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淫乱で…
作:死に逝く翼



15


「ホラ、しゃんとしろよ」
「……無理」
 黒川に身体を揺さぶられても、私はグニャグニャ揺れるだけ。完全に腰が抜けてしまっている。黒川に抱きかかえられていなかったら、そのままベタリと横に倒れてしまうに違いない。
「しょうがないなあ。だったら、今日はここまでにするか?」
「……やだ」
 首を横に振ることもできないけど、その提案だけは即行で却下した。耳元で、黒川が笑うのが聞こえた。
「なら、立って脱いでもらわないとな」
 そう言っておきながら、黒川がまた私の身体を抱き締める。背中からギュゥッとされると、まるで搾り出されたみたいに愛液が溢れ出すのが分かった。
「…………うあ」
「ん?」
 黒川が覆い被さるようにして、私の顔を覗こうとしてきた。私は、何でもないと言うように小さく首を横に振った。
 けれど、実際はかなりヤバイ状況だった。
 パンツを脱いでるせいで、スカートをかなり濡らしてしまっている。
 ……けっこう、ブルーな話だ。というか、情けない。
 だけど、スカートを脱ぐと言うのも、それはまた……。
「ねえ……黒川」
「うん?」
「服……脱がなきゃダメなの?」
「うん」
「……でも、脱がなくったってできるじゃない」
 私の反論に、黒川はチッチッチッと舌を鳴らした。
「屋上で裸になるのって、恥ずかしいだろ?」
「当たり前でしょ」
「うん、だよな。でも俺、恥ずかしがってるオマエの顔、けっこう好きだし」
 ………………。
 言葉を失うとはこのことか?
 何を言っていいのか分からなくなってしまった私の耳に、少し嬉しそうな黒川の笑い声が聞こえてきた。
 ……何かちょっと、シャクだった。
 そりゃあ、私だってしたい。今この瞬間だって、心でも身体でも黒川に抱かれたがっている。それに何より、どんな意味であれ、好きという言葉が聞けたのが嬉しい。
 そんな自分が、何よりシャクに触った。
 それに、このまま黒川に流されっぱなしというのも、納得しがたい。
「…………脱がない、って、言ったら?」
「今日はここまで」
 やっぱりか。
 けど、黒川だってその気になっているのは間違いない。だって、背中にソレが当たっているから。
 だから私は言ってやった。言うだけじゃなく、手を伸ばしてソレに触ってやった。
「自分だって、こんなにしてんのに?」
「してるけど、別に我慢できるし」
 ……最低だ、コイツは。
 ここで、じゃあ私も今日はいいよ、と言えない自分が恨めしい。
 私がうな垂れると、黒川は笑いながらも、また私を抱き締めてきた。どこまでも節操のない私の身体は、そんな刺激にさえ疼いてきてしまう。
「屋外でってのも、刺激があっていいと思うけどな。大丈夫だって、今は授業中だ。誰も来やしないし」
 ……私が脱げずにいるのは、そういう理由じゃあない。
「分かった。もし誰か来た時には、俺が責任を持って対処してやろう」
「んぁっ!」
 どう責任を持つか、その説明もないままに、黒川は私のうなじにキスをしてきた。
 ビクッと身体を震わせると、今度は黒川が私の胸に手を伸ばしてきた。
 考えてみれば、胸を触られるのは今日初めて。
 しかも黒川は、どういう器用さでか、ピンポイントに私の乳首を探り当ててきた。
「くぅっ……んっ、やっ、やぁっ」
