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淫乱で…
作:死に逝く翼



16


「う……わぁ」
 部屋を覗いた瞬間、やっぱり声を漏らしてしまっていた。ブルッと身体が震えて、それでも一歩中に踏み込んだけれど、それ以上先に進めなくなっていた。
 レンガ調で整えられた、割りと広めのその部屋には、今まで写真でしか見たことのなかったものが、たくさん揃っていた。大きな鏡があったりするのは普通のホテルにもよくあるけれど、それ以外は本当に実物は初めて見るモノばかりだった。
 ひときわ目を引くのが、壁にある赤いX字形の磔台だ。他にもイスの形をしてるのもあるし、何かギロチンみたいなのまである。それ以外にも、天井から鈎がいくつもぶら下がっているから、そこにも縛り付けたりするんだと思う。
 もちろん、ベッドの四隅からもそういう手錠みたいなのが伸びていたりする。

 ここは、そう。SMの部屋なのだ。

「どうした? 怖くなったか?」
 入口で立ちつくしていた私に、黒川が尋ねてきた。振り仰いだ黒川は相変わらず緊張とは無縁の、余裕な顔をしてそこにいた。
 怖いというのはなかったので、私は小さく首を横に振った。
 ただ、いつもどおり過ぎる黒川に、ちょっと腹立たしくなっていた。私はこの部屋を見ただけで、怖がるどころか、もうドキドキして眩暈がするほどの興奮を味わっているというのに。
 もう、アソコが濡れてきているっていうのに。
 だいたい、そうだ。黒川は絶対におかしい。
 私が勇気を振り絞って「そういう部屋に行ってみたい」と言ったら、アッサリOKして。
 それはまあそうかなと思ってたけれども、ラブホテルのSMルームじゃなくて、「会員制」とかいう、こういう部屋に連れて来るか、普通?
 そりゃまあ、普通のホテルだったら学校帰りに寄れはしないから分かるんだけれど……。
 知り合いが会員だっていう話だったけれど、どう考えたって黒川に利用経験はありそうだ。
 ……前は、誰と来たんだろう。

 って、ダメだ。
 どうして私はこう、思考が後ろ向きなんだ? いいじゃないか、黒川が前に誰と来たかなんて。
 今はこうして、私といるんだから。私と、私だけと、そういうことをする……。

 ヤバイ。
 ちょっと何か溢れてきてる? 下着にまで、染みてるかも……。
 だって、ココはそういう部屋で。それで黒川は私の知る限り、スゴイ虐めるのが好きなヤツで。そんな男に、私はこれから拘束されて、それで……。

 体温がドンドン高くなっていく。完全にそっちのスイッチが入ってしまっていた。私は半ば無意識のうちに、黒川のシャツの裾を引っ張っていた。
 黒川が、私の顔を見下ろしてきた。
 そこに私は見つけてしまった。いつものように、私を虐める時の、嬉しそうな笑みを。
 違う。
 いつもよりもっと、嬉しそうにしてる。

 あぁ。やっぱり黒川も楽しみなんだ。

 そう思っただけで、腰が溶けそうになってしまった。
 黒川が、手を伸ばしてくる。長い指が、耳をかすめるようにして私の髪を梳き上げる。頭の奥から痺れてきて、それが全身に広がっていく。
 ボーっとしたところへ、黒川の言葉が届く。
「それで、どれから使ってみる?」
 私はもう答えることもできなくて、ただ泣き出しそうな目で黒川を見ていた。
 黒川の笑みが深くなる。
「……ぁぁ」
 私の口から、恥ずかしいくらいに期待している女の喘ぎ声が漏れていた。



 黒川が、私の手を取って部屋の中を進む。手を引かれる私はバクバクする心臓を押さえながら、感覚の怪しくなった足でどうにか後をついて歩く。何だかもう、歩いているという感じさえしない。
 それでもどうにかたどり着いたのは、壁に掛けられた大きな鏡の前。
 縦も横も、私が手を伸ばした上でなお全身が映るくらいに大きい。
「ここで……?」
「そうだよ」
 私の背後に回り込んだ黒川が、鏡の前ですくんでしまった私を抱きすくめる。
 けれど私が期待したようにキュッと抱き締めてくれるのではなく、ホラと言って鏡を見るように促す。
 そこに何が映っているのか、さっきチラッと見ただけで目を伏せていた私は、ブンブンと首を横に振った。
「へえ? 言うこときかないんだ。ふ〜〜〜ん」
「ぅぅぅぅぅぅ」
 黒川の言葉が何だかとても意味深で。どんな風にも取れてしまって。もっとヒドイことをしてやろうか、とか。それとか……じゃあ、もういいや、とか……。
