7 
 
 「……ふぅ」 
 グレープフルーツジュースを一息で飲み干した私は、大きく息を吐いた。それから、ふと今の自分の姿に思い至って、自然と笑みがこぼれてきた。 
 男の家の台所で、裸でジュースを飲む女。 
 これはなかなかにシュールな光景ではなかろうか。 
 
 少し、状況を説明しよう。 
 
 黒川のを初めて口でした私は、アイツの勧めに従って、台所に口をゆすぎに来たわけだ。で、目に付いた冷蔵庫を勝手に開けて、中のジュースをいただいた、と。 
 まあ、今さら黒川も怒りはしないだろう。 
 私は、コップにもう半分ほどジュースを注いでから、パックを締まった。冷蔵庫の中は、案外に中身が詰まっていた。黒川は、まめに料理するのだろうか。SEXにはスゴクまめな男だから、そうなのかも知れない。 
 そう思ってみれば、台所の器具も充実しているし、キチンと整理もされている。 
 ふーん、と妙に感心しながら、私はイスに腰をおろした。 
 それにしても……。 
 勢いで始めたとはいえ、まさかあんな流れになるなんて、思いもしなかった。 
 ついさっきまでの自分の行為を思い出し、私は一人で勝手に照れていた。 
 そんな時だった。 
「…………ん……」 
 なぜか、顔が火照っているのに、私は気が付いた。 
 そう思えば、身体が熱いようにも感じられる。 
「…………」 
 私は無意識のうちに、唾を飲み込んでいた。 
 しかしそれが、私の脳裏に先ほどまでの光景を思い描かせてしまった。その時の感覚が、いや快楽が一気によみがえり、ゾワッと鳥肌が立った。 
「あ……っ」 
 アソコが、ジュンと熱くなったのが、自分でも分かった。 
 どうしたんだろう。 
 自分でも分からないうちに、私はもどかしさで胸が苦しくなってきた。 
「…………」 
 私は、チラリと廊下の方へ目を向けた。その奥には、黒川の部屋へ続く扉がある。耳をすましても、何の物音も聞こえてこなかった。それでも念のため、確認のために立ち上がった。 
 廊下の向こう。閉ざされた玄関。その右手に、やはり閉ざされているドア。 
 私はもう一度、唾を呑み込んむと、ふらつく足取りでテーブルに戻った。 
 そして、そっとそこへ指先を忍ばせた。 
(ああぁ……っ。さっきまで、あんなにしてたのに……) 
 軽く触れただけでも、クチュッといやらしい音がした。私の指先は蜜に濡れ、ビクッと背筋が震えるほどの快感が走った。 
(どうしよう、こんな……んっ……。……ダメ……、でも…………) 
 身体はどうしようもなく疼いていた。その衝動に突き動かされ、アソコへ這わせた指が、自然と動き出そうとしていた。理性が慌ててそれを止めたのは、この場所のせいだ。 
 ここは、黒川の家のキッチンだ。 
 今は自室にいる黒川が、いつ出てくるかも分からない。 
 その時、私は何と言い訳すればいいのだろう? 
 いや、それよりも。 
 帰りが遅いという黒川の同居人が、たまたま早く帰宅でもしたら、どうすればいいのだ? 
 私はとっさに玄関の方へ目をやった。 
 無論、そちらからも物音は何もしなかった。 
「……平気、だよね……」 
 私は、声に出して呟いていた。 
 同居人はいつも遅いという話だし、黒川の部屋の扉が開いた時に止めればいい。何にも、問題はない。 
「大丈夫……。うん……大丈夫だよ」 
 私は自分を納得させるように頷いた。 
(それに、だって……、もう、こんなに……) 
 指先を、熱く潤んだその中に、ほんの少しだけ埋めてみた。 
「……んっ」 
 サアッと快感が広がり、呻き声が漏れでていた。 
(気持ちいいよ……、ホラ……、もう……!) 
 私の内なる声は、私を自制させるどころか、むしろ積極的に私の欲情を煽り立てていた。 
 ここは、黒川の家のキッチン。 
 その考えは頭から消えていなかったけれど、それで私が躊躇することは、もうなかった。むしろそれは、私の興奮を高めるスパイスと化していた。 
(見られたら、見られたら……。でも、でも……!) 
