自分の生まれ故郷などに寄付した金額に応じ、居住地の住民税が軽減される「ふるさと納税」制度が今月から実質的にスタートした。厳しい財政事情を背景に自治体の期待は大きく、魅力ある地域づくりや活性化につなげたい。
ふるさと納税は、四月三十日の改正地方税法の成立を受けて導入され、各自治体は五月一日から一斉に受け付けを開始した。先週末までに岡山県では一件、約一万円の申し込みがあった。佐賀県では四件、合わせて約二十七万円の申し出があるなど既に動きが出ている。
PR活動も活発化している。地方出身者が多い東京、大阪の事務所に専従班を設置したり、寄付をした人に観光施設の招待券など記念品を用意する自治体が相次ぐ。
ふるさと納税は、昨年十二月の与党税制改正大綱で地方と都市の財政力格差の是正などを狙いに導入が提言された。道路特定財源をめぐる国会の混乱で法制化が遅れ、当初の予定より一カ月ずれ込んで始まった。
寄付の対象は出身地に限らず、転勤や進学、観光で好きになった地域などどこでも選べる。希望する都道府県や市町村に五千円を超える寄付をした場合、寄付額から五千円を差し引いた額が居住する自治体の住民税から控除される。寄付の上限は年間住民税の一割である。
抜本的な財政力格差の是正策とは言い難いうえ、税の受益と負担の原則にも反するが、上限付きとはいえ国民が納税先を自由に選択できる仕組みの導入は意義深い。
生まれ育った故郷への恩返しだけでなく、自然保護や魅力アップなどに頑張っている地域を応援したいという気持ちが生かされる。税への関心も高まり、選ばれる側の自治体に緊張感が生まれるのは間違いない。
特徴のない街づくりをしたり、無駄遣いがありそうな所には寄付が集まりにくいだろう。逆に居住者の地域外への寄付が増えるかもしれない。差し引きマイナスになれば税収減に加え、地域のイメージダウンにつながる恐れもある。
ふるさと納税という言葉の響きは良いが、新たな地域間競争を促す厳しい側面があることを自治体関係者は肝に銘じる必要があろう。
一時的な人気取りのような対応では広がりは期待できまい。魅力と説得力を兼ね備えた寄付金の活用策を各地域が競い合ってもらいたい。さらに毎年、寄付を続けてもらうには、使途や効果などを報告する地道な取り組みも重要だろう。
福田康夫首相が、高度な技能を持つ外国人の受け入れ拡大を検討する推進会議の設置を指示した。町村信孝官房長官の下に、有識者や産業界、労働界で構成される。
政府の経済財政諮問会議が受け入れ拡大で一致したことを受けた。推進会議は、今秋をめどに検討状況を諮問会議に報告するとしている。
政府は、外国人の単純労働者受け入れには慎重姿勢を保ちながら、専門・技術的分野の労働者は積極的に受け入れる方針で、法務省など関係府省はこれまでも在留資格の要件緩和などを検討していた。今後は、福田政権として外国人の受け入れ拡大問題に本腰を入れて取り組むことにしたのだろう。
諮問会議の民間議員は、専門的な技術を持ち、在留資格のある外国人の数を二〇〇六年末の十五万八千人から、一五年末には三十万人に倍増すべきだと主張する。また、留学生が日本で就職する際のビザ発給の要件を緩和し、専門技術を持つ人材には積極的に永住権を付与するよう求める。
民間議員は、現在経済連携協定(EPA)を締結した国から限定的に受け入れる看護師や介護士なども高度な人材として在留資格の対象に加えるよう提案する。だが、厚生労働省は日本人の賃金が下がりかねないなどと反対している。
急速に進む少子高齢化による近い将来の労働人口の減少をにらめば、日本が活力を維持し、国際競争力を高めるには外国人受け入れは避けて通れない課題だろう。しかし、安易に門戸を開放しては混乱を招く。不当な労働を強いるなどトラブルが続発する外国人研修・技能実習制度の見直しも含め、外国人労働者との共生可能な労働開国に向け、議論を急ぐ必要がある。
(2008年5月13日掲載)