 それは、それだけは絶対にイヤで。
 でも黒川に、どういうつもりなのかなんて聞けなくて。
 結局私は唸るだけで、黒川の命令を聞くしかなくて。
「ぁぁ……やだぁ」
 鏡の中で、制服を来た女の子が泣き声を上げる。
 顔を真っ赤にして。恥ずかしさに泣き出しそうで。もう額に髪を汗で張り付かせたりしてて。
 そんな情けない姿で、黒川に抱き締められていて。
「蕩けそうな顔してるだろ? そんなに楽しみか?」
「はっ、はぁ、はっ……はぁ、あぁぁ、やぁ」
 耳元で囁かれて、いよいよ足まで震えてしまう。
 ああ、もう。どうして私は、こんなにイヤらしいんだろう。
 もう本当に、最悪なくらいだ。
「黒川ぁ……」
「分かってるって。じゃ、コレ嵌めてみな」
 黒川が取り出したのは、ネット上で写真だけは見たことのある、皮手錠だった。黒い革製のベルトを手首に巻き付けるタイプ。ただ、その左右のベルトを繋ぐ鎖が、今は外されていた。
「……」
「こっちは、足用な」
 息を呑む私に、黒川は同じようなベルトをもう一組み出してみせた。
「……嵌めるの?」
「そういうことをするために来たんだろう?」
 黒川が私の目の前で手錠を振ると、チャラチャラと鎖が音を鳴らす。
「……黒川は?」
「ん?」
「黒川は……私に、したい? そういう、こと……」
 そんなことはないと思うけど、でも万が一、ホントはイヤだとか、別にしたいともしたくないとも、とか言われたらどうしよう。
 不安が、私の声を尻すぼみにさせてしまう。
 そんな私に黒川は、いつものように卑怯な言葉で返してきた。
「そっちは、どうなんだ?」
 質問をそのまま投げ返す。しかも、黒川は拒否することを許してくれない。
 黙っていたら、いつまでもこのまま。
 もちろん、私からもう一度投げ返すことも許されない。
 いつの頃からか――ひょっとしたら最初から?――私は黒川に逆らえないでいる。
 望むと望まざるに、かかわらず。
「……しい……」
「うん?」
「して……欲しい……縛ったりとか……その、今までと、全然違うような……S……M、を……」
 そうして結局私は、改めて本心を吐き出させられる。
 恥ずかしいおねだりをさせられて、自分はHな変態だということを、イヤでも自覚させられる。
 だって、ほら……。
 恥ずかしいことを言わされて、イヤなのに……また、濡れてきてるのが、分かるから。
 それでも、いい。
 普段は冗談の中にも混ぜることのできない、本当の本心まで口にできてしまうから。
 黒川がどういう意味で受け取ろうと、今ならちゃんと、言えるから。
 半泣きの顔で黒川を見上げた。すがるように。
「でも……黒川でなきゃ、ヤだ……」
 言ってしまってから、ほとんど睨むように、必死に黒川を見つめる。
 いきなり、身体を反転させられたかと思うと、強い抱きすくめられていた。
 耳元で、黒川の笑う声がする。
「ホンット可愛いこと言ってくれるよな」
 頭をワシって掴まれて、黒川の胸元に顔を埋めさせられる。決して濃くはない黒川の匂いが、それでもクラクラするくらい。
 黒川の手が腰に回ってきて、もっと身体全体で密着させようとしてくる。私もそれに応えるように、両手を回して黒川にしがみつく。
「じゃあ、今日はせいぜい覚悟してもらおうか?」
 その言葉と、それはきっと、いつもより熱くて硬いように感じられる、そのお腹に当たるモノとで、私はもう軽くイカされてしまっていた。



「んっ……」
 黒い革のベルトが、私の手首に巻き付いてくる。初めて巻かれる革は、思ったほど硬くなかったけど、やっぱり手を動かすと縁の部分が当たってチョット痛い。
 でもそれは、本当に手錠をされてしまったという実感を与えるだけで、痛いからイヤとかには全然繋がらない。
「キツイか?」
 バックルを締めながら、黒川が尋ねてくる。私は小さく首を横に振った。
 本当はだから少しキツイんだけれども、でもその窮屈さが、どうにも私を疼かせてしまっていた。
 だって、本当に、拘束されているんだから。
「何かもう、完全に入ってるな」
「え? あ、うぅっ……」
 スイッチが切り替わってるなど、今さら言う必要もないのに、黒川はイチイチ言葉にして私をもてあそぶ。
 もう否定なんてできない私は、精一杯の虚勢としてそっぽを向くと、早く嵌めてしまえと反対側の手を黒川に突き出した。