 私は一旦あそこから手を離すと、両手で胸のふくらみを揉み始めた。 
「あはぁ……っ、んん……っ」 
 切ない吐息が漏れる。 
 私はもう、身体の望むままに手を動かしていた。 
「ひっ、あぁ……」  
 指先で、硬く尖った乳首を摘まむ。 
 息を呑むほどの快感に、私は身をすくませた。 
 その間も、私の目は廊下の方へ向けられていた。その向こうにある黒川の部屋の存在が、気になって仕方がなかった。 
「あっ、あぁ……」  
 強くこね回すと、堪らず喘ぎ声が漏れる。 
 この声を聞かれたら……。いや……。 
(黒川……っ、黒川ぁ…………私……っ) 
 見て、欲しい。 
 それが、本音だった。 
 今の私は、見られることを恐れながら、それ以上に、見られることを欲していた。 
 そうだ。 
 最初から、私と黒川はそうだった。 
 黒川との馴れ初めになった、電車での出来事。 
 あの時の、黒川の瞳。 
 それを思うだけで、私はもう胸が苦しくなるほどに興奮してしまっていた。 
「あはぁっ、んぅっ、ふぅ……」 
 焦らすように乳房に這わせていた指を、下へ下へと下ろしていく。指先に、そこに生えた繊毛が触れる。それを優しく撫で梳き、あるいはツンと軽く引っ張ってみる。 
「んっ……、うふぅ……っ」 
 手始めの軽い刺激のつもりだったのに、ビックリするくらいに感じてしまった。私は慌てて喘ぎ声をかみ殺していた。 
 首を伸ばして、廊下の様子を窺う。 
 やはり、何の音も聞こえない。 
 ゴクリと唾を飲む音が、いやに大きく響いて聞こえた。 
 私は、いよいよソコヘ手を伸ばした。 
「ふっ、ふぁっ……、あっ……ん」 
 右手でソコを覆うようにして、ゆっくりと撫で回す。 
 左手では胸をきつく揉みながら、尖った乳首を摘まむ。 
「んぅ、ふぅ、ふぅぅ……」  
 興奮で、頭がクラクラしてくる。 
 オナニーがこんなにすごいなんて、今までまるでなかった。この場所が、この姿が、この状況が、かつてないほどに私を昂ぶらせている。 
「……あっ、あっ……黒、川ぁ……、んあっ、あぁっ」 
 頭の中で黒川の姿を思い描く。それだけで、私は声を上げてしまっていた。 
 黒川が、私を見つめている。 
「……ふっ、ふぅ……はぁ……」 
 私はうっすらと微笑むと、ゆっくりと脚を広げていた。イスには浅く腰掛けて、上体を背もたれにあずける。自分の恥ずかしい場所を、黒川に見せつけるように。 
「うふ……ふ……」 
 私は右手の中指と人差し指で、閉じ合わさっているその場所を開いていった。クチュッと、イヤらしい音が響いた。その姿勢で改めて、頭の中に黒川の姿を思い描く。ジュンっと、奥から新たな蜜が湧き出すのが自分でも分かった。 
「はぁ、はぁ……あっ、あぁぁっ!」 
 さらけ出したその中に、左手の指を突き刺す。 
 全身を貫くような快感が走り、 ガクンと身体が震えた。その反動で、イスが軋んだ音を立てた。 
「あっ、あんっ、あぁっ、い、いぃぃっ」 
 私はもう、遠慮なく喘ぎ声を出した。だって、黒川はとっくに私の痴態を見つめているのだから。今さら、何を遠慮するというのだろう。 
 そこを掻き回す指の動きは、ますます激しくなっていく。それにつれて愛液の量も増えていき、ピチャピチャという音が部屋中に響いていた。 
「くふぅぅっ!」 
 指を2本、根元まで刺し込んだ。そのまま掻き乱すように激しく出し入れさせる。見せ付けるためにその場所を開いていた右手は、いつしかそこを離れ、乳房を乱暴に揉んでいた。 
「ずいぶんと、激しくするんだな」 
「あはぁぁっ、だって、だってぇっ、黒川が、見てるからっ!」 
 頭の中に聞こえる黒川の声に、私はそう答えていた。 
「ふーん。サービス精神旺盛だな」 
「そんなんじゃっ、あっ、はぁぁっ」 
「なるほど。見られてると、気持ちいいんだ」 
「そ、そうっ、だからっ、あふぁっ、あん、んぐっ」 
 もっと見て! 
