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淫乱で…
作:死に逝く翼





「どうも、誤解があるみたいなんだなぁ」
 背後から黒川が私の身体をぎゅっと抱きしめてきた。私は一瞬体を固くさせたが、すぐに緊張を解いてしまっていた。口惜しいが、黒川の腕の中は、居心地が良かったのだ。
「俺は単に、女には優しくしろって言う言葉を、実践してるだけなんだけど」
 黒川の唇が、ほんの軽く、私の首筋に触れた。本当に、唇が軽く触れただけだった。それだけで、私はビクンと身体を震わせてしまった。黒川の手も、ゆっくりと動き出していた。私の胸を、下からそっとすくい上げるようにして、手のひらを使って優しく揉んできた。
「ん、んん……」
 私の口から、吐息が漏れていた。
 黒川は自分で言うとおり、女に対して優しかった。私の知っている今までの男達のように、自分の性欲を暴走させたりはしなかった。ゆっくり確実に、私を快楽の海に引き込んでいく。
 黒川の指が、ブラウスのボタンを外し始めた。私はその手を押し止めようとしたが、それは形ばかりの抵抗だった。黒川はあっさりと、私の前をはだけさせていた。黒川の指はすかさず背中に回り、ブラのホックを外してしまった。
「あっ」
 ブラをずり上げた黒川の手が、私の胸を包み込むように揉み始めた。恥ずかしくってイチイチ目で見て確認したわけじゃないけど、黒川の手の中で、私の胸が好き放題にいじられ、形を変えていくのが分かった。黒川が指先に力を込めるたびに、私の中に快楽が注ぎ込まれていったから。
「良い揉み心地だよなあ。この感触は何とも……」
「イ、イチイチ説明しなくてもいいって」
 どこか感じ入った声の黒川に、私は抗議した。そんな恥ずかしいことは、ホントに言わないで欲しい。
「いやいや、そうは言ってもな。この大きさがまた。丁度、俺の手の中に収まるくらいのフィット感が」
「だから、そういうことは言わないでって……ひぁっ!」
 いきなり、耳を舐められた。私は思わず、身をすくめていた。
「おっ? 良い反応だね。ひょっとして、耳は弱い?」
「え……? う、うん……」
 私は、躊躇いながらに答えた。
 実を言うと、今まで耳を舐められたことはあるにはあったが、今みたいにキュンッと来るような快感を感じたのは初めてだったのだ。新たな弱点ができてしまったようだ。その弱点を黒川に教えるのは、危ないかなとも思ったんだけど、今のでどうせバレたろうからと、素直に答えた。要するに、そのままもっと、耳を舐めてみて欲しかったわけだ。
 けれども黒川は、やっぱりふざけたヤローだった。
「あ、そうなんだ。じゃあ、可哀相だから止めとこうか」
 などと言って、私の耳元から顔を離してしまったのだ。
 おいおいおいおい、ちょっと待て。黒川、アンタってばSEXに慣れてるんじゃないの?
 そんな思いから、私がとっさに黒川を振り向こうとしたときだった。
「ふぁ……っ、あっ、か……っ!」
 ヌロン、と黒川の舌が、私の耳の中を舐めていった。
 それこそバネで弾かれたみたいに、私の身体は、黒川の腕の中で、ギクンと反り返っていた。黒川の舌から逃げるように、私は首を仰け反らせ、全身で伸びをするようにしていた。けれども、黒川の舌は容赦なく私の耳の中にまで入ってきた。
「やぁっ、はっ、ひっ、っ、いっ!」
 私の耳の中で、黒川の舌が動く音が大きく響いていた。イヤらしい音だった。その音が余計に、私が今、黒川に耳の中まで舐められていることを感じさせた。
 声を出すたびに、体を反らせるたびに、私の奥が熱くなっていった。私のわずかな動きに合わせて、その奥からエッチなのが溢れてきて、私のアソコを濡らしていた。
 駄目だっ、このまま舐められたら、私……っ!