「ひゃうっ!?」
 ヌメッとした予想外の感触に、背筋がゾクッときた。何をされたか瞬間的に分からなかったけど、身体はイヤになるほど正直で、ゾクッときたのとほとんど同時に、アソコが熱くなっていた。
「く、黒川っ……ちょっ、やあっ!」
 黒川が、私の指に舌を這わせる。私は逃れようと必死に腕を引くけれど、手首を握った黒川の手は、手錠以上に私の腕を拘束してしまっている。体重をかけて引っ張っても、ただ私の腕が痛いだけだ。
 握りこんだ拳も、無理やり開かされていく。そうして開いた指の股を、黒川の舌が突付く。
「うぁっ、あ、あぁ、やだぁっ……」
 何てことのない刺激。ほんのチョット舐められただけの、ささやか過ぎる愛撫。
 それなのに、背骨を抜かれるみたいにゾクゾク来てしまう。
 ダメだ。何かもう泣きそうだ。
「お願い、黒川、許して……や、やあ、やだ、こんな、こんなぁっ……」
 前戯なんかでイキたくない。
 涙声で訴えたのに。必死になって止めてっていったのに。
「んあああああっ!」
 人差し指をガリッと噛まれて。
 痛みは強烈な快感となって、私の脳ミソを揺さぶった。堪らず、私はそのままへたり込んでしまっていた。
 もちろん、イってしまったせいで。
「また簡単にイったな。そんなに良かったか?」
「……馬鹿ぁ……」
 私は涙でいっぱいになった瞳で、黒川を恨めしげに見上げる。
 それなのに黒川は笑っていて、嬉しそうに笑っていて……それで、私はもう本当に、わけが分からなくなっていた。
 まずあったのは、怖い、ということ。
 黒川にとっては、こんなの前戯とも言えないレベルなんだ。これから先、どんなことまでされてしまうのだろう。
 そう思うと、怖かった。
 だって私は、その前戯未満の愛撫で溶かされているのだから。本格的な行為に入った時、自分はどうなってしまうのか。
 きっと、壊れてしまう。
 そう思うと……怖くて……でも、待ち遠しい。
 そんな気持ちと一緒にあったのが、嬉しい、というものだった。
 黒川が、私に向かって笑っている。私の反応を、喜んでいる。そう思うと、何だか犬みたいだけど、自分も嬉しかった。
 黒川を喜ばせたことが誇らしくて、クラスの誰も、黒川のこんな顔を知らないかと思うと、この笑顔は私だけのものだと思うと、胸の奥から震えが来る。
「さ、いつまで座ってるんだ。立ちな」
「う、うん……」
 黒川が“命令”してくれる。
 それが、絶頂でへばった私の身体に活を入れる。私は萎えた足にどうにか力を入れて、よろめきながらも立ち上がった。
 それから軽く見上げるようにして、次の命令を待つ。
「よし。じゃあバンザイしてみな」
「ん……」
 私は言われたとおりに両手を高く上げる。
 黒川は私の手を取ると、天井から伸びていたフックに、私にかけた手錠を繋いでしまった。
 ガチッと、右手に続いて左手にも手早く手錠を嵌め、フックにかけられる。
 私はこうして、バンザイの格好のままで繋がれてしまった。
「うぁ……」
 フックは銀色の鎖の先にあって、鎖の輪は一つ一つが私の親指くらいはある、かなりシッカリしたものだった。
 試しに動いてみたが、手首が擦れて痛かっただけで、全然外れそうにない。
 本当に、拘束されてしまった。
 逃げようが、ない。
 完全に。
 どうしよう。もう本当に、黒川のしたいようにされちゃう。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 私は絶対におかしい。
 早くそうして欲しいって、さっきからそればっかり考えてる。
「じゃあ、次は足だな」
「ん……」
 黒川が私の足元に屈み込む。
 私は、左足に体重を乗せて、右足を黒川に差し出した。黒川が、私の足首に手をかける。
 それだけで、感じていた。
 全身性感帯とか、そういうのとは違うと思う。ただ、黒川にならどこを触られても、感じてしまいそう。
 黒川は、淡々としてるくらいで作業をしていた。私の足を肩幅よりまだ広いくらいに開かせて、手錠と同じような足錠を、靴下の上から私の足に巻き付ける。
 圧迫感に、息を呑む。
 そうして黒川は、それを手錠の時とと同じように……脇にある柱から伸びてたフックと、繋いでしまった。
 足を動かすと、ジャラッと音がした。余裕があまりないので、ほとんど動かせない。
「いい感じだな。じゃあ左だ」
「……」