 私はそう叫びながら、左手の親指で、皮から飛び出していたクリトリスを押し揉んだ。 
「はっ……はあぁっ、あっ……んあぁ……」 
 私は惚けたように、口から涎を垂らしていた。 
 その手は、未だに秘所と乳房をまさぐっている。 
「あぁぁ……、あ……」 
「物足りないんだろう?」 
 黒川の声に、私は何度も頷いていた。 
 クリトリスへの刺激で、イクことはできた。けれども、それまでだった。その先にイキたいのに、そこまで昇り詰めることができなかった。私はイキそびれた不満をくすぶらせながら、自分の身体をまさぐり続けた。 
 欲しい。もっと、もっと…………。 
「いいのがあるじゃないか」 
 飽くなき欲求に悶えていると、黒川の声が響いた。 
 ふと見ると、机の上になぜかバナナが置いてあった。 
「あぁ……」 
 私は、期待と興奮に満ちた瞳でそれを見つめた。 
(舐め、たい……) 
 そう。私はアソコよりも、口にソレを求めていた。 
 これに舌を絡ませ、喉の置くまで突っ込んだら……。 
 そう考えただけで、濡れてきてしまった。もう、居ても立ってもいられなかった。 
「はぁ、はぁ……あっ、はぁ……」  
 半分ほど皮をむいたバナナを、両手でささげ持つ。 
 それから、一気に口の中に押し込んだ。 
「うぇっ……、うぅっ、あはぁぁぁ……」 
 思わずえづいてしまう。けれども私は、今まで欠けていた部分にカチリと何かが填まる感じを、確かに感じ取っていた。 
「はぁ、はぁ、はぁ……。あ、んんん……んむ……」 
 吐き出したバナナに、唾液がヌラヌラと輝いていた。 
 私は荒い息でそれを見つめていたが、おもむろに舌を這わせ始めた。 
 根元の方から、ツツーッと先端へと舐めていく。先っぽを舌先でつついてから、今度は大きく舌を使って舐め回す。塗した唾液を拭い去るように、先端を口に含む。唇をすぼめて、ゆっくりと引き抜く。 
「なかなか上手いじゃないか」 
「あ、あぁ、あぁぁ……」 
 私は夢中でバナナを舐めしゃぶった。硬く尖らせた舌先で、先端をチロチロと舐める。横向きに咥えて、唇と舌とをを滑らせていく。 
「ふぅ、ふぅ、ふっ」 
 いつしか、私の右手はそこへと伸ばされていた。そこは、さっきとは比べ物にならないほどの熱と蜜とが溢れかえっていた。 
「んぶぅっ!」 
 口にバナナを押し込み、同時に指をアソコに突き入れる。上と下とで快楽が暴発し、私は全身を引きつらせた。 
 そうだ。 
 私は、この暴力的なまでの快感が欲しかったんだ。 
 引き抜いたバナナを、また喉の奥まで咥えこむ。もちろん、アソコにも同じように指を突き入れる。 
 唇を引き締め、バナナを引きずり出していく。その間も、ねぶるように舌を絡める。そして下では、折り曲げた指が中の襞を引っ掻きながら、外へと戻っていった。 
 私の中で、回路が完全に繋がった。 
「んぶっ、ぶふっ、うぇっ、ふむっ」 
 上と下とで、猛烈なピストン運動が開始された。 
 ぐちゃぐちゃ、ニチャニチャと、淫らとしか言いようのない音が上と下とでしていた。 
 口の端からは、唾液が溢れて糸を引きながら落ちて行った。アソコからはとめどなく愛液が流れ出て、イスをビショビショにしてしまっていた。 
 身体が弓なりに仰け反っていく。 
 私はゾクゾクしながら、その時が来るのを待ち構えていく。 
「んっ、んんぅっ、んっ、ううむぅっ!」 
 無意識の躊躇が働いていたであろう、その限界を越えた深くにバナナを咥えた時、それが来た。 
「んぶっ、んふぅぅっ!!」 
 反り返った身体が、ギクンと痙攣した。 
 その瞬間、全身を猛烈な快感が駆け巡り、イスの感触が、自分の手足の感覚さえもが消失していた。 
 
「ふぅ……はぁ……はぁぁ…………」 
「気持ち良かったか?」 
「うん、すごく……」 
 答えかけて、ハッと気が付いた。机に突っ伏していた身体を、ガバッと跳ね起こす。 
 黒川が、そこにいた。 
「いっ、いやぁぁぁぁーーーーっ!!」 
 私は絶叫していた。 
 少しでも黒川の目から隠れようと、イスの上で身体を丸める。 
「馬鹿馬鹿馬鹿ぁっ! 何でこんなとこにいるのよ!」 
「いや、何でって、ここは俺の家だし」 
「そんなんじゃないわよっ!!」 
 私は真っ赤になって怒鳴った。 
 そりゃ、確かに黒川に見られたいと思ってたし、実際、そうなることを妄想しながら一人でしてたわけだけど、それとこれとは話がまるで違う。 
 妄想と現実との間には…………。 
 間に…………。 
「く、黒川……?」 
「うん?」 
「試しに、聞くけどさ」 
 黒川の様子を隙間から窺いながら、かすれた声でたずねる。 
「いつ……から、見てた?」 
「んー。どうだろう? 声がしたんで様子を見に行ったらさ、オマエが俺の方を見ながら脚を広げだしたんだよ」 
 ………………。 
 ということは、かなり最初の頃から? 
