしてあげてもいいかなという気分になります(笑
同じく勇気と未来の象徴のアトム。でも『百三歳になったアトム』は、現在の谷川俊太郎氏自身と重なって見えます。「いままで正しいと信じてきた道を邁進してきた自分。そしてもちろん結果も残してきた。でもこれから、どうしたらいいんだろう・・・。そう、ぼくはアトム(谷川俊太郎)。」というような感じ。
で、この詩集でみんなが飛びつくのが『なんでもおまんこ』!!
私も『なんでもおまんこ』のあまりの衝撃でこの詩集を買ったのです(笑
というか、タイトルがまずすごいよね。普通に。小学校4年生の教科書に載せて欲しい。いや、3年生?(笑
ともかくこのタイトルに尽きる。いやそうでもないか。中身もすごい。ちょっとだけ引用すると、

> なんでもおまんこなんだよ
> あっちに見えてるうぶ毛の生えた丘だってそうだよ
> やれたらやりてえんだよ


ときたもんだ。ってこればっかりだと私が馬鹿みたいだけど、普通に、ごく自然にこういった文句を持ってきてしまうその実力に脱帽するしかない。そして不思議な事に全くいやらしくない。(たぶん本人は相当やらしいと思うけど)
谷川さんは(突如「さん」付け)、自分が谷川俊太郎だった事をわかってる感じ。それさえも詩を面白くするファクターに使ってしまっている。それもかなりさりげなく。

という訳で、この詩集はかなり熟練した谷川節満載の詩集なのかもしれない。安心して楽しめる一冊といえるかも。
が、過去の詩集と比べて何かが違う気がするのは私だけだろうか。今回特に、この「谷川俊太郎特集」を組むにあたりデビュー当時からの作品をザーっと読みまくったのだけれど、この詩集にはいろんな意味で『老い』が感じられる気がする。それは衰えたという事でなく、あらゆることに成熟したと同時に、年齢を重ねる事を理解したというか。『老い』という言葉が適切でないとすれば、何と言ったらいいのかわからないのだけれど・・。でもそれは色々な意味で面白いものだと思う。現在72歳の谷川さん。いままで成し遂げてきた偉業を自分で感じつつ、この詩集を区切りに何か新しいところに行こうとしてるのかもしれない。

要するに、わたしもおまんこしたいのです(笑





  


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