 私はちょっとボーっとなってしまっていた。
 それでも黒川の指示どおりに左足を差し出し、それが拘束されていく様を食い入るように見つめていた。
 黒川の指が、私の足に錠を嵌め、柱に繋ぐ様を。
 ガチャリというその音は、いやに大きく聞こえた。
 こうして私は、手足を拘束されてしまった。
「黒、川……」
 声が、震えていた。
 立ち上がった黒川は、私からちょっと距離を置いて、しげしげと観察してくる。ゆっくりと、それこそ舐めるように、黒川の視線が私の身体を這う。
「や、やだ……」
 服は着ているのに、なぜか無性に恥ずかしい。
 手錠をされている手首。万歳をしているせいで覗いているおヘソ。スカートの裾から覗く太もも。
 どこを見られているか、何故か全部、分かってしまう。
 視線から逃れよと身体を捻っても、X字型で拘束されていては、ロクに動きようがない。
 そういう足掻いている様まで見られていると思うと、恥ずかしさはますます溜まっていって、泣きたくなってくる。
 黒川はすかさず、半泣きな私の顔に目を移す。
 私は頭を振ると、目を閉じて項垂れた。
 黒川は、視線を外さない。見なくても、それは分かる。
 黒川は、ジッと私を見つめている。黒川の視線が鎖となって、私の心を縛り上げていく。
 胸の奥がギュゥッとなって、それに搾り出されるように、涙が一滴、零れてしまっていた。
 その雫を、黒川が目で追いかける。
 胸が、苦しい。どうしてこんな、視線だけで、私は、感じてしまうんだろう。恥ずかしいのに、見られたくないのに、どうしてこんな、見られると身体が熱くなるんだろう。
 と、涙が頬の端から落ちたところで、黒川が移動を始めた。距離を保ったまま、私の右から、背後へと回り込んでいく。
 その姿が、アリアリと目蓋の裏に浮かび上がる。腕組みをした黒川が、私を背後から観察している。
 だからホラ、首筋がチリチリとして、背中が、ゾワッと来て……ムズムズ、する。
「ずいぶんと、また似合ってるよな」
 からかうような口調に、私は首を横に振った。
 黒川が、笑う。
「いや、絶対似合ってるって。自分でも見てみな」
 背中のすぐ後ろに来た黒川が、私に告げる。
 いや、違う。“命令”をした。
 私は恐る恐る顔を上げて、薄目を開けた。
 そこに、磔にされた女子高生がいた。さっきまでは黒川の陰になって見えなかった正面の鏡。そこに、私がちゃんと映っていた。
 足を広げ、両手は万歳の形で拘束されている、私の姿。
「は、はうっ……う、うぁ、ぁぁぁぁ……」
 想像以上に、卑猥な姿だった。
 鎖に吊られ、泣きそうな顔で腰を引き、しきりに身を捩る制服姿の私。
 ただ手錠という小道具が追加されただけなのに、信じられないくらい、私は淫らな格好に変身していた。
 それこそ、そう。牝に成り果てていた。
「似合ってるだろ?」
「ふぁ、あ、ああ……う、うぅ……」
 私は、とっさに首を横に振っていた。自分でもいやらしくて、似合いすぎてると思ったはずなのに。
 それでも、何故だか素直に頷けないでいた。
「そうか? オレは似合ってると思うけどなぁ」
 ゆっくりと、黒川の足音が近づいてくる。一歩踏み出すごとになる音が、私の心臓に突き刺さってくる。胸を押さえてうずくまりたいのに、拘束された身体では何もできない。
 イヤだ、怖い。黒川の考えが読めない。
 早く、早く黒川に謝らなきゃ!
「本当は、自分でも思ってるだろ?」
「ひゃうっ!?」
 黒川の手が、私の耳の後ろの髪を梳き上げてきて、私は情けない悲鳴を上げていた。暴れた拍子に、手足を拘束する鎖が音を立てた。
 それを宥めるように、黒川が私の頭を撫で、髪を梳き下ろす。
「ぁ、ぁぁ……ぅ、ぁぁ……」
 私は身体を硬直させたまま、されるままになっていた。
 ジーンとした心地良い痺れが、頭の天辺から全身へと降りていく。それが、私の硬直を解いていく。
 頭を撫でる黒川の手は優しくて、さっき感じた恐怖なんて、簡単に溶かされてしまって。
 そこへ、黒川の声が滑り込んできた。
「似合ってるよな? その格好」
「ぅ、ぁ……う、うん……」
 呻きながら、私は小さく頷いていた。
 命令だからじゃない。本当は最初に見た時から、自分でも相応しい格好だと思ってたから。
 黒川は満足そうに頷くと、もう1本、革ベルトのようなものを取り出した。
 そちらへ顔を向けようとした私を、黒川が正面を向かせる。
