向井亜紀(43)の実家は耳鼻科医院で、父は医者、母は高校で化学を教えていた。両親の影響を受けたのか、生き物が好きだった。「用水路からカエルの卵を集め、家の水槽でおたまじゃくしを育てました。カエルに変身していく様子にすごくドキドキした」
10歳の誕生日に顕微鏡を買ってもらった。うれしかった。畑の水たまりをすくって自宅に持ち帰り、ミジンコなどの微生物を観察したほどだ。中学や高校で生物を勉強するうちに、細胞の世界に魅了されていく。
特に遺伝子にロマンを感じた向井は生物の教師を目指し、大学受験は東京理科大(応用生物学)も併願した。00年12月の会見で、代理出産に挑戦する理由を「夫(高田延彦)の遺伝子を残したいと思った」と話したのも、ごく自然な気持ちからだった。
でも、心の中では激しい葛藤(かっとう)があった。最初の手術でがんを取り切れず、「子宮全摘」を医師に告げられたとき、向井はこの方法を拒否している。「私の病気のため、赤ちゃんをあきらめるのは納得できない。あと15週、計30週はおなかに入れて出産し、その後、治療を開始して生死を受け入れたかった」。しかし2度目の手術でも、がんは撃退できなかった。主治医や高田に当たり散らした。「おれは向井の命を守りたい」。最終的には高田の言葉で、全摘手術を決意した。
がんが発見される前から、向井は、米国で赤ちゃんを産んでくれる人を探す方法があることを知っていた。退院後、米国での代理出産を扱う「卵子提供・代理母出産情報センター」(東京都)を訪ねた。当時、国内でも代理出産を試みる医師はいた。しかし法制化されていない日本では、代理母やその家族も含め、正々堂々と代理出産を公表できない。カリフォルニア州やマサチューセッツ州などでは、州法などで代理出産が認められている。向井は誰に隠すこともなく、子どもを授かりたかった。(敬称略)=つづく
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毎日新聞 2008年5月14日 大阪朝刊
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