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社説:高度外国人材 まず受け入れ環境の整備を

 外国人労働者の受け入れ問題は、日本が今後どのような社会を目指すのかにかかってくる。日本で働いてみたい、行ってみたい、と外国人から思われないような国では困る。日本を世界に開かれた国にしたいという点では反対は少ない。だが、受け入れとなると総論賛成だが、各論では意見が割れている。

 政府の経済財政諮問会議で、国際競争力を強化するため、専門的な知識や技術をもつ外国人の「高度人材」の受け入れを拡大する方針で一致した。高度人材の受け入れは、かなり前から政府方針となっているが、かけ声だけで実際にはそれほど多いわけではない。

 企業側は高度人材の受け入れに前向きというが、実態はお寒い限り。受け入れ態勢は整っていない。歌手など興行分野を除くと、高度人材は現在、15・8万人、そのうち6割が従業員300人規模の企業で勤務、大手企業には5%しかいない。全体の5割弱が非正規社員で「低賃金で便利に使える」という経営側の狙いが透けて見える。

 高度人材の定義もあいまいだ。「専門的・技術的分野」に該当するのは大学教授、弁護士、医師、語学教師、エンジニア、パイロット、歌手や運動選手などだが、技能の水準ではなく職業で決めている。

 受け入れを拡大するには、まず条件を整備すべきだ。高度人材の定義を明確にし、同時に企業が積極的にならなければ始まらない。企業が外国人を低賃金で使い捨てにするようでは、相手にされなくなる。

 諮問会議では民間メンバーが看護・介護分野も高度人材として受け入れを拡大するよう求めた。舛添要一厚生労働相は、安い労働力としての受け入れに反対した。その通りだ。

 介護で外国人を受け入れる前に、やるべきことがある。高齢化で介護人材の不足が深刻な課題となっているが、不足する介護人材を低賃金の外国人でまかなおうというのはやはり間違っている。これを「高度人材の受け入れ」として進めるのは無理がある。受け入れるからには、仕事に見合った処遇をしなければ、長続きはしない。

 今、問題なのは約100万人いる介護人材のうち、1年に20万人もの離職者が出ることだ。大学や専門学校では福祉・介護関連の定員割れが起きている。

 低賃金で過酷な労働の改善こそ、まず手を着けるべきだ。賃金水準を引き上げることで離職に歯止めをかけることができる。資格があっても働いていない潜在看護師、介護福祉士が75万人いるが、待遇改善すれば復帰する人もいるはずだ。

 インドネシアとフィリピンからは経済連携協定によって、介護福祉士が来日して現場に入る予定だ。新しい試みの経験も積み重ねながら、受け入れ計画を作ってもいいのではないか。

毎日新聞 2008年5月15日 東京朝刊

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