「ははは。ブラの上からでも、乳首が固くなってるのが分かるぞ」
「馬、馬鹿……んんんっ」
 私が嫌がると、なぜか黒川が嬉しそうに笑う。
 笑いながらカリカリと、固くなった私の乳首を引っ掻いてくる。ブラ越しの、おまけにブラウス越しの刺激が、もどかしいだけに余計に私を疼かせる。
「やっ、やだって……んっ、あ、黒っ……川ぁっ」
 黒川の手を、上から押さえつける。けれどそれは黒川の動きを止めさせるというよりも、もっとちゃんと触って欲しいという思いの表れだったと思う。
 なのに(だけど?)黒川は私の手から逃れて、胸から手を離してしまう。
 その手は、私が切ない声を上げるより先に、私の身体に戻ってきた。
 黒川の右手が、スカートの裾から中へと潜り込んできて、私の太ももにフッと指が触れてくる。その五本の指が、何か薄い物でも摘まむように、スゥッと私の太ももを撫でた。
「んあぁっ! やっ、あぁぁっ……」
 その刺激に、身体は無意識のうちに前に倒れそうになる。そこを黒川の左腕に、ガッチリと押さえ込まれてしまう。
 そうして、右手が、ジワジワと。私の太ももを這い進んでくる。
「んっ、はっ、あっ……やっ」
「だいぶ、感じてるみたいだな」
「だ、だって……はぅっ!」
 フッと耳に息を吹きかけられ、悲鳴を上げる。
「屋上で裸になるってのも、いいと思うけど?」
「くふぅぅっ……!」
 左手で乳房を強く揉まれ、全身に力が入ってしまう。両足は、太ももを擦り合せるように。
 けれどもその合間に、黒川が指を差し入れてきた。
「ひっっっ…………あ、あぁ、あ、かぁっ……」
 ほんの少し、指先で入り口を軽く振れられただけなのに。それだけで私は、ドプッと音がしたかと思うくらいに愛液を零してしまっていた。
 黒川の指がその雫を受け止めたのも、肌を通して伝わってくる。
「ほ〜ら、こんなに濡らして。すごい熱いし。ホントは早くやりたいんだろ?」
 黒川が指を軽く動かす。クチクチとイヤらしい音が聞こえてくる。ビリビリした快感が、下腹部から全身へと広がっていく。
 思考が、溶けだしていく。
「さ、脱いで」
「…………ん」
 黒川が、私の身体から手を離す。私は両手をベンチにつくと、力を入れて立ち上が……ろうとして、失敗した。
 腰に力が入らない。
「ん? 脱がせて欲しいのか?」
 黒川の腕の中に逆戻りしてしまった私に、そんな言葉が投げられる。わざわざそんなことを言うもんだから、熱に煽られていた意識が冷めてきてしまう。私は肩越しに、不機嫌そうに黒川を見上げた。
 黒川は笑いながら、フォローのつもりかキスをしようと顔を近づけてきた。私は顔をそむけると、エイッと気合いを入れて立ち上がった。
 が。
 足元はやっぱり覚束なくて、つい、ふらついてしまう。
「っととと」
「おいおい。あんまり、そっち行くなよ。体育の授業してるから、下から見られるかもしれないぞ」
 冷めた頭に、その言葉は嫌にハッキリと聞こえてきた。そしてその言葉がキッカケに、ブワッと音を立てるほどの勢いで、外の世界が意識の中に戻ってきてしまった。
 グラウンドから聞こえる、生徒たちの声。
 通りを走る車の音。
 頬を撫でる風。
 降り注ぐ日の光。
 それらを一斉に感じ取り、私は息を呑んで固まってしまった。今まで分かっているつもりで、何も分かっていなかったことを思い知る。
 そう。ここは、学校の屋上なのだ。そして授業中とはいえ、大勢の人間が、すぐ近くにいる。そんな場所で、全裸になる? 
