神奈川県内に2つある結核医療の拠点のひとつ、南横浜病院が今年12月1日をもって廃止となります。国立病院機構が公告しました。2004年に国立病院が機構組織となってから、初めての病院廃止措置で、今後この余波が他にも及ぶものと思われます。
南横浜病院が廃止となる理由は、収支状況の悪化。「今後相当の経営改善を行うとしても収支改善の見通しが立たず、債務(約22億円)の返済もできないため」だそうです。 赤字を放置しないための措置としては、当然と考えるのが一般的であり自然な流れです。病院といえども経営効率からは逃れられないことを象徴する出来事です。 同病院は1937年、県立結核療養所として創設されました。勤務者らは「病棟の縮小や赤字経営の問題で、ある程度は予想していたが残念」(CBニュース)と今回の事態を冷静に受け止めているようです。しかし患者さんや家族にとってみれば重大な問題です。 国立病院というと、何となく安心感があって身近で頼れる存在です。難病対策などでは特に、その存在感はピカ一でしょう。その国立病院の行く末が気になります。全国の機構管轄143国立病院の経営状態はどのようになっているのか調べて、驚きました。2006年度(平成18年度)の財務諸表をみると、所轄病院143の多くが赤字経営となっています。 指標のひとつ、損益計算書をみると一目瞭然で、そのいくつかを示します(単位:百万円) 札幌南病院 収入合計(経常収益)1866 支出合計(経常費用)2421 損益△554 盛岡病院 収入合計 1952 支出合計 2294 損益△341 福島病院 収入合計 3217 支出合計 3658 損益△441 千葉東病院 収入合計 6006 支出合計 6368 損益△361 東京病院 収入合計 6965 支出合計 7328 損益△363 (独立行政法人国立病院機構調べ・端数処理) この結果から、いくつかの疑問点が浮かんできました。 赤字病院の廃止基準を明確にすべきではないのか 今後、国立病院の行く末はどうなるのでしょうか。 数字が示すように、国立病院の大半は赤字経営であり、財務改善を早急に行わなくてはならない状態です。一方、国民や市民の最低限の医療は守られるべきとの観点から、公的病院(県立や市立病院とも)を単純に赤字だからといって廃止するわけにはいきません。 南横浜病院の廃止にあたって明確な廃止基準が示されていないのはどうしてでしょうか。数値化したものが見えません。国立病院機構内部で論を尽くした末のことでしょうが、国民の医療を担う病院の廃止なのです。廃止に際しては、誰もが納得する明確な基準を国民に示すべきではないでしょうか。 不採算部門の医療をどうするのか 結核は民間では取り組みにくい不採算医療と言われています。また、日本の結核罹患率は諸外国に比べ高く、若年層にも依然広がりをみせています。それらの要因を考えたとき、他の疾患に比べ患者が少ないからといって、その受け皿を廃止してしまうことは少なからず問題です。 南横浜病院の廃止に伴う措置として、同院の結核患者は神奈川病院で受け入れるとしていますが、その神奈川病院も赤字経営です。この先、患者さんは本当に守られるのでしょうか。 国立病院機構の役割とはなにか 国立病院機構法の第3条(機構の目的)には次のように記されています。 独立行政法人国立病院機構(以下「機構」という。)は、医療の提供、医療に関する調査及び研究並びに技術者の研修等の業務を行うことにより、国民の健康に重大な影響のある疾病に関する医療その他の医療であって、国の医療政策として機構が担うべきものの向上を図り、もって公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的とする。
「国の医療政策として機構が担うべきものの向上」をうたっています。結核などの感染症は国策として予防や早期発見、治療に取り組むべきものです。その国策にあたる代表格の国立病院が経営効率化を進めなければならないのなら、どこまでその役割を担ってくれるのでしょうか。 効率経営はもちろんでしょうが、国民の医療政策を担うことが国立病院機構の大切な役割であることを忘れないで欲しいと思います。機構にはそれだけ難しい舵取りが求められています。
27点
あなたも評価に参加してみませんか? 市民記者になると10点評価ができます!
※評価結果は定期的に反映されます。
|
empro は OhmyNews 編集部発の実験メディアプロジェクトです |