「こいつも、プレゼントしてやるよ」
 黒川が、私の首に、そのベルトを通していく。
 つまり、これは――。
「首……輪……」
 ガチッと首の後ろで金具がかみ合った。
 瞬間、フッと意識が遠のいた。
 ガクンと崩れた身体は、しかし手錠とそれに繋がった鎖とで、強引に引き止められた。
 瞬間的に正気づいた私は、慌てて態勢を立て直そうと足を引き寄せたが、それをまた足に繋がった鎖に阻まれ、見事に失敗していた。もちろん、とっさに突こうとしていた手も、ロクに動かないどころか、むしろ痛みを与えてくれていた。
「うぐっ」
 グンッと、体重がの手首と肩に掛かる。
 痛みが、私の頭に掛かった靄を払ってくれた。私はいったん鎖にぶら下がるようにしてから、どうにか体勢を立て直した。
「シッカリ立ってないとダメだろ」
「ご、ごめんなさい……」
 痛みと、叱られたという事実が、私に冷や水を浴びせることとなった。
 だが、それは結果的に私をより熱くさせる結果となった。
 鏡の中に、黒川の笑みを見つけたから。
 マヌケな奴隷にどんなお仕置きをしてやろうかと考えている、そんな顔だった。
 冷えた分を取り戻す以上に、私の身体は熱を持ち始めた。
 その落差に、クラクラと眩暈がしてくる。
「肩とか、まだ平気か?」
「う、うん……全然……」
 黒川の手が、私の肩に置かれた。軽く揉むようにされただけで、腰が抜けてしまいそうになった。
 本当を言うと、さっきの負荷の痛みもあったし、それに両手を上げたままというのは少し辛かったりもしたのだけれども、そんなことはもちろん口に出さなかった。
 何故ならこれは、私が望んだことだから。
 黒川も、私の本心など見抜くまでもなかったんだろう。一つ頷いただけで、手を肩から身体の脇へと進めていった。
 私の身体の側面を、黒川の手が滑り降りていく。
「ふ、ふぅ……ふっ……」
 ほんの軽く撫でられるだけでも、そこから私の中に大量の快感が流し込まれてきて、溺れそうになってしまう。黒川の指のせいで服がよれて肌に触れるだけでも、ビクッときてしまう。
「鏡、見てなよ?」
「う、うん……」
 言われなくても、私の瞳は鏡に釘付けになっていた。
 視覚と触覚で、黒川の動きを追いつづける。
 黒川の手は私の腰を過ぎて、太ももを少し降りたところで止まった。
 そこは、スカートの裾。
 黒川の指が、裾を摘み上げる。
「や、やだ……」
 その言葉も、反射的なものに過ぎなかった。拘束された身体を捩って腰を引いたのも、それに近かった。
 けれども黒川は、簡単に私を逃がしてしまっていた。そんなことをされては、むしろ困惑してしまう。
「黒……川?」
「嫌なのか?」
「え?」
「スカートを捲られるのは、パンツを見られるのは嫌なのか?」
 戸惑う私に、黒川は中断した理由ではなく、中断した行為の中身をいちいち丁寧に説明してきた。
 黒川は身を屈めているので、私の顔のすぐ側に、黒川の顔がある。
 言葉はダイレクトに頭の中に伝えられ、そこで映像を作る。
 鏡の中では、黒川の手は私のスカートのすぐ脇に留められていたのだが、それがまた裾を摘み上げ、スルスルと引き上げていく。
 パンツが見えそうになる瞬間、私はギュッと目を瞑った。
 緊張に身を硬くして、次の黒川の言葉に備える。
 しかし、言葉は来ない。
 警戒しつつ、恐る恐る目を開けると、黒川の手はさっきと変わらずスカートの脇にあるままで。私はようやく、妄想に怯えていたことに気が付いた。
「…………ふぅ、ん……」
「嫌なのか?」
 息を吐いた私の耳元で、黒川が再び問い掛けてくる。
 私は心を揺さぶられながらも、思うところを答えていた。
「い、嫌じゃない、けど……恥ずかしい、から」
「どうして?」
「どうしてって、そんな……」
 パンツを見られるのは、恥ずかしいに決まっている。おまけに今は……。
「濡れてるからか?」
 ズバリと言われて、返答に詰まる。何故なら、濡れてるどころの話じゃないから。何度もイカされてるから、「どうしてこんなに濡れてるんだ」ってくらいに濡れてるのが、自分で分かってるから。
 それを黒川に見られるのは、自分にも改めて見せられるのは、堪らなく恥ずかしい。
 そう言うのさえ恥ずかしかったので、私は小さく頷いていた。
「そっか。じゃあしょうがないな」
 驚いたことに黒川は、アッサリと私から離れてしまった。自分の顔のすぐ側にあった黒川の顔が離れて、ドキドキが遠のいてしまう。