 そう思ったのが黒川に伝わったはずもないのだけど、黒川は私の耳を舐めるのを止めてしまった。私はホッと息を付き、身体の緊張も解いていった。それで安心はしたけれど、物足りなさもあった。
 どうして黒川は急に止めてしまったのか。
 私が首をひねって黒川を見上げると、黒川は笑っていた。イヤな笑顔ではなかった。何だか、そう、妙に優しい笑い方だったと思う。そんな黒川は、さっきまで自分で舐めていた私の耳を指で撫で、乱れた髪を整えてくれた。
 さっきみたいに強い快感はなかったけど、ちょっとくすぐったい感じはあったけど、ぽーっと痺れるような心地よさがあった。ウットリしてると、黒川が声をかけてきた。
「片方だけじゃあ、反対側が可哀相だろ?」
「ひっっ!!!」
 黒川の言葉に応えたのは、私の息を呑む音だった。
 黒川は私の顔の右側、つまりさっき舐められていた側を手で押さえると、左の耳に舌を伸ばしてきた。
 私はまたしても、心の隙をつかれてしまった。
 最初のその感触だけで、私の全身は硬直し、身体は自然と黒川から逃げるように伸び上がっていった。けれども添えられた黒川の手がそれを許さなかった。左手で私の身体を抱え、右手で私の頭を抑え、黒川は私の左耳をなぶるのだった。
「ひぃっ、ひんっ、ひっ!」
 黒川が舌を動かすたびに、私はヒッと息を呑んでいた。その音だけが、まるで泣き声のように響いていた。
「ぁっ、ああぁぁぁっ!」
 耳の中に舌を差し伸ばされ、私は涙をこぼした。初めて、ソコをそういう触られ方をして、私はブルブルと身体を震わせていた。黒川の舌が、ジリジリと這い進んでいた。ミリ単位で、私はその動きを捉えていた。
 黒川の舌が1ミリ進むたびに、私の快感のバロメーターが10は進んでいた。まるで、耳の穴から何かを注ぎ込まれているかのように、私の身体は熱くさせられていた。
「あっ、やっ、もっ、ひんっ、ひぃっ、いいぁぁっ!」
 黒川の舌が、奥の奥まで進んで黒川の舌が、私の中を舐め上げた。
 黒川に抑え込まれた私は、涙を流しながら叫んでいた。
 絶頂の声を。

「あれ? もしかして、イッちゃった?」
 全身の力を抜き、荒い息を吐く私に、黒川がかなり意外そうに尋ねてきた。
 自分でやっておいて、その言葉はないだろう。そう思った私は恨めしげに黒川を見上げたが、コクンと頷いた。耳でこんなに感じたのは初めてで、当然ながら耳でイカされたのも初めてだった。
「かなり感度良い方なの?」
「知らない……そんなの……」
 私は、プイと黒川から目を反らして、そう答えた。
 黒川はそのことには深く追求してこなかった。適当に相づちを打つと、今度は私の服を脱がせにかかった。シャツのボタンを全部外してしまい、私の上着を脱がせようとした。私は、今さら抵抗する方が恥ずかしいようにも思えたので、素直に黒川にしたがって、袖から腕を抜いた。
 黒川はすぐにブラも脱がせてしまったので、私の上半身は裸になってしまった。もっとも、黒川に後ろから抱きすくめられている格好は変わっていないので、黒川にしげしげと観察されはしなかったが。
「んじゃあ、次はこれね」
 そう言った黒川の『次』は、私の予想とはまるで違っていた。てっきり私は、下も脱がされるものと思っていた。けれども黒川は、私の顔の前に、自分の右手の人差し指を突き立てたのだった。
「指フェラって、分かる?」
「……」
 私は一瞬、言葉に詰まったが、小さく頷いた。
 フェラというのは、男の人のアレを口でいたすわけだ。何度か経験はあるが、あまり良いものではなかった。で、指フェラというのは、つまりはソレの代わりに指を舐めることなのだろう。
