中国四川省を震源とするマグニチュード(M)7・8の大地震は、近くの都江堰(とこうえん)や成都のほか隣接の重慶市、陝西省、甘粛省、雲南省など広い範囲に大きな被害をもたらした。
確認された死者だけで1万人を超えた。建物や土砂の下に埋まり、生死不明の人々も1万人以上いるという。震源地が通信状態の悪いチベット族やチャン族の住む山岳地域である。今後、さらに山奥での被害が判明する可能性もある。
中国政府は温家宝首相が現場指揮をとり、軍を投入して救助活動に当たっている。日本政府も応援の用意を整え要請を待っている。
中国当局も、地方と中央の間の意思疎通が混乱しているかもしれない。救助犬や医療チームの派遣など日本側から積極的に働きかけることも必要だ。いまは一人でも生存者を救い出すための手だてを考える時だ。
被災地近くで最近チベット族の暴動が起きたために、外国の支援を尻込みしているのだろうか。胡錦濤国家主席と個人的なきずなの深い福田康夫首相こそ、支援を申し出る最適任者である。中国が国際支援を受け入れることは、ミャンマーの水害救援隊受け入れにもつながるだろう。
なんとも痛ましいことに、建物の倒壊による生き埋めが学校や病院など公共建築に多く、子どもたちが犠牲になった。
中国の古い建物はレンガ積みで、構造的に耐震性が極めて弱い。それだけでなく、最近の拝金風潮で地方当局が教育への投資を怠り、校舎の老朽化を放置していたり、新築でも「おから工事」と呼ばれる手抜き工事の横行が問題になっていた。そのような社会的要因も被害を拡大したかもしれない。
震源地は、四川省のなかでもヒマラヤ山脈に接する「大チベット」の一部で、ユーラシアプレートとインド・オーストラリアプレートがぶつかり合う地震多発地帯だ。
3月、ここより北の新疆ウイグル自治区でM7・3の地震が起きていた。四川省では今回の地震の余震で山崩れが続発している。
気になるのは、電子メールなどで次の地震を予告する流言が飛び交い社会不安をあおっている問題だ。携帯電話が普及した中国では、電子メールで愛国心をあおりフランス系スーパーにデモをする事件が起きている。報道が統制されている国柄だけに、いったんメールが社会不安をあおる目的に使われたら、大きな混乱が起きかねない。
中国は聖火リレーの最中だ。8月の北京五輪にむけて全力疾走していた。思いがけない大地震に一瞬ひるんだろうが、必ず立ちあがり、五輪も成功させるだろう。阪神大震災や新潟県中越地震が記憶に新しい日本国民は、中国国民に心からの支援を惜しまない。
毎日新聞 2008年5月14日 東京朝刊