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私は、自分が変態だと言うことを自覚している。それも、性的な意味での変態だ。
と言うのも、健全な女子高生なら今の私のように、痴漢に触られてその気になったりはしないだろうから。
私のスカートは、完全にまくり上げられていた。
私の穿いている白いショーツが、その上を這い回る男の指が、誰かに見られているかも知れない。
そう想うだけで、私は胸が苦しくなるほどの興奮に襲われていた。
そしてその興奮が声になって漏れるのを防ぐために、私は唇を強く噛みしめてうつむいていた。両手は身体の前で鞄を握るだけで、痴漢の手を振り解く素振りさえ見せなかった。
そんな私の態度を、痴漢は自分に都合良く解釈したのだろう。私のお尻を撫で回していた痴漢の指が、ウエストの方から中に潜り込んできた。
「……ん」
直に感じた男の指に、私は鼻にかかった息を漏らしていた。それは嫌悪ではなく、明らかに快感を意味していた。私のすぐ背後にいる痴漢にも、それは伝わったようだ。私のショーツの中で、痴漢の指はいよいよ活発に動き出した。
痴漢の指が大きく広げられ、手のひら全部を使って私のお尻が撫でられていた。
時折、強く揉み込んでくる痴漢の指が、私のお尻に沈む込むようだった。
その度に私は体を小さく震わせ、いや、悶えさせていた。顔が熱くなってきたのが自分でも分かった。
耳たぶや頬は不自然に紅潮していることだろう。
まくり上げられたスカートの向こう、ショーツの中で蠢く指は、さぞや卑猥に見えることだろう。
そんな想像が、私の快感に拍車をかけていた。
「うぅ……」
イヤらしく私のお尻を揉んでいた指が、お尻の割れ目をに沿って進み始めた時、私は思わず呻き声を漏らしていた。そこを触られるのは、さすがの私にも抵抗があったのだ。しかし痴漢はその部分には固執せず、スッと撫でただけで先へと進んでいった。
その先。
つまり、もうすっかり熱く潤ってしまっている、私の女の部分。
私は期待に胸を奮わせながら、男の指を待ちかまえていた。
けれども、男の指はやって来なかった。
私のアソコの、その一番下の部分に触れたかと思うと、指は逆戻りを始めたのだ。そうしておいて、お尻の穴に届きそうになると、また前に進み出す。
ソコを何というのか知らないけれど、アソコではないどこでもない部分を、男の指は軽く引っ掻くようにして、何度も何度も往復し始めたのだ。
「くっ、くくっ……」
そのもどかしさに、私は喉を鳴らして身をよじった。自分から腰を動かし、何とか男の指をアソコに迎え入れようとさえしてしまった。
けれどもやはり男の指は、私を焦らすソコしか触ってくれなかった。
「びしょ濡れじゃないか」
不意に耳元で声がして、私はビクリと身をすくめた。そしてその声が痴漢のモノだと分かると、私はとっさに小さく首を横に振っていた。
案の定、微かに鼻で笑う声が聞こえた。
「焦らされて、ケツ振ってるくせに」
私はやはり、違うんだと首を横に振った。
「何が違うって言うんだよ?」
私を焦らしていたのと逆の手が、私のスカートの中に、前から潜り込んできた。そして、自分でもびしょ濡れになっているのが分かるアソコの部分を、指先でなぞってきた。
ショーツの布地が、アソコに食い込んでくるのが分かる。多分、ショーツには私のアソコの形が、クッキリと浮かび上がっているのだろう。
お尻の方からショーツの中に潜り込んでいる痴漢の手は、相変わらず肝心な部分には攻めてこず、その手前で行きつ戻りつを繰り返している。
「はぁっ、ぁぁぁ……」
私は、大きく息を吐いた。
何度も、小刻みに足踏みをしてみた。
精一杯に、顔をしかめてみたりもした。