 指なら、アレの何倍もマシだ。それに黒川の指は、男にしてはスラリとしていて綺麗だった。
 私は黒川の手を両手で包み込むと、黒川の指を口元へと引き寄せた。
「……ん……」
 口を小さく開けて、黒川の指をくわえ込んだ。別に、変な味も感触も、何もなかった。ちょっと温かいかな、と思ったくらいだ。そして私は、黒川の指を舐め始めた。
 最初は、口の中にふくんだ黒川の指を、あめ玉でも舐めるみたいに、舌を絡めるだけだった。でもそのうち、そうするだけじゃあ何となく面白くないような気がしてきた。そこで、ちょっとやり方を変えてみた。黒川の指をいったん口から出して、その指を、根本から舌で舐め上げてみた。
 これは、以外と面白かった。舌先には、ちょっと微妙なくすぐったさが伝わってきたし、それに何より、エッチなことをしているという実感が、急に湧いてきた。考えてみれば、前回の時は黒川にされっぱなしだったし、今回もここまではされるだけだった。初めて、私から黒川に触れていた。
 それに気付くと、私はいよいよノッてきた。何度も何度も黒川の指を舐め上げた。そうすると今度は、それだけでは物足りなくなった。そこでもう一度、指を口の中にくわえ込んだ。そして今度は、頭を振って黒川の指を出し入れさせていた。
 ジュプ……ニュプ……チュプ……
 そんな風に唾液の音をさせながら、私は黒川の指を半ば夢中で舐めしゃぶっていた。
「いやー、指を舐めてもらうってのも、気持ち良いもんだな」
「……ホントに?」
 満足げな黒川の声に、私は動きを止めて、黒川を振り返った。
「ホントだって。してあげようか?」
「い、いいよ、そんな」
 まさかそんなことはないだろうけど、指を舐められてイカされたりしたら……。
 私は黒川の申し出を断ると、再び指を舐め始めた。
「まあ、指を舐めなくたって、他で十分気持ちよくなれるだろうから」
「んんっ」
 黒川にスッと脇腹を撫でられ、私はビクッと身体を震わせてしまった。普段ならくすぐったいだけのはずなのに、それがどうにも気持ち良かったのだ。
 黒川の手は、脇腹からお腹、少し上って胸。そこからまた下がっていって、今度は一気に膝へ飛んだ。
 膝を撫で回しながら、黒川が私の耳元に囁いてきた。
「女の人はさ、精神的な部分で感じてくるって言うだろ?」
 黒川の息が耳にかかって、私はちょっと、肩をすくめた。
「こういう風に、男の指を舐めさせられてるって思うと、興奮したりする?」
 その質問は、さっき私が感じていたことを、そのまま言葉にしたものだった。
 私は答えずに、無視するように黒川の指をしゃぶり続けた。
「なんだ。答えてくれないの? だったら、まあ」
 黒川は一人で納得するようにそう言うと、膝を撫でていた手を、太ももへと這わせ始めた。
「うっ……んん」
 私は黒川の手から逃れるように足を動かしたが、もちろん、その程度で黒川が止めるはずもなかった。黒川の手は私の太ももを這い上がりながら、スカートの中へ潜り込んでしまった。
 黒川の指が、私の太ももを撫で上げていく。その後を追いかけるように、撫でられたところがジンワリと熱くなっていくようだった。
 やはりというか、黒川はそのままソコに攻めてこなかった。ショーツに指がかかると、その縁に沿って指を動かし始めた。私はむず痒くって、もどかしくって、つい腰を動かしてしまった。すると黒川の指は、そこからサッと逃げてしまった。箒のように指を広げ、私の太ももをスーッと撫で下ろした。
「ふぐ……っ」
 そこは、さっきの刺激でジワーッと熱を帯びていたところだった。そこをさらに上から撫でられ、私は呻いていた。
「やっぱり、感度は良好だな」