 できるはずがない。まともな人間のすることじゃない。例え、惚れた男の要求だとしても。
 ……なのに。
 なのに恐怖に凍りついた私の背中を、今度は快感の震えが走り抜けていった。
「はっ、はぁ、はっ、あぁ」
 息が苦しい。それくらいに興奮してしまっている。黒川にいろいろ教えられてきたけど、露出はさすがに初めて。
 それなのに、私は興奮してしまってる。あるいは初めてだから、余計に期待してしまっているのかもしれない。今までのどんな『初めて』も、黒川に教えられたものは、すべて私を虜にしてしまっていたのだから。
 冷えた身体が急速に熱くなっていく。もう、我慢ができない。
「黒川ぁ……」
「ああ、ちゃんと見ててやるよ」
 黒川が、どこかほくそ笑むような顔をして頷いた。
 その笑みに、私の心はギュンッと捕まってしまう。
 黒川が、私を、見ている。
 学校の屋上というシチュエーションに、黒川の視線が加味され、いよいよ興奮は高まっていく。
 全身が、もう燃えるように熱い。それなのに、ブルブルと震えている。手が。脚が。全身が。
 その震える手を、私はブラウスのボタンではなく、スカートのファスナーにかけていた。何度か引っ掛かりながらファスナーを下ろし、同じように何度も失敗しながらフックを外す。
 そして私は、手を離した。
「あっ……」
 一瞬のめまい。
 股間に風の冷たさを、黒川の視線を感じ取り、フラッシュを焚いたように目の前が白くなる。
 身体が浮くような感覚と同時に、私の膝は力を無くしていた。ガクンと膝が折れた衝撃で、私は現実に意識を引き戻されていた。慌てて足に力を入れて、体勢を立て直す。
 その時、愛液が雫になって零れ落ちていくのが感じ取られた。
 そして、それを、黒川が見ていることも。
「ずいぶん、濡らしてるんだな」
「や……違う、違う、これは、違うの……」
 からかうような黒川の言葉が、私には叱られたように感じられて、否定の言葉を繰り返した。
 その間も、黒川は私のアソコを見つめている。授業中の屋上で、剥き出しにされた私のその部分を。
「お願い……そんなに、見ないで……」
 かすれた声でそう言って、黒川から目をそらす。そうやっても、黒川の視線は痛いほどに感じられる。
 頭がグラグラして、平衡感覚が狂いだすほどに恥ずかしい。
 屋外で服を脱ぐのは想像以上に、泣きたいくらいに恥ずかしかった。本当に、顔から火が出そう。瞳が涙で潤んでるのが自覚できる。
 それなのに私は、しゃがみ込んだり、ソコを手で隠したりはしなかった。強烈な羞恥に震え、萎えてしまいそうな足に必死に力を入れて立っていた。
 黒川に、見てもらうために。
 だって、見られるのが気持ちいいから。
 露出プレイなんて初めてで、恥ずかしいだけだと思っていたのに、でもやっぱり、私にはもうその恥ずかしいのが、気持ちいいと同じになってて……。
「あぁぁぁぁ……やぁ、あぁ、黒川ぁ……」
 切なくて、もどかしくて。見られてるだけではもう足りなくて。
 私は自分で自分のお尻をギュッと握り締めていた。
 そうやってまた、愛液の雫を零してしまう。
 今までも、それこそストリップをするみたいに、黒川の見てる前で服を脱いだことはある。ソコを、しげしげと観察されたこともある。
 そういうことに、興奮させられたのも確か。
 でも、今はそれ以上に感じてしまっていた。
 もっと激しく興奮してしまっていた。いや、正確には興奮じゃない。欲情だ。
 もう、たまらない。
 早く、早く黒川に抱いて欲しい。
 ギュッとしてもらって、キスしてもらって、私の隙間を埋め尽くして欲しい。黒川だけを、感じたい。
 黒川が欲しい。早く。今すぐ。ここで。
「う、うぅぅっ、ひっく、うぅ……」
 もうほとんど泣きながら、黒川を見る。
 黒川は笑いながら、アゴをしゃくった。
「ぅぅぅぅぅ……」
 意地悪すぎる。
 私が待てないのを知ってるくせに、なおもお預けを食らわせてくれる。
 けれども、私は黒川に逆らえない。従う以外にどうしようもない
 もどかしさのために何度も失敗しながら、ブラウスのボタンを外していった。
「んっ!」
 脱ぎ捨てた瞬間、空気の冷たさにザワッと肌が粟立った。