 まさか、私が妄想だと思っていた声も……? 
「馬鹿っ! 何で出て来るのよっ! 馬鹿馬鹿馬鹿ぁっ!」 
 私は恥ずかしさのあまりに泣き叫んでいた。 
 こんな、こんなことって、いくら何でも恥かしすぎる。 
「……うぅぅぅっ……」 
「いいじゃないか、そんな泣かなくても」 
 不意に、黒川の声がすぐ側で聞こえた。ビックリして顔を上げると、すぐそこに黒川が立っていた。 
「今日はそういうプレイだったと思えば、問題ないだろ」 
「あるに決まってるでしょ、馬鹿ぁ」 
 私が言い返した時だった。 
 黒川の手が、スッと伸びてきた。 
 思わず、ビクッと身をすくめた。 
 けれども黒川の手は、私ではなく、机の上に投げ出された、私がさっきまで舐めしゃぶっていたバナナに伸ばされていった。 
 黒川はそれを無造作に取り上げると、パクッと食べてしまった。 
「ちょっ、ちょっとっ!?」 
 私が驚いて声を上げても、黒川は「ん?」と、まるで何か問題でもあるのかというような目で私を見ていた。 
 …………。 
 さっきまで、私がオナニーの道具にしていたもの。 
 それを、黒川が食べていた。 
 モグモグと、口が動く。 
 私は、さっきまでの羞恥やらをすべて忘れ去って、その様子を魅入られたように見つめていた。 
 呑み込むために、黒川の喉が動いた。 
 と同時に、私もゴクリと唾を飲み込んでしまっていた。 
「ん? ひょっとして、食べるつもりだったのか?」 
「いっ、いらないわよっ!」 
 黒川が半分になったバナナを差し出してくると、私は慌てて顔をそむけた。自分の中に湧き上がった感情を、悟られないようにするために。 
 今日という今日は、私は心底自分が信じられなかった。 
 そう。 
 私はまたもや、そっち方面の感情に囚われていた。 
 つまり、欲情してしまったのだ。 
 私は、イスの上で膝を抱えて、その間に頭を埋めた。 
 とにかく、今はこの気持ちを抑えたかった。 
 これ以上黒川に、恥を晒したくなかったのだ。 
 考えてみれば、おかしな話かもしれない。 
 黒川とはセックス・フレンドなわけで、ここにはそのためにだけ来ているのだ。どれだけそういう気分になろうとも、隠す必要などないはずなのに。 
 でも、そのときの私は、隠したかった。 
 黒川に、これ以上淫らな女と思われたくなかったのだ。 
「試しに聞くけどな?」 
「…………」 
「俺に見られながら、いや、見られてると思いながらか。まあどっちも同じだけどさ、気持ち良かった?」 
 ビクッと肩が震えるのが分かった。 
 そんな質問に、答えられるはずがない。私はいよいよ身体を小さく丸めてしまった。 
「実はな、俺はすごい興奮したんだよ。見ててさ」 
 その言葉を理解するのに、しばらく時間がかかった。 
「正直、かなりそそられるモンがあったな」 
 ゆっくりと、その意味が私の中に浸透していった。 
 私は、オズオズと顔を上げた。 
 私のすぐ隣に、黒川が立っていた。 
 黒川は、なぜか笑っていた。 
「今もそうなの、分かる?」 
 言われて、私は気が付いた。すぐ目の前にある黒川の股間。そこは、確かに盛り上がって見えた。 
「…………」 
 つい、グビリと喉を鳴らしてしまった。それに気付いて、慌てて顔を伏せた。すると黒川は私の手を取り、自分のそこに押し当てたのだ。 
「あっ、ちょっ……」 
「分かる?」 
「…………」 
 顔をそむけたまま、私はコクンと頷いた。 
 息が荒くなってきてるのが、自分でもハッキリと自覚できた。抑え込もうとしていた欲情が、黒川に煽り立てられ、一気に燃え広がろうとしていた。 