 そう言うと黒川は、私の口から指を引き抜いてしまった。私は口の中が何だか寂しくなってしまった。私の唾液に濡れた指は、まだすぐ目の前にあった。私は自分でも知らないうちに、そちらへ顔を寄せていた。黒川がさらに指を退いたので、そこで初めて、自分が何をしていたかに気付いた。気まずくって顔を伏せると、黒川が私の顎に手を添えて、無理矢理正面を向かせた。
 そこにはやっぱり、私が舐めていた指があった。
「じゃあ、次ね」
 黒川がもう一度、私の顔に指を近づけてきた。私は無条件で、その指を口に含んだ。唇や舌先に指を感じると、なぜだか妙に心が落ち着くようだった。
 けれども、指はまたすぐに引き抜かれた。しかし今度は、私から離れては行かなかった。口から離れた指は、私の唇をなぞり、頬に触れ、首筋を撫でてきた。それに合わせるように、黒川が私の首に唇を寄せてきた。
「あは……、あぁ」
 私は、うっとりと吐息を漏らした。しかし、頭の奥がジーンと溶けるような甘い快楽に、私は酔いしれていた。
「ひっ!?」
 しかし、その甘さが突然鋭いモノに変わった。モチロン、痛かったわけではない。黒川の舌が、私の背中を滑り降り始めたのだ。同時にその指も、私の身体の前面を、舌と同じ速度で這い降りだしていた。舌は背骨に沿って下り、指は胸の谷間を抜けてさらに舌を目指していた。
 前と後。両方からの刺激にサンドイッチにされた私に逃げ場はなく、ただ身体を引きつらせるだけだった。そんな私の身体を、黒川は空いた手で前のめりにさせていった。そうすると自然に、黒川の舌がさらに私の背中を降りていき、腰にまで届いてしまった。
 私はただ、快楽に身体を震わせていた。
「ウ、ウソ? ちょ、なんで?」
 その次に行われた黒川の指の動きに、私は戸惑った。正確には、その指の与える快感に戸惑った。
 黒川の指は、私のお腹をくすぐるようなタッチで円を描いていた。そんな、くすぐったいだけのはずなのに、それがまた、ジワーッと私の身体を中から熱くさせていくのだ。そのくすぐったい感じが、どうにも気持ち良くてならなかった。
「ヤ、ヤメ……、はぅっ……、ふぁっ!」
 黒川の舌が、今度は私の背中を上り始めた。それに合わせて、ゾクゾクッとした快感が私の背骨の中を駆け上っていった。
 指は相変わらず、私のお腹の上で円を描いていた。後から考えれば、それは円ではなく螺旋だったのだけれど、快感に揺さぶられていたその時の私に、そんなことまで分かりはしなかった。
 黒川の舌は、その時には首にまで上ってきていた。ゆっくりと首の後を舐め上げられて、私はブルッと身体を震わせた。それは、その次に舐められるであろう耳への刺激に対する気構えでもあった。
「ひっ、ひいいいーー!?」
 突然襲いかかってきた強烈な刺激に、私は悲鳴を上げていた。
 おへそに、黒川の指が押し当てられていた。それは、奥に潜り込むようにグリグリとねじ込まれてきた。
「うっ、あっ、うんっ」
 信じられなかった。そんなところが気持ち良いなんて、信じられなかった。信じられないくらいに気持ち良かった。私はおへそをいじられながら、背筋を反らして、首を反らせて悶えていた。
 けれども、それも長くは続かなかった。
「はん! はあ! はくぅ!! っぐ!!」
 仰け反らせた首に、黒川が歯を立てた。
 首とおへそと。
 上と下と。
 両方から送り込まれる快楽が、私の中で衝突して、爆発していた。
 その勢いに吹き飛ばされた私は、ふっと身体が浮き上がるような感覚に囚われていた。

「こんなに感じてもらえると、こっちまで嬉しくなるなあ」
「……馬鹿……」
 本当に嬉しそうな黒川の言葉に、私はせいぜい毒づいてやった。