 肉体の反応は、暴走する私の思考への燃料補給となってしまった。
 黒川に抱いて欲しい。
 この”屋上”で。
 私は、半ばむしり取るようにしてブラを外していた。
「はぁっ……くふぅっ!」
 露わになった乳首から、キュンッと快感が送り込まれてきた。思わず身体を丸めて、よろめいてしまう。
 空気に触れただけでこんなにも気持ちがいいのなら、黒川に触れられたら、私はどうなってしまうんだろう。
「はぁ、あぁ、はっ、はぁっ……!」
 どこまでも暴走する自分が怖くて、自分で両肩を抱き締めた。すがるように、助けを乞うように、涙に濡れた瞳で黒川の姿を求めた。
 ニッコリ笑った黒川が、おいでと言うように両手を広げていた。
 一瞬の空白の後、私は黒川を抱き締めていた。
 黒川に抱きとめられたんじゃあない。突進していって、黒川を抱きかかえていた。
 それこそ私は完全に暴走していた。
 ベンチに腰掛けている黒川に、私はほとんど覆い被さるようにしていた。
 黒川の頭を両手で抱え、一方的に唇を奪う。舌を差し入れ、黒川の唾液を全部すくい取るように躍らせる。
 そうしながら、跨っている黒川の脚に、股間を擦りつけるようにさえしていた。
 暴走というか、サカリのついた犬そのものになっていた。
「んっ、んんんっ……むぅっ!」
「んぅ、んふぅ、ふぅ、んんんっ!」
 驚き呆れる黒川の様子も、私には届かない。ただひたすらに、黒川を貪る。やっと触れることが許されたのに、離れるなんてできるはずがない。
 なのに。
「んんん……っぷぁ、こ〜ら!」
「や、やぁぁっ、いや、黒川ぁっ」
 黒川が私の頭に手をかけて、無理やり引き剥がしてしまう。ようやく触れられたのに、離されてしまう。そんなことにはとても耐えられない。
 私は黒川を抱き寄せようとしたが、今度はその腕を押さえられ、グイッと距離を取られてしまった。
「やぁっ、もうっ、どうして意地悪するのよぉっ!」
 私はもう完全に泣きじゃくっていた。それなのに、黒川は涼しい顔をして答えてくれた。
「だって俺、意地悪するのが好きだし」
「馬鹿馬鹿ば……んぁっ、ん、んふぅぅぅぅっ!?」
 そのキスは、完全に私の不意をついてきた。
 違う。キスなんて、甘いもんじゃない。
 私は舌で、黒川に犯されていた。滑り込んできた舌が、私の舌を絡めとった。
 反射的に仰け反った時、黒川の手が私の頭を押さえた……ような気がした。
 ズルルッと喉の奥まで黒川の舌が入ってきたような感触がして、私は呆気なくイってしまっていた。



「はぁ、はっ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 黒川の腕の中で荒い息を吐く。絶頂の余韻が引ききっていない身体は時々、痙攣するみたいにビクッと跳ねる。
 けれども、意識の方は少しだけ理性が回復してきていた。
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
 自分の暴走ぶりと黒川の意地の悪さが思い出されて、恥ずかしいやら悔しいやら。私は小さな声で唸りながら、黒川の胸に額を擦りつけた。
 そうしたら、だ。
「ひぁぅっ!!」
 黒川がいきなり、私の背中を指先で撫で下ろした。
 頭の中を鷲掴みにされるような感触に、全身が引き攣る。
 ただでさえ感じやすい背中を、イったとはいえまだ満足しきっていない状態の時にそんなことをされて、私は本当に、情けないほど簡単にイカされていた。
 またもや息を荒げる私の頭上から、笑い声が降ってくる。
「く、くろかわ〜〜」
 黒川の胸元から、目だけで見上げるようにして、恨みがましい視線を投げる。そうしたら、黒川の手がそっと私の頬に触れてきた。
 なぜか私は、黒川にされるままに顔を上げていた。
 そうしたら黒川の顔が近付いてきて。
「ん……」
 それは、とても優しいキスだった。
 唇と唇が触れ合うだけなのに、頭の奥が心地良く痺れてくる。
 ズルイとか卑怯だとかいう思いも、甘い疼きの中に溶かされていってしまう。
 いったい、何度このパターンを繰り返せば気が済むのか。
 そんなことも、もう考えられない……。
「はぁぁ……」
 黒川の唇が離れると、私は熱いため息を漏らしていた。けれどもまだ物足りなくて、その思いが目に出てしまっていたのか、黒川が小さく笑った。