「ま、待ってっ」
 とっさに呼び止める。けれども、それだけでは黒川は私の側に戻ってきてくれない。
「い、いいからっ……スカート捲って、いいから……」
 鏡の中ではなく、必死に肩越しに振り返って、本物の黒川に訴える。
 けれども、黒川にはまだ通用しない。
「いいぞ、そんなに無理しなくって。恥ずかしいから嫌なんだろ?」
「は、恥ずかしいけどっ…………イ、イヤじゃ、ないから……」
「ん?」
 ようやく、黒川の気を引くことができた。
 ここでためらってはいけない。黒川を引き寄せるには、どんなに恥ずかしくったって、言わなくちゃいけない。
「恥ずかしいこと、されるのっ……ホ、ホントに、ホントにだから、恥ずかしいけどっ……恥ずかしいけど、イヤじゃ、ないから……」
 その言葉だけで、もう十分立派に泣きたくなっていた。
 けれども、まだ足りない。もっとちゃんと言わないと、黒川は聞いてくれない。
 拘束された身体を思い切り捻って、少しでも真っ直ぐに黒川を見ようと足掻く。
「イヤじゃないから……恥ずかしいこと、して……」
「なるほど?」
 黒川が、私の頭に手を置いた。鏡の方を向きなおさせてから、また私の耳元に顔を寄せてきてくれた。
 嬉しい、と思ったのは、私がまだまだ甘かったから。
 ようやく放置から解放されると安心して、そうして次に来る刺激に身構える私に、黒川は小さな声で囁きかけてきた。
「だったら……な?」
 黒川の言葉が、私の脳裏に映像を描かせる。
「なっ!? で、できないよっ、そんな! 言えないってば」
「あ、そう? まあ、無理にとは言わないけどな」
「う、うぅぅぅぅ……」
 黒川がまた、顔を離してしまう。
 けれども今度はそのまま離れずに、私の肩に手を置いて、私が言われたことを口にするのを待っている。
 ああ、まただ。これじゃダメだ。早くしないと。グズグズしてちゃいけないんだ。
 私はさっき“命令”されたんだ。スゴクすごく恥ずかしいことだけど、それは確かに黒川から下された“命令”で。
 だから私は言うことを聞かなきゃいけなくて。
 今日は、そういうことをしに、ここへ来てるんだから。
 それにきっと、命令に従わないと、黒川は私を解放してしまうから。何事もなかったみたいに、私の手錠と足錠を解いて、今日はお終いって言われてしまうから。
 それは予想というにはあまりに確率が高くって。
 このまま疼く身体を放り出されるのは辛い。でもそれ以上に、黒川に「もういいや」って思われてしまうのが、怖い。
 その解放されてしまうことへの恐怖が、恥ずかしい命令を実行することへのためらいを、上回った。
「わ、わた、私……私、私の……」
 かといって羞恥が消えたはずもないわけで。
 それでも私はつっかえながら、“命令”を実行し始めた。
「私、私の……」
「私の?」
「私の……マ、マ、マ、マン、マン……」
「おいおい、どうした。大丈夫か?」
 黒川の笑い声が、私の羞恥をますます募らせていく。
 私はグッとそれを飲み下して、鏡の中の黒川に向かってお願いした。
「私の……私の、マ、マン汁でビショビショに汚れたパンツを、見てくださいっ」
 言った……言ってしまった。
 スイッチさえ入っていなければ、「何それ、馬鹿みたい」と思えただろうけど、そんな仮定に意味はなくって。
 むしろ、今なお馬鹿みたいと思えてしまうからこそ、その効果は抜群だった。
 そんなマヌケじみた言葉を言わされた恥ずかしさが、足元から一気に水位を上げてくる。
 そんな溺れそうな私へ、黒川が上からも羞恥を浴びせ掛けてくれた。
「しかしマン汁ってのも、卑猥ってよりマヌケな言葉だよな」
「う、ううっ、うぅぅぅぅっ!」
 あまりな言葉に、私はガチャガチャと鎖を鳴らして暴れ出した。
 ひどい、ひどい、ひどい、ひどすぎる。
 こんな、逃げられないように身体を拘束した上で、その身体ではなく、心をなぶりものにするなんて。
 ひどすぎる、絶対。
 ひどすぎるのに……。
 胸を掻き毟りたくなるくらい、恥ずかしくて情けないのに。せめて顔を覆うくらいしたいのに、それも手錠のせいでできなくて。
 今までにないくらい、恥ずかしい言葉を言わされたのに。どうしてこんな、ゾクゾク来てるの?
 変態だって、自分でも分かりきってたけど……まさかここまで?
 ああ、だけど、だけどもう!
 もう身体が疼きすぎて、我慢できない!