 けれども、その当の黒川の腕の中でグッタリしている状態では、とても効果は見込めなかった。
「いや、でもマジで反応が可愛すぎるって。ホラ」
「……え? あ……っ」
 黒川に言われて、ようやく私もそれに気が付いた。私の腰の辺りに、熱くて固いものが感じられた。
 ゴクリと、唾を飲んでいた。
「いい?」
 耳元でそっと囁かれて、私は反射的に頷いていた。
 黒川に優しく押し出され、私は黒川の腕の中から抜け出した。膝立ちになって、ローテーブルに手を付くと、気持ちだけ黒川の方にお尻を突き出すようにした。
「バックってさあ、この背中のラインが綺麗で良いと思うんだよな」
「い、いいから。そんな感想は」
 変な誉め方をされると、妙に恥ずかしくなってしまう。ただでさえ熱くなっている身体が、余計に熱を帯びてくる。
「それに何より、噛まれる心配がないのが1番良い」
「馬っ、馬鹿っ」
 たまらず私がそっぽを向いた。すると必然的に黒川に首筋を晒す羽目になったわけで、黒川がそれを見逃すはずもなかった。
「あっ……、くぅぅ……」
 どうして、首や背中がこんなにも気持ちが良いんだろう。
 今日の私はまだ、SEXと言えば誰もが想像する箇所を、まったく触られていない。それなのに、もう2回もイカされてしまっている。私はやっぱり、淫乱なんだ。
 そんなことを考えるでもなく考えていると、黒川が私のスカートを脱がしてしまっていた。
「うーん。ちょっと失敗」
「え? な、何が?」
「先に下着も脱がせておいた方が良かったと思って」
「……え?」
「だって、ビシャビシャだぞ、これ」
「え? あっ、馬っ、馬鹿っ!!」
 私が思わず振り返ろうとした時だった。黒川が上体を倒して、私を抱きすくめた。
 そして。
「はあああ、ああっ!」
 さっき考えていたことを聞かれたわけでもないのに。
 黒川の手が、私の乳房を包み込んでいた。5本の指が、私の胸を這い回り、押し揉んでくる。その動きの1つ1つが、私の声を震わせた。
 ジュク……。
 自分でも分かった。私の奥から溢れ出たのが、ショーツを重く湿らせたのが。
「黒……川ぁぁ……」
 固く尖った乳首の先を、指先で軽く引っかかれただけで、私は泣きそうになってしまった。もう、腕で身体を支えるなんかできていなかった。ほとんど突っ伏してしまいそうになるのを、どうにか肘をついて支えていた。
「入れて欲しい?」
 最初は確かに、入れてもいいかと、黒川から求めてきたはずだ。
 なのに、立場はあっという間に逆転していた。私は黒川の意地悪な質問にも、もはや恥ずかしく思う余裕もないまま、何度も頷いていた。
 ふっと黒川が体を離した。なぜか背中に心細さを感じた私だったが、次の瞬間にはそんなことは忘れてしまっていた。お尻に、アソコに空気が触れるのが分かったからだ。
 ショーツが、脱がされていった。
 いよいよだ。私は唾を飲み込んだ。
 クチャ……。
 黒川に触れられて、私の股間はエッチな音を立てた。ソコが、勝手に動いたのまで自分で分かった。
 ひょっとしたら、また焦らされるかも。
 そう思っていたんだけれども、黒川は案外スンナリと腰を押し進めてきた。
「はぁっ」
 ぐぐっと押し広げられた瞬間、私は大きく喘いでいた。この、入ってくる感触が、いや、入れられる感覚が、私にはどうにもたまらなかった。私は、内側からソレに埋め尽くされていきそうだった。
「うぅぅぅぅ……っ」
 しかし私は、すぐに焦れったさにすすり泣く羽目になった。そうなのだ。黒川はやはり、徹底的に私を焦らして楽しむつもりだったのだ。
 黒川は全然、奥まで進めようとしなかった。少しずつ、ほんの少しずつしか進もうとしない。