「まあな。さっきの勢いで突っ走っても良かったんだけどさ。せっかくのシチュエーションなんだし、ちゃんと楽しまないと損だろ?」
 いかに自分ひとりで暴走していたかを思い知らされたようで、正直哀しい。
 目を伏せようとすると、黒川の指がアゴにかかってきて、私を上向かせた。
「あ……」
 黒川のキスは、ひどく心に染みてくる。
「さて。本番はこれからだ。その前に、風で飛ばされるとマズイだろ。ちゃんと服を拾ってきな」
 楽しげに告げる黒川に、私はこれからの展開を想像して頬を熱くしながらも、コクンと頷いた。
 ポンポンと、黒川が私の頭を撫でるように叩く。私はもう一度頷いてから、黒川の胸に手を付くようにして立ち上がった。
「あららら?」
 思うように脚に力が入らない。バランスを崩してよろける私に、「おいおい、大丈夫か?」と黒川が笑いながら聞いてくる。
 まったく。誰のせいでこうなったと思ってるんだか。
 私は小さく唸りながら、黒川を無視して制服を拾おうと歩き出した。いや、歩き出そうとした。
「ひぁっ!?」
 背後から力強く黒川に抱きすくめられ、思わず大きな声を出してしまっていた。
「ちょっ、どうしたのよ、黒……あぅっ、ん、あはぁ、あ、いや、黒川っ……!」
 屈みかけた身体を、強引に引き起こされる。急な展開に戸惑って、肩越しに黒川を振り仰ごうとしたら、胸を揉まれていた。
 黒川の大きな手が私の乳房を掬い上げ、細くて長い指が食い込んでくる。私の形を、重さを確かめるみたいに、指がギュッギュッと動く。
「んっ、あっ、はぁっ……あ、うんっ、んんんっ」
 少し痛いくらいなのに、それが気持ちいい。いつもと違った乱暴な手つきに、たまらなく感じてしまう。
「黒っ……川ぁっ!」
「ん〜? いや、背中が妙に色っぽかったんでさ」
 黒川が、私のうなじの辺りに、顔を押し付けるようにして答えてきた。
「な、何を馬鹿言って……んんっ、ん、あ……」
 不意の、らしいと言えばらしい誉め言葉に、不覚にも心を震わせられる。心の揺れはすぐに身体に跳ね返って、胸を揉まれる刺激と重なって、キュンッと胸の奥が苦しくなる。
 おまけに、私の髪に顔を埋めた黒川が、息を吸い込む音まで聞こえてきて、それで……。
「いい匂いがする」
「んんっ……!」
 ダメだ。
 言葉だけで、イカされてしまいそう。
「さっきは、私が、暴走……んっ、してるってっ……!」
「そ。だから今度は俺の番」
「あ、あぁぁぁぁっ……! お……お願い、黒川ぁ」
 自分でも、何がお願いなのか分からない。
 止めて欲しい?
 まさか。
 それじゃあ。
「入れて欲しい?」
「…………うん」
 小さく、けれどもハッキリと答えていた。
 それなのに、黒川の身体が私から離れてしまった。
「え? どうし……んああああああぁぁぁっっ!?」
 絶叫。
 いきなり、下から串刺しにされたと思った時には、意識は見事にホワイトアウトしていた。
「はぁぁ、ああ、あ、うぁ、あああ、あはぁ……」
 挿入だけでイカされ、バラバラにされてしまった意識が徐々に形を取り戻していく。視界に色が戻り、身体の感覚も戻ってきていた。
 離れたと思った黒川の腕が、私の腰と胸とをシッカリと抱えていた。
 太く、しなやかな、その腕。
 背中に感じる広い胸板と、力強い鼓動。
 そうして、私の中にある、熱い塊。
 私は、黒川に寄りかかるような形で、後ろから入れられてしまっていた。
「う……あ、はぁ、あぁ、くろか、わぁ……」
 左手で、私の上体を支える黒川の腕に触れ、右手でそっと、下腹部を撫でる。
 このすぐ向こうに、黒川がいる。私の中に。
 それはとても不思議で、素敵なこと。
「くろかわぁ」
 甘えた声で、男の名前を呼ぶ。
 黒川がそれに答えるように、ギュッと腕に力を入れた。
「あはぁっ」
 それだけで快楽に喘いだ私の耳元に、黒川が囁きかけてくる。
「もうちょっと、身体を反らせるようにしてみな。自分で立って」
 言われるままに身体を動かす。胸の辺りと腰を抱えられたまま、どうにか背中を反らせてみる。
「んぁっ」
「どうだ?」
「ん……奥まで、来た……」
