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ドル為替本位制は崩壊しない

サブプライム発の米国凋落論に行天豊雄氏が反論

為替相場で世界的な「ドル安」基調が続いている。サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題に端を発した米国経済の不調を受けた事態だが、これをもって米国の覇権とその象徴であるドル為替本位制の揺らぎの始まりと見る向きも多い。だが、「通貨マフィア」の異名を持つ元大蔵省財務官の行天豊雄・国際通貨研究所理事長は、「その見方は短絡的」と指摘する。その真意を聞いた。
(聞き手は日経ビジネスオンライン記者、谷川博)

問 現在の「ドル安」をどのように見ていますか。ドルを世界の基軸通貨とするドル為替本位制の揺らぎの始まりと見る向きもあります。

元大蔵省財務官の行天豊雄・国際通貨研究所理事長

元大蔵省財務官の行天豊雄・国際通貨研究所理事長
写真:清水盟貴

行天 ドルの退潮の端緒と見るのは、少し行き過ぎではないかと思います。

 というのは、1971年に米国がドルと金の交換を停止してドルの変動為替相場制への移行を決定した「ドル・ショック(ニクソン・ショック)」以降、世界的にドル安の傾向はずっと続いてきたるわけですから。それこそ、当時のドル・円相場は1ドル360円でしたが、現在は1ドル100円前後でしょう。その意味では、ドル安は第2次世界大戦後の世界経済史の基調になっている出来事と言えるのではないでしょうか。言い方を変えれば、1971年までのブレトンウッズ体制の下でのドルの過大評価を大きく調整したのが、ドル・ショック後の一連の過程だった。

 いわば、ドル安というのは、そういう歴史的なプロセスでもあるわけです。また、米国の経常収支の赤字が継続しているわけですから、今後も為替相場でドル安への圧力がかかり続けることは間違いないと思います。

 ただ当然のことながら、基軸通貨というのは単に為替相場だけで決まることではないのです。ゆえに、現在のドル安をもって基軸通貨としてのドルの退潮ととらえるのは、あまりにも短絡的な考え方ではないでしょうか。

 実際、過去の急激なドル安局面でも何度も似たような見方が浮上しましたが、現在に至るまで依然としてドル為替本位制は続いているわけですから。

ユーロはドルに取って代われない

問 国際的な決済通貨としてのユーロの存在感が増しています。各国政府の支払い準備通貨ではユーロの保有比率が20%台半ばに達しています。「近い将来、世界の基軸通貨はドルとユーロの2極体制になる」といった見方もあります。

行天 確かに、「ドルからユーロへの基軸通貨のトランジッション(移行)」を唱える人が増えてきていることは事実です。

 特に、最近はFRB(米連邦準備理事会)が米国経済の不調を受けて大幅な金融緩和を実施していますね。それに比べると、ECB(欧州中央銀行)の金融政策の方が少なくとも現象面では健全に見えます。実際、ECBはマーケットの「金利引き下げ期待」に対して抵抗し続けてきているわけですから。

 先ほどのような議論は、そうしたFRBとECBの金融政策の違いをドルとユーロの将来の役割に結びつけて考えている面もあるのではないでしょうか。

 つまり、「ECBのように健全な金融政策を取っている通貨は必ず強くなる」といった見方が議論の背景にある。そして「10年か15年ほど経てば、ユーロがドルに追いつき、追い越しているのではないか」と推測するわけです。

 そういう考え方が間違っているとまでは言い切れませんが、やはり短絡的な感は否めません。第一、現在のFRBとECBの金融政策の相対的な関係が今後10年以上も継続するとは考えにくい。欧州経済にも様々な問題があります。ECBが今のマネジメントをいつまで続けられるかは分かりません。

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日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、NBonline編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

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