在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の資金や中央本部の不動産をだまし取ったとして、詐欺罪に問われた元公安調査庁長官、緒方重威(しげたけ)(73)、元不動産会社社長、満井忠男(74)両被告は14日、東京地裁(林正彦裁判長)の初公判で無罪を主張した。
検察側は冒頭陳述で「元長官らは東京・六本木のビルの地上げ事業で多額の資金を必要としていた」と動機を指摘。満井被告から資金詐取を提案された元長官が「私が前面に出るのだから、ギャランティーがないと踏み出せない」と分配を要求したことや、両被告が「総連を信用させられれば、所有権を移せる」と話し合った経緯などを明らかにした。
元長官側も冒頭陳述を行い、動機について「幼少期に旧満州から帰国した経験から人道的な同情心が芽生えた」と説明。分配金については「6月に総連幹部から聞くまで、総連の資金と知らなかった」と反論した。不動産詐欺については、資金調達役の経営コンサルタント、河江浩司被告(43)=分離公判中=を信用したと主張した。
公判は来年3月まで計35回の期日が指定されており、(1)元長官らに詐取する意図があったか(2)元長官と満井被告らの共謀があったか--が主要な争点になる。【伊藤一郎】
緒方元長官は検察出身。弁護士バッジを胸につけて初公判に臨み、「問答無用で立件を急いだ捜査に疑問を感じる」と古巣の捜査を強い口調で批判した。用意した書面を約5分間にわたって読み上げた元長官は「中央本部は現金や土地をだまし取ることのできる性質の案件ではない。刑事事件として取り上げたこと自体が間違いだ」と潔白を訴えた。
弁護人も捜査を強く批判。この問題について元長官を事情聴取した公安調査庁幹部が「首相秘書官と面談したが、厳しい態度だった」と述べたことを明らかにし、「捜査は首相官邸の不快感を反映し、政治的意図をうかがわせる」と主張した。
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元長官らは昨年4月、「中国での投資事業を中断する違約金を出してもらえれば中央本部の購入資金に充てられる」とうそを言い、総連から4億8400万円を詐取。同5~6月には、「資金提供者がいる」と虚偽の話をし、中央本部の土地・建物の所有権を元長官の会社に移転させてだまし取った。
毎日新聞 2008年5月15日 東京朝刊