 角度が変わったせいだと思う。黒川が私の奥にまで分け入ってきたのが、確かに感じ取れた。
 少し息苦しいくらいに、私は今、黒川に埋め尽くされている。
 充足感というしかない、この感覚。
「はぁぁぁ、あぁ……んんっ……」
 ため息をついて、ブルッと身体を震わせた。その動きが、黒川で自分の内側を引っ掻くみたいになって、私の身体にピリッと快感を伝えてきた。
「じゃあ、ちょっと動くぞ」
「うん……んあぁっ!? んっ、あっ、やぁっ、ダメっ!」
 私の変化を敏感に察した黒川に、私はもちろん同意した。けれども黒川が見せた『動き』とは、見事に私の意表を突いてくれた。
「やっ、やぁっ! あ、歩かれたらっ、響いてっ、ん、あはぁっ!」
 普通に出したり入れたりされるのとは、全然感触が違う。一歩を踏み出すたびに、直接内側から身体を揺さぶられるみたい。
 ありえないのに。その振動が、もうたまらない。
「んぁぁっ、やっ、許っ、してっ! ああぁっ!」
 繋がったまま歩く。その行為に、その刺激に私はあえなく屈服してしまう。得体の知れない快感に、泣きながら許しを求めた。
「ホラ、しゃんと歩けよ。そんなに体重を預けられたら、俺が痛いじゃないか」
「そんなっ、でもっ、あぅっ!」
「OKOK、もう着いた」
 不意に黒川の腕が私から離れた。支えを失った私は慌ててバランスをとろうとして……ガシャンと金網を掴んでいた。
「え?」
「ん?」
「……ひっ!?」
 とっさに悲鳴を飲み込んだ。
 私は黒川に入れられたまま、後ろから突かれながら、屋上の端にまで連れて来られていた。見下ろせばすぐグラウンドが、体育の授業風景が見えた。
「ダっ、ダメっ、こんな場所でっ」
 私は囁くように黒川に訴えかけた。
 もし誰かが上を見上げたりしたら……。
 恐怖と羞恥が、私の心に溢れてくる。
「うあぁぁっ!」
 けれども私の口から漏れたのは、快楽の悲鳴だった。黒川に思い切り突き上げられ、その一突きだけで身体がカッと燃え上がってしまう。
 私の意思に反して、肉体は黒川を求めて蠢き始める。
「やっ、やぁっ! ね、ねえ、黒川、んあぁぁ……ね、ねえ、あ、んんっ、ん、ま、待って……んあ、あぁっ!」
 私の反論を、私の肉体も黒川も許そうとしない。
 黒川はゆっくりと着実に、私の中を抉り立ててくる。大きな動きで、私の中を掻き乱す。
 ズズズッと私の中身を全部引きずり出すみたいにしながら抜いて行ったかと思うと、今度はまた私の中に押し入ってくる。
 それも、最後まで入ってきてくれない。入り口近くを擦るようにして、私を焦らせる。それも十分気持ちいいのだけれど、今の私の肉体はもっと激しくして欲しがっている。
 そこを見計らったように、黒川がズドンと奥に突き込んでくる。私は金網を握り締め、全身を伸び上がらせるようにして快感に身を捩る。
 けれどもすぐにまた黒川は退いていって、入り口辺りを攻めに戻る。
「あ、あ、あぁぁっ、こんな、こんなのっ……!」
 ここは、屋上なのに。
 今は、授業中なのに。
 すぐ側で、みんな真面目に授業をしてるのにっ!
 どれだけそう思ってみても、もう抑えきれない。
 もっと、もっと激しく突いて欲しい。
「いやっ、やぁっ! もう、黒川っ、黒川ぁっ!」
 グラウンドの誰かが、ふと顔を上げれば必ず見つかってしまうはず。
 裸になって、後ろから犯されている私の姿を見られてしまうに違いない。
 けれどももう、我慢できない。フェンスを掴んで、私は叫んでいた。喉を引き攣らせ、黒川を求めた。
「うん? やっぱり嫌か? それもそうか。誰かに見られるかもしれないもんな」
 意地悪く言った黒川が、動きを止める。そればかりか、私の中から出て行こうとさえする。
「あぁぁぁぁぁ……お願い、いや、もっと、もっと欲しいのっ、ねえっ、黒川ぁっ!」
 言いながら私は、出て行く黒川を追いかけるように腰を後ろに突き出していた。するとその分だけ、黒川が後ろに退いてしまう。
「いや……やぁ、お願い……もう、意地悪しないで…………黒川ぁ、もっと……もっと激しく…………」
 弱々しい声で黒川に訴える。けれども、まだ動いてもらえない。涙ぐんだ目で黒川を振り仰ぐ。
 黒川が笑いかけてきた。
 私の中で、何かが弾けた。
 いや、生まれた?