 その、あまりにゆっくりした動きは、痒いところに手の届かないもどかしさで、私を苛んだ。一気に奥まで入れてもらえれば、思い切りあえげるのは分かっているのに。なのに、黒川はジリジリッとしか進んでこない。
 なまじっか、その進み具合が分かるだけに、私のもどかしさは余計に募らされてしまった。
「うぅっ、うぅぅぅぅーーっ!」
 それでもさすがに、奥まで入れて、とは言えなかった。
 代わりに私は腰を揺すって、自分からどうにか黒川を迎え入れようとした。
 けれども、黒川がそれを許すはずもなかった。黒川は、両手を私のお尻にしっかりと当てていた。私がどんなに頑張っても、侵入する速度は完全に黒川にコントロールされていた。
「ああぁっ、もう……っ!」
 もどかしくて、もどかしくて、もどかしくて。私はテーブルを引っ掻いて、髪を振り乱した。
 その間も黒川は、少しずつ、少しずつ、私の中に入ってきていた。
 気が付けば、私は涙をこぼしていた。夢中で腰を揺すって、少しでも深く黒川を呑み込もうとした。
 ああ、けれども。
 黒川はやっぱり、最低に意地悪なヤツだった。
「ああぁっ!」
 私が声を上げたのは、悲しかったからだと思う。せっかく、せっかく入ってきていたソレを、黒川はいとも簡単に引き抜いてしまったのだ。抜かれるときは本当に、あっという間だった。
「ふっ、ふっ、ふぅぅっ」
 そしてまた、ひどくゆっくりした挿入が始まった。私は唇を噛み締めてもどかしさを我慢していたけど、もう限界だった。それに何より、黒川がまだまだ私を焦らすだろうことは、容易に想像が付いた。
 私は、泣き濡れた瞳で黒川を振り返った。
「これはまた、ずいぶんと色っぽい顔をしてくれるもんだ」
 私の顔を見た黒川が、嬉しそうに笑った。
「ねえ……、も、許……て」
 私は、喘ぎながら切れ切れに許しを請うた。入れて欲しいという思いよりも、とにかくもう、焦らすのは止めて欲しいという思いの方が強かった。私は泣きながら、黒川に許してくれと頼んでいた。
「それはつまり、もっと激しくして欲しいってことかな?」
 私は、反射的に頷いていた。我慢なんて、とっくに限界を超えていたから。
「ちゃんと、奥まで入れて欲しい?」
 うんうんと、私は何度も頷いた。
「やっぱり、こういうのはお願いしてもらわないとな」
 黒川が意地悪い笑みを浮かべたが、私はそれを気にする余裕など、もうなかった。
「お願いお願いお願いぃぃっ」
 私は大声で、狂ったように叫んでいた。
「奥まで、奥までぇっ……うはぁっ!」
 一気に、一番奥まで貫かれた私は、背中を反らして悲鳴を上げた。
「くっ……かふっ……」
 黒川は根本まで差し込むと、そのままグリグリと腰を押しつけてきた。そうすると私は、奥の奥を掻き回されるわけで、首を引きつらせて、水から上がった魚のように喘いでいた。
「こういうのが欲しかったんだろ?」
「うんっ、うんっ、いい! 気持ち良い!」
 私は思わず、そう口走っていた。実際、私のその部分は黒川に掻き回されて、ヌチャニュチャとイヤらしい音をさせていた。
「よしよし。じゃあ、こういうのは?」
「ひぅっ、っい、いぃぃっっ!!」
 突然、黒川が激しく腰を動かし始めた。
 溜まりに溜まった快感が、一気に爆発させられた。
「うはっ、はっ、ううっ、うんっ、んぁぁぁっ!」
 私はただ、黒川に振り回されるだけだった。蹂躙、という言葉がピッタリだった。ただただ黒川に突き上げられ、悲鳴を搾り取られていた。その時は本当に、私の中にある黒川が、私のすべてだった。
「やっ、あっ、うそっ、やぁっ、怖いぃっ!?」