「約束では、場所と時間はそっちが指定することになってるんだけどさ」 
「…………」 
「俺は今、ここでしたいんだけど?」 
 さっきと同じように、ビクッと肩が震えた。けれども、それの意味はまるで異なっていた。私は、黒川の言葉を胸の内で反芻していた。 
 今、ここでしたい。 
 つまり、黒川が私を求めているのだ。 
「………………」 
 私は黒川から顔をそむけたまま、小さく頷いた。 
 それは、嬉しさにほころんだ顔を見られたくなかったから。 
 黒川が、私の顎に指をかけた。 
 黒川のキスは、バナナの味がした。 
 
 
 
「やっ……あっ、あんっ……、ちょっ、待っ!」 
 テーブルの上に抱え上げられた私は、さすがに戸惑いを隠せずに、黒川の手を押し止めようとした。 
「ホ、ホントに、ここで、あっ、やっ、だから待ってって、ひっ!」 
「今ここでって、そう言っただろ?」 
 黒川は、さも当然と簡単に答えた。そうして私の身体を押し倒し、サッサと愛撫に入ろうとする。私は何とか逃れようと身をよじるのだけれど、黒川の手で、テーブルの上に大きく両手を広げた形で抑え込まれてしまった。 
 すかさず黒川が、私の乳首を口に含んだ。 
「やっ、ちょっ、ホント、恥ずかしっ」 
 それは、かなり本気の言葉だった。 
 台所でというのが、それは何だかあまりにも……。 
 私の気持ちがようやく伝わったのか、黒川が顔をあげた。そして、ジッと私を見下ろしてきた。 
「そうだな。台所で裸ってのは、恥ずかしかろう」 
「え……?」 
「ま、相応しいやり方というか、格好があるからな」 
 黒川はニヤリと笑った。その笑みに不吉なものを感じた時には、私の身体は引き起こされていた。そしてその時にはすでに、黒川の手にはイスの背もたれに掛けてあった布が収まっていた。 
「ちょっ、それって……」 
「はい、後ろ向いて」 
「馬、馬鹿ぁ、黒川の変態ぃ……」 
 私は涙声で黒川を罵倒しながらも、なぜか大人しく、黒川にされるがままになっていた。 
「信じられない。アンタにこんな趣味があったなんて」 
「いや、俺に限らないと思うけど」 
 一歩下がった黒川が、上から下まで舐めるように見る。 
 私は、その視線から逃れるように身をくねらせた。 
「そうやって動くと、余計にHぽいぞ」 
「…………」 
 私は唇を噛み締めてうつむいた。 
 何というべきか。 
 裸にエプロン。 
 私も話には聞いていたけど、するのはもちろん初めてだ。そしてその格好は、とても恥ずかしいものだった。 
「うんうん。良く似合うぞ」 
「……馬鹿ぁ」 
「いや、ホントだって。見せてやるよ」 
「え? あっ、ちょっとぉ」 
 黒川は私の手を引くと、壁に寄せてあるスタンドミラーの前に私を立たせた。 
「ぅ、ぅぁ……」 
「だろ?」 
 思わず声を漏らした私に、黒川は嬉しそうに言った。 
 そう。 
 思っていた以上に、その格好はエロチックだった。 
 紺色の、シンプルなエプロン。サイズ的には私に丁度。 
 布の面積が特に小さいわけではないので、隠されるべきところはちゃんと隠されている。 
 でも、それが余計にエッチに見えた。 
 胸の谷間や、剥き出しの手足が、妙に艶かしく見える。 
「ぁぁ……」 
 鏡を見つめる私の口からは、熱い吐息が漏れていた。 
「どう? 自分で見ても、興奮するだろ?」 
「そ……んな……、あっ」 
 言いよどんでいると、脇の方から黒川がエプロンの中に手を差し入れてきた。その指先が、乳首をちょんとつついた。 
「やっぱりな。もう硬くなってる」 
「い、いやぁ」 
「いいじゃないか。もっと素直になれば。そのために、ここに来てるんだろう?」 
「あっ、あぁっ、はっ、ふぁぁっ」 
