截金(きりかね)といえば、仏像や仏画に施された繊細優美な装飾を思い浮かべる。薄く延ばされた金箔(きんぱく)を、竹の刀で細い線やいろんな形に切り、それを張り付けて文様を作る技法だ。
仏教伝来とともに飛鳥時代に朝鮮半島から伝えられた。法隆寺の国宝・玉虫厨子(たまむしのずし)や正倉院宝物の中にも優れた作例が見られる。この伝統の技を近代の芸術としてよみがえらせたのが、齋田梅亭と西出大三である。
両巨匠の名品を集めた「截金の人間国宝展」(六月三日まで)を井原市の田中美術館で見た。一階に並ぶ西出作品の特色は、木彫の世界から入った確かな造形技術と岩絵の具による華麗な彩色、優美な截金が調和した豊かな芸術性といえようか。
好んでモチーフにしたのが鳥などの生き物。その表情は生きているようで、観察の鋭さに驚かされる。埴輪(はにわ)をイメージさせる「飾馬」は、平安王朝の文様が截金で施され、華やかな中に気品をのぞかせる。
二階に足を運ぶと、斬新なデザインで截金表現の可能性を広げた齋田の創作世界が堪能できる。花や魚を題材に絵画的な意匠を施した平面作品と、洗練された緻密(ちみつ)な文様を紡ぎ出した箱物。典雅な作風は独特の品格を醸す。
截金の魅力は、いにしえより人々の心をとらえてきた金の輝きにある。金箔芸術の美に浸れる好機だ。