「お願い、お願いだから、黒川ぁっ!」
 ほとんど泣きじゃくるみたいに、私は恥ずかしいおねだりを繰り返した。それも、さっきより大声で。
「私のっ……私のマン汁でビショビショに汚れたパンツを、見て、くださいぃぃっ!」
 恥ずかしいのに、情けないのに、止められない。
 はしたない言葉で、必死に黒川におねだりをする。
「お願い、だからっ、パンツを見てぇっ!」
「分かった分かった。だから、そんなに暴れるなよ」
 黒川が、私の身体を背後からギュッと抱き締めてきた。
 それでようやく、自分がずっと身悶え続けていたことに気が付いた。それどころか、本当に涙を流していたことにも。
「はぁ、あぁ、は……あぁ……んっく……ふぅぅ」
 荒い息を吐き、唾を飲み込む。
 鏡に映った顔は見てられないくらい乱れてて、暴れたせいで手首と足首が擦れてヒリヒリしていた。
 黒川が私の髪を撫で付け、涙を拭ってくれた。
「それじゃあ、ちゃんと言えたご褒美に、希望どおりパンツを見てやろうかな」
「う、あ、ぁぁ……」
「自分でも、ちゃんと見てるんだぞ」
「……あ、ああ、うん……」
 頷いた私の頬に、黒川がキスをしてくれた。極度の羞恥でささくれ立っていた私の心に、落ち着きが戻ってくる。
 けれどもそれは羞恥心が消えたとか、そういう意味では全然なくて。むしろよりシッカリと、自分の恥ずかしさを把握してるとでも言うか。
 冷静というのとも、もちろん全然違う。今だって、泣き出したいくらいに恥ずかしい。
 けれども、ああ、そうか。
 今の私は何なんだと考えて、ようやく思い至った。
 そういうマネは、無闇に取り乱すのは、恥ずかしいんだ。みっともないんだ。黒川に仕える、奴隷としては。
 黒川のキスは、それを私に気付かせてくれたらしい。私の勝手な解釈だから、正解かどうかなんて知らない。それでも間違ってないと思う。
 だって私は、そうだ。
 黒川の奴隷に、なりたいのだから。黒川のものに、してもらいたいのだから。だから、黒川に相応しいようにしなくちゃいけない。
 自分の欲望に溺れるんじゃなくて、何よりも優先させるべきは、黒川なんだ。
 黒川は、やっぱりそういう私の思いも見抜いているのだろうか。私が今みたいに自分の中で納得させるまで、スカートを捲ってこなかった。
 ふと見れば、鏡越しに見つめられていて。私は思いっきり赤面しながらも、自分の取るべき行動だけは分かっていたから、それに従った。
「お願い……します。スカートを、捲って、ください……」
 口調も、自然と丁寧になっていた。
 黒川が、満足げに微笑む。
 自分の行動が正しかったのが分かって、ちょっと嬉しかった。
 そしてようやく黒川が、スカートの裾を摘んでくれた。
 ツッと、スカートが捲り上げられていく。
 自分で言うのもなんだが、いい感じに肉の付いた太ももが露になっていく。この辺は、黒川と付き合うようになってからかなり気を付けている。
 だから、ここはまだ平気。むしろ見て欲しいくらいで……。
 そう思えたのは、ほんのわずかな間だけだった。
 両端から持ち上げられていったせいで、前垂れのように私の股間を隠していたスカートの前も、ついに、すべてをさらけ出すために引き上げられていった。
 股間の部分が少し見えて……そして……。
「んっ……!」
 それは、濡れてるとかいうレベルを超えていた。
 元は、ちょっと薄めのパールピンクの、割りに可愛らしいパンツで。それこそ、実を言うならば見られても平気なように穿いてきたモノだ。
 なのに、そのクロッチは重く沈んでいて。そればかりか本当に太ももの方にまで濡れてきていて。
 何と言うか、いやらしいという以外にない光景に、足が震えてきた。
「これだけ濡れてたら、穿いてる意味ないよな」
「そんな、こと……」
 黒川が、裾をウェストに挟み込んだ。
 これでいよいよ、びしょ濡れになったパンツが丸出しだ。
「でも、いい加減に気持ち悪いだろ?」
「そ……れは……」
 言いよどんだのは、図星だったからだ。このままではちょっと冷たいし、何より多分、このままの方が恥ずかしいと思えた。
 こんなイヤらしく汚れた下着を見られるよりも、いっそ直接見られた方がまだマシのような気もする。
 だから黒川が脱がすぞと言った時には、あまり間を置かないで頷いていた。
 けれども。
「このままだと脱がせられないから、切るぞ」
「……え?」
 切る?
 それが何を意味するのか、なかなか理解できなかった。
「このまま下ろしても、足錠が邪魔になって脱がせられないだろ? だから、両サイドを切るんだよ」
 そういって黒川は、どこからかハサミを取り出して、私に見せた。
「き、切るって……え? で、でもっ」
「分かってるって。後でちゃんと、何でも気に入ったのを買ってやるから」
「そ、そうじゃなくてっ」
 替えの下着なんて、持ってきていない。
 それなのに、下着を切られたりしたら……。
「帰りは、ノーパンだな」
「ひっ……!」
 忍び笑いをするような、黒川の囁き声。
 私は思わず息を呑んでいた。
 そこへ、黒川は次々と言葉を注ぎ込んでくる。
「変に腰を引いて歩いたりすると、かえって人目を引くから気を付けろよ」
「そんな、そんな……」
「オドオドしなけりゃ、そうそうバレないから安心しろ。それとも、バレたいのか?」
「そんなわけっ!」
「だったら、いいだろう? オマエがノーパンだって知ってるのは、オレとオマエの2人だけなんだから」
 そこで、どうして「いいだろう?」になるのか、意味が分からない。そんなこと、全然いいはずないのに。これっぽっちも、良くないのに!