 黒川が、私の首に舌を這わせる。思わず私は身体をよじる。そのすべてが、鏡に映し出されていた。 
「そうそう。ちゃんと鏡を見て」 
 言われなくても、私の視線は鏡の中の自分に釘付けとなっていた。 
 エプロンだけを着た女が、身体を弄られている。男の両手が胸を揉むのが、布地の上からでも見て取れる。布地が押し上げられ、モコモコと蠢く。 
 そして鏡の中の女は、顔を赤くして身体をよじる。 
「あっ、あぁぁぁっ、こんなっ、私っ……、うんっ」 
「ふんふん。良い反応を見せてくれるじゃないか」 
「あぁっ、そんなことっ、あっ、あぁっ……」 
 乳首を摘ままれ、私は言葉を詰まらせる。 
 ふと、黒川の手が離れた。 
「あ……?」 
 私は、鏡の中の黒川に目で尋ねた。黒川が、ニヤリと笑う。 
「せっかくだから、次のステップも行ってみよう」 
「つ、次……?」 
「そう。エプロンの裾、捲くってみて」 
「そっ、そんなっ」 
 私は思わず、肩越しに黒川を振り返った。黒川は両手で私の顔をそっと挟みこむと、鏡のほうへ向き直らせた。 
 鏡の中の黒川は、嬉しそうに笑っている。 
 その隣に移る私は、オドオドとした顔をしている。 
「そのまま鏡を見ながら、ゆっくりと裾を捲くって。アソコが、丸見えになるくらいに」 
「あ、あぁぁぁ……」 
 まさかそんなことを言われるなんて、思ってもみなかった。けれども私には、それに逆らうことも拒絶することも、できなかった。 
 普段の私からは信じられないほど、今の私は弱かった。 
 すがるような目で、鏡の中の黒川に訴えかける。 
 黒川は、ニヤリと笑って頷いた。 
「あぁ、うそ、こんな……」 
 今日はもう何度目だろう。自分を信じられないと思ったのは。 
 けれども、それが現実だった。 
 私は泣きそうな顔になりながらも、黒川の命令を(そう、命令だ)実行するために手を下ろしていった。 
 エプロンの裾を、ギュッと握り締める。 
 心臓の音が、バクバクとうるさかった。 
 そして、私は、ゆっくりと、裾を捲り上げていった。 
「あっ、あぁぁぁ、やっ、やぁぁ……」 
 私は、興奮のあまりすすり泣いた。 
 その間も、手は止まらない。 
 鏡に私の太ももが映し出される。 
 裾は、さらに上っていく。 
 そして、鏡の中に、私のその茂みが、映し出された。 
「はっ、はっ、はっ、はっ……」 
 気が付くと、私は肩で息をしていた。 
 私は、下腹部が丸出しになったところで、ようやく手を止めた。 
 鏡には、エプロン以外は何も身につけていない女が、その唯一の衣類であるエプロンの裾を、あそこが丸見えになるように捲り上げている姿があった。 
 その顔は真っ赤になっていて、瞳は欲情に潤んでいた。 
 それが、私だった。 
「あっ、あぁぁっ、あっ……」 
 意味のない呻き声が口からこぼれ、膝がガクガクと震えた。世界がグニャリと歪むような感覚がした。 
「おっと、危ない」 
 倒れそうになった私を、黒川が支えてくれた。 
 そんな、自分で立っていられなくなるような状態でも、私は捲り上げた裾から手を離してはいなかった。 
「おっ。見ろよ」 
「あ……? あっ、いやぁぁ」 
 私のアソコから、愛液がツーっと糸を引いて零れ落ちていった。その様子が、鏡の中に映し出されていた。 
「ふーん。零れるくらいに濡れてるんだ」 
「うっ!」 
 黒川が、私のあそこを指で開いた。 
 さっきよりも大きな雫がポタポタと落ちて、フローリングの床に染みを作っていく。 
「あぁぁっ、お願い、もう……っ」 
「そうだなあ。もう前戯なんて必要なさそうだし。でもその前に……」 