「……犯して、ください」
 それは単なる敬語ではなく、隷従の言葉。それが思いかけないくらい簡単に、スルリと口から出ていた。
 黒川がそれを私に言わせたがっていたのかどうか、それは分からない。多分、普通にねだっても良かったんだと思う。
 でも、私は自然とその言葉を口にしていた。正しいとかそういうんじゃなくて、そうするのが普通だったから。
 私は服従の意思を込めた瞳で黒川を見上げると、ゆっくりと前に向き直った。目を閉じて、少し身構えるようにしながら、決定的なの言葉を紡いだ。
「ご……『ご主人様』の、チ×ポで……わ、私のオ××コを、滅茶苦茶にして、くださいっ……!」
 恥も外聞もなく、淫らなお願いをする。
 プレイという意識もなく、ただ心のままに隷従と哀願を口にする。
 とんでもなく恥ずかしいことをしているという思いと、本当に滅茶苦茶に犯されたらどうなるんだろうという、強烈な快感への怖れとが、私の身体を震わせる。
 けれども私は、その快楽に溺れたかった。
「お願い……しまっっっあぁぁぁぁぁぁっ!!」
 アソコが、一気に燃え上がったよう。くすぶり続けていた快感が、一瞬で昇華してしまう。そして、それを追い抜くように、次から次へと快楽の波が押し寄せてくる。
「あはぁぁっ、あぅっ、んっ、んあぁぁっ!」
 ドンッドンッと深く激しい突き上げが連続で襲い掛かってくる。一突きごとに私の快感のゲージは急上昇して、私は背中を反らせて身悶えていた。
「ひぁぁっ、あぁ、んぐぅぅっ!」
 強烈な快感に、歯を食い縛って耐える。キツク金網を握り締めて、押し流されないようにと踏ん張る。
 けれどもどんな抵抗も、『ご主人様』の前には無力だった。
 大きな動きで縦横無尽に抉りたてられる。突き破るくらいに激しく、奥の奥まで貫かれる。一分の隙間もないくらい、私の中を埋め尽くされる。
 燃えるように熱い私の身体より、ずっとずっと熱いその存在に私は蹂躙され、翻弄され、そして心底屈服させられていた。
「さすがに、おねだりしてくるだけあって、大した感じっぷりだよな。こんなに、締め付けてっ」
「はっ、はぁっ、ふぅっ、んっ、んあぁっ」
 突き上げられるたびに、声を上げてよがった。奥まで突かれると、そこからドンッと快感の塊が打ち上げられるみたいで、叫んでないとどうにかなってしまう。頭のてっぺんまで、快感が溢れていく。
「何か、すごいいいぞっ、熱く濡れてて、絡み付いてくるっ」
「あっ、あぁっ、はぅっ……んはぁぁっ!」
 怒涛の快感に呑み込まれながらも、私はその言葉に、肉の快楽とは別の、心の悦びまでも感じ取っていた。
 もっと、もっと感じてもらいたい。
 断ち切られそうな意識の中でそれだけを思い、下腹部に力を入れる。
「おっと? 何だ、まだ余裕があるのか?」
「くぁぁぁっ、あ、やぁぁっ、ダメぇぇぇぇっ!」
 見返りに与えられたのは、さらに激しい突き上げ。
 瞬間的に、意識が途切れる。



「ほら、どうした?」
「んっ、あ、あぁっ」
 気が付けば、私は四つん這いになっていた。膝の下には、シャツか何かが敷かれてあった。
 そして背後からは、相変わらずリズミカルに突き上げがきていた。
 私の中で動かれるたびに、それは熱と硬度を増していくようで、私はただただ喘ぐだけだった。
「あっ、あぁっ……んはっ、あぁ、もう、こんなっ……!」
「ほら、下を向いてないで、前を向いて。そこからでも、グラウンドが見えるだろ?」
「は、はぁ……あぁ、はい……はいっ……」
 ほんの少し、動きを緩やかにしてもらえた。けれども快感を注ぎ込まれ続けていることに変わりはなく、私はその高みから降りるに降りられないまま、かすれた声で答えていた。