「わ、分かり……ました」
 私は、首を縦に振っていた。
 制服の下に下着を付けずに、街中を歩く自分の姿を想像しながら。
 いつもの見慣れた通学路を、いつもどおりに制服を着て歩く自分。
 ただ、スカートの下にはパンツが、ない。
 想像するだけで心臓が縮み上がりそうなのに、本当にやってみたらどうなるんだろうという、知りたい、やってみたいという衝動の方が、勝っていた。
 それに何より。
 これで、この場所で終わりじゃないというのが、嬉しかった。
 今からきっと色んなことをされて、私は精根尽き果てるだろう。それで、少し休んでここを出て……黒川と別れる。
 そのいつものパターンを、崩してもらえる。
 黒川と別れても、私は黒川と“命令”で繋がっていられる。
 それが、私には嬉しかった。
「じゃ、切るからな」
「は、はい……お願い、します」
 黒川が、右側にまず、ハサミを滑り込ませてきた。
 鉄の冷たさに、鳥肌が立つ。
 さすがに直視できなかったが、見たいという欲求も確かにあった。顔を背けながらも、薄目で鏡の中を窺う。
 ハサミがゆっくりと閉じられていき、布の裁たれる音がする。
 最後にジャキンと音を立てて、ハラリとサイドが解けていく。素肌が現れ、そこに少しだけ空気の冷たさを感じた。
「ふぅうぅぅぅぅぅ……」
 息を詰めて鏡を凝視していた私は、そこでようやく息を吐いた。
 心臓は、物凄く速いリズムで鼓動を続けている。
 肝心の部分は、まだ全然見えてこない。
「じゃあ、今度は左な?」
「は、はい……」
 ハサミの刃の間に布地が挟み込まれ、裁たれる。
 薄い布地が捲れ返り、パンツがハラリと……落ちなかった。
「や、やだっ、ああ!」
 お尻の方はちゃんと剥がれたのに、前の方が……。
 股間とヘアの辺りでベッタリと貼り付いたようになってて、ストンと落ちていかない。
 ベトベトになった愛液が、ノリの役割をしているんだ。パンツだった布キレが、ブランと股間にぶら下がる。
「み、見ないでっ……こんな、やああっ!」
 卑猥というより、マヌケすぎた。
 それなのに、黒川はニヤニヤと私を見つめている。
 恥ずかしくって堪らないのに、黒川の笑みは拘束具以上の効果を発揮していた。黒川が見てるんだから暴れてはいけないという思いが、勝手に私の自由を奪っていく。
 私は視線から逃げることもできず、ただうつむいて、黒川に鑑賞された。
 胸が焦げ付いていくようで、鎖を強く握り締める。
 ズルッと、パンツがずれた。
 私は、唇を強く強く噛んだ。
 バランスの崩れたパンツはそのままずり落ちていき……布が落ちたとは思えない音を立てた。
「ぅぁ、ぁ、あぁぁぁ……」
 あまりに情けなくって、いたたまれない。
 それなのに黒川は、わざわざ落ちたパンツを拾い上げた。黒川が握るとグチョッと音がして、それこそ愛液を搾れてしまいそうなほどだった。
「ホントに、ずいぶんと濡らしてたんだな」
「ご、ごめんなさ……んっ、くぅっ……くくっ」
 汚れた手を、私の下腹部で拭いていく。白いお腹に、愛液の跡がベトッと付けられた。
 私の身体は、外も中もますますイヤらしくなっていく。
 お腹なんかじゃなしに、もっと下を触って欲しくて、私は爪先立ちになって黒川の手を求めていた。
「ん? どうした?」
「はうっ……ん、あ、あぁ……触って、くださいっ」
 黒川の指が、濡れた恥毛を束ねてツンツンと引っ張る。
 かすかな痛みさえも心地良くて、だけど、もっと強い刺激が欲しくて。
「お願い、ですっ……オマ、オマ○コ、掻き回して、くださいっ……!」
 涙で潤んだ瞳で、黒川を見上げる。
 黒川が、何か悪戯でも思いついたみたいに笑って、私の目に映る黒川の姿はいよいよ滲んでしまう。
 ああ、お願い、もっと……!
「触ってやってもいいが、今日は一つ、宿題をしてもらおうか。なに、簡単なことだから――」
「は、はいっ……やります、やりますからっ」
 息せき切って、私は答える。
 黒川は後ろから私を抱き締めると、鏡を向くように促してきた。鏡の中で、私と黒川の視線がぶつかり合う。
「オマエの部屋にも、鏡はあるか? 全身が映るくらいの、スタンドミラーが」
「は、はい……」
「よし。じゃあ今日は、ノーパンで帰ったら、まずその鏡の前でオナニーするんだ。自分で全部、見ながらな」
「あ、あ、あ、あぁぁ……」
 私に下された、もう一つの命令。
 一人で隠れてするはずのものを、わざわざ自分で見ながらしろと……。
「分かったか?」
「は、はい……分かりました……ご主人、様……」
 その言葉を自然と口にした私は、こうして磔にされていなかったら、きっと黒川の靴にキスだってしていたに違いない。
 それほどまでに、私は、心を囚われていた。
 違う。自分から進んで囚われに行ったのだ。
 お願いして、捕えてもらったのだ。
 そう、黒川に。







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