 私の中では、快感がどんどん膨らんでいた。自分でもどうしようもなかった。沸き上がり、駆け巡り、爆発を続ける快感に、私は恐怖すら覚えるほどだった。
 自分の身体が、自分でなくなっていくようだった。感覚が消えていき、自分が消えて行くみたい。
 でも、どうしようもなく気持ち良かった。
 私は、怖れ怯え震えながら、快楽に悶え続けていた。
 不意に、私の身体に快感以外の感覚が伝えられてきたような気がした。
「あ……あー……」
 だらしなく喘ぎ続けていた私は、ほんの少しだけ自分を取り戻した。
 私は、黒川に抱きしめられていた。テーブルに突っ伏した私に、黒川が覆い被さるようにしていた。そして、ガクガクと揺さぶられていた私の身体を、黒川がしっかりと抱きしめていた。
 私の拡散していた意識が、急速に覚醒を始めた。
 けれどもそれは、冷めてきた、という意味ではなかった。むしろ逆だった。
 圧倒的な肉体の快楽に、黒川の腕の中にいるという、精神的な満足感が加味されてしまったのだ。
 私は『sex』ではなく『黒川とのsex』に酔いしれていた。
「黒、川……っ、黒川ぁっ!」
 夢中で、私は黒川の名を呼んだ。
 黒川は、いよいよ激しく私を突き上げていた。私の身体から、汗が弾け飛んでいた。
 どうしようもない快感が、私の中でまた、どんどん膨らみ出していた。
「やっ、やだっ! やだよっ、黒川、黒川ぁぁ」
 私はあまりの快楽に戸惑い、すすり泣いた。すると、テーブルの端を掴んでいた私の手に、黒川の手が重ねられた。私は、必死にその手にすがりついた。
 なぜか知らないが、私の心に余裕ができたのだろう。私は自分の裡に込み上げてくるモノを、純粋に快楽として受け止め、貪るようになっていた。
「はぁぁっ、イクっ、もっ、イっ、ちゃうっ!」
 そう口走っていたけれど、ほんとはその前から何度も何度もイッてしまっていた。ただ、イクたびに、さらにその上にある絶頂にまで上り詰めさせられていたのだ。その時の私はもうとっくに、何が何やら分からなくなっていた。
「あぁっ、はぁっ、んんんっ、っクぅっ!」
 黒川の動きに合わせて喘ぐ以外に、私にはできることがなかった。そんな私を、黒川はますます追い込んでいった。
「どうした? またイクのか?」
「うんっ、うんっ!」
 何を問われたのかなんて、分かっちゃいなかった。反射的に頷いただけだった。
「いいよ。ホラ! ホラ!」
「うんっ、んんっ、んあぁっ!」
 黒川は疲れを知らないのか、ただひたすらに私を翻弄し続けた。
 けれども、さすがの黒川にもついに限界が来たみたいだった。
「イク? またイッちゃうのか?」
「ふぁっ、あぁっ、ひぃっ……んぐぁっ」
「ははっ。じゃあ、俺もそろそろ!」
 私の中で、黒川がひときわ大きくなったような感じがした。
 と同時に。
 私は、肩に鋭すぎる刺激を、つまり快楽を感じていた。
「ゃぁぁあっ、イクっ、イクぅっ、イッちゃぅぅっ!」
 それこそ本当に、私の身体は弾けていた。
 頭の中で閃光が輝いた。と思った瞬間には、身体の感覚が一気に取り払われてしまった。
 ただ、アソコと肩とに、燃えるように熱い何かが押し当てられているのは分かった。
 そしてそこから生じる快楽が、私を無重力の海に押し出していった。


 黒川は、私が服を着るときになって笑いながら教えてくれた。
 今度は、俺が噛んでやった、と。
 鏡を見ると、確かに黒川の歯形の跡が付いていた。
 不思議と、イヤな感じはしなかった。
 そっと指でなぞった私は、知らないうちに笑みを漏らしていた。







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