その間も痴漢は、ショーツの上から私のアソコを、ゆっくりゆっくりと指の腹で何度も撫で続けた。痴漢の指が往復する度に、私はため息を漏らした。次第に、快感を抑えるのが面倒になってきた。
頭の芯が痺れて、ボーっとしてきた。
「ひぅっ!」
いきなり、クリトリスの辺りに振動を与えられ、私は息を呑んだ。
崩れそうになる膝をどうにか踏ん張った私の耳元に、痴漢が囁いた。
「ほら、今みたいな刺激が、もっと欲しいんだろう」
言いながら痴漢は、私のクリトリスを押し揉み続けた。私は唇をきつく噛んで、声が出るのを必死に抑えた。
「もっと気持ちよくなりたいんだろう? えぇ?」
私は、首を縦に振っていた。もっと、もっと触って欲しかった。イヤらしいことをして欲しかった。アソコを指で掻き回して欲しかった。
「だったら、ほら、分かるだろう?」
前から私のアソコを弄っていた痴漢の手が、私の右手首を掴んだ。そして、私の手を後ろの方へと、つまり痴漢の身体の方へと導いていった。
不自然に熱い塊が、私の指先に触れた。
反射的に腕を引き戻そうとしたが、手首を握った痴漢の手がそれを許さなかった。それどころか痴漢は、私の指を広げさせ、無理矢理ソレを握らせたのだった。
私が握らされたもの。
熱く、太く、長い、肉の機関。
まさか、こんな場所でそれを握る羽目になろうとは。
果たしてこれは、現実の出来事なのか? 私の妄想ではなく?
しかし快楽に酔わされた私には、そんな風に驚いたり考えたりは、実際にはしなかった。
痴漢に促されるまでもなく、軽く握ったそれを、上下にしごき出していた。
「ふふん、分かってるじゃないか」
従順な私に、痴漢は満足げな声で言った。嬉しそうな痴漢の様子が、私を加速させた。このような状況では始めてたが、触るのは何も初めてではない。どこをどうすればいいか、心得はあった。
頭の部分に指をやり、先走りの液をすくう。
それを全体に塗り込むように、男のソレに指を滑らせる。滑りを良くしておいて、いよいよ本格的にしごき出す。
「へっ、ずいぶん、手慣れてるじゃねぇか」
痴漢は私をなじったが、その声に驚きの色は隠せないでいた。そんな痴漢に私はさらに気を良くし、袋の方にまで指を伸ばしたりもした。指先で撫でさすり、竿の裏側をツツーッと、指で撫で上げてやった。
「へっ、へへっ、じゃあ俺も、ご褒美をやらねえとな」
快感に上擦った痴漢の声。
それを耳にした瞬間、私の身体は仰け反っていた。
「ひっっ、あくっっ!」
爪先立ちになり、アゴが突き上がった。
アソコに直接指を突き立てられた衝撃は、それ程までに凄まじかった。
バランスを崩しそうになった私の身体を、痴漢の腕が支えてくれた。
いや、そうではなかった。
今まで手付かずだった私の胸を、痴漢はイヤらしく揉み始めたのだ。
「くふっ、ふっ、んっ」
私は声を上げずにいるのがやっとだった。
それなのに痴漢は、いっそう激しく私のアソコを掻き回しながら言うのだ。
「何してんだよ。手が止まってんじゃねぇか」
私は慌てて、痴漢を握った指の動きを再開した。
ニチャニチャという粘液質な音が、私と、痴漢の股間とから響き始めた。
電車の振動。
痴漢の指の動き。
私の荒い息。
それらが一つになり、私の中でグルグルと回り始めていた。
現実がとろけだし、すべてが終わりに向かって走り始めたその時だった。
それは、時間にしてみればほんの一瞬のことだったに違いない。
電車が揺れ、乗客がたたらを踏んだ。
その大きな揺れに合わせて、痴漢はいっそう深く私の中をえぐった。
悲鳴を押し殺した私が、顔を振り上げた。
その、ほんのわずかな時間。
そこに、私と彼とを結ぶ道が出来ていた。
乗客の肩や背中で今まで見えていなかった姿が、その瞬間だけ見えていた。
黒川隆也。
クラスメートとしてしか認識していない男。