 黒川が、私の脚を肩幅まで開かせる。私はもうとっくに黒川の言うがままだ。身体の中で出口を求めて暴れ回る衝動をどうにかして欲しくて、はいはいと言われるとおりに動く。 
 そうして脚を開くと、すぐにアソコに熱いモノが押し当てられた。それが、ズルッと動いてその部分をこすってきた。 
「はっ、はぁぁっ!」 
 私は首を仰け反らせて絶叫した。 
「おいおい、せっかくなのに鏡を見なよ」 
「え? あ……、あぁぁぁっ、やぁっ、はっ、あくぁっ」 
 まるで、私のそこから、男のモノが生えているようだった。 
 ここまで興奮してなければ、それが素股という行為だと分かったのだけれど、とにかく今の私にはそんな判断はできなかった。その異様な光景に目を奪われ、そしてそこから沸き上がるどうしようもない快楽に身体を震わせ、声を搾り取られた。 
「あっ、あぁぁっ、うそっ、こんなっ、あっ、あっ、あぁっ」 
 それが前後に動く。その度に私の背中を電流が駆け上る。身体が震えだし、涎が零れる。 
 そのすべてが、鏡の中に映し出されていた。 
 それはとても恥ずかしい姿で、目を覆うばかりにイヤらしい光景だった。それなのに私はエプロンの裾を放そうとせず、その光景を食い入るように見つめていた。 
「あっ、あぁぁっ、はっ、わ、私っ……、私っ、あぁっ」 
「けっこう、興奮するモンだろ?」 
「うっ、うんっ、うんっ……、あっ、はっ、ぁぁあぁっ」 
 耳元で黒川の声がすると、私は何度も頷いていた。私はもう、その映像から目が離せなかった。 
「じゃ、そのまま鏡を見てなよ」 
 そういった黒川の身体が、少し沈む。私の腰も、少し後に突き出すようにされる。 
 それは、一気に襲いかかってきた。 
「ふぁっ、あぁあああぁぁぁーーーっっっ!!!」 
「うはっ、スゴイ熱いよ」 
「あっ、あはぁっ、あっ、うあぁっ!」 
 黒川の言葉に何も返すこともできずに、私はただ喘ぎ続けた。 
 熱いモノで串刺しにされたような感覚。私が感じていたのは、ただ熱いということだけだった。その熱の塊が私の中に押し入り、私を蹂躙する。  
「あぅあぁうあぅぁっ、あっ、あぁっ、い、いいっ、き、気持ちいいぃっ!」 
 強烈に過ぎる快感。 
 私はもう、何がどうなっているのか分からなかった。立っているのかさえ危しかった。 
 ただ、私の中にドズンドズンと熱いモノを打ち込まれる感触だけだった。 
「うっ! うあ、うっ! うっ!」  
 多分、何度となくイッたのだろう。 
 それでも私は休ませてもらえず、更なる高みへ強制的に押し上げられていっていた。 
 そんな時、不意に意味のある言葉が耳に届いた。 
「ふふふ。イイ顔してるよな」 
 白濁していた視界が、急速に晴れていった。いや、白い霞がかった世界に、一つの像が浮かび上がってきた。それも、ひどく克明に。 
 その女は、裸にエプロンだけを身にまとった、何ともイヤらしい格好をしていた。しかもその裾を自分で捲り上げているのだから、相当な変態なのかも知れない。 
 そしてその女は、後から男に突き上げられていた。自分では立てないのか、男に抱きかかえられるようにされていた。男に突かれると、だらしなく開いた口から零れた涎が、ぶらぶらと揺れていた。 
 けれどもその顔は、とても幸せそうに見えた。 
 私はどうにもその女が羨ましく、そして愛おしく思えた。 
 私は自然と、その女とキスをしていた。 
 彼女の唇は、妙に冷たかった。 
 そして。 
「んぶぅっ、んんっ、んっ、んぐぅぅっっ!!!」 
 私の意識は、闇の中に溶けていった。
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