「こっちを見てるヤツは、見えるか?」
 言われて、目を凝らす。けれども床に這うようになった私から見えるグラウンドは、非常に限られている。
「んぁ、あぁ、見えま、せんっ、んんっ」
「そりゃ良かった。さっき、あんまり大きな声出すからさ、こっちを見たヤツがいたんだよ」
 数瞬送れて、私は言葉の意味を理解した。
 けれどその時には、黒川の手が私のお尻をシッカリと抱え込んでしまっていた。
「うあぁぁぁっ! んあっ、あっ、んくぅぅっ! あ、い、いぃっ、いあぁぁっ!」
 あまりに激しい動きで、黒川が私の中を抉る。
 私のお尻と黒川の太ももがぶつかり、大きな音を立てる。叩かれるみたいで痛いはずなのに、痺れるくらいに気持ちいい。
 アソコからは、グチャグチャといやらしい音がしていて。止めどなく愛液を溢れさせていて。
「あはぁぁっ、あ、あぁっ、いいっ……気持ち、いいっ!」
 どうにか、それだけを伝えた。
『ご主人様』に、感謝の気持ちを。
「そうか? じゃあ、俺もそろそろ、だしなっ」
「うっ、あ、あぁっ、はいっ、きてっ、出してぇっ! わたし、にっ……!」
 コンクリートの床に爪を立てながら、必死に声を絞り出す。そうでもしないと、今すぐにでもイってしまいそう。津波のように、快楽の波が襲ってくる。
「じゃあ、ホントに、そろそろっ」
『ご主人様』の手が、私の胸を握り潰す。吠えるように、私は快感に喘ぐ。
 私の中で、より大きく固く、熱くなっていくのが分かる。
 その熱の塊が、私の、そう。子宮口を撃ち抜いてくる。
 私は、泣いていた。
「いっ……く、からなっ」
 その声と、襲ってきた衝撃は同時だった。
「あ、あぁぁ、ああっ、私もっ、いくっ、いくぅっ、うっ、くぅぅぅぅぅっっっ!」
 私の身体の奥の奥までこじ開けられ、そこで爆発が起きた。灼熱というべき熱さと、爆発の衝撃が襲ってきて、私は無我夢中で叫んでいた。
 衝撃で私の全身は吹き飛ばされ、視界が暗転した。
 あっと思った時には、意識は急降下していき、それすらもスグに感じられなくなってしまった。



「……ん……」
「ん? 起きた?」
 薄く目を開けると、声が上から降ってきた。ボーっとしたまま顔を上げると、黒川がいた。
「5時間目が終わるまでまだあるし、寝てていいぞ」
「……ん……」
 私は小さく頷いて、また黒川の胸に顔を埋めた。
 その時、私は自分がブラウスを着ていることに気が付いた。正確には、着ているというか羽織っているというかだけど。
 徐々に、経緯が思い出されてくる。
 そうだ、私は……。
「……ふふ……」
「ん?」
 思わず笑い声が漏れていた。尋ねるような黒川に私は小さく頭を振ると、身体を丸め込んだ。
 恥ずかしいという思いは当然強かったけれど、なぜか幸せというか、そんな感じだった。
 失神するくらいに感じてしまった私を、黒川はどう扱ったのだろうか。
 今は、ベンチに座った黒川に抱きかかえられているわけだけど。
 マメな男だから、後始末もしたに違いない。
 やれやれだ、まったくもう。
「……ん……」
 私は寝返りを打つような振りをしながら、黒川に身体を擦りつけた。
 そんな風に甘えながら、心の中ではあることを決めていた。
 私が望むことを、黒川にねだるのはもう止めよう、と。
 黒川がしたいと思うようなことを、私の望みにしてしまおう、と。
 だって黒川は、私の『ご主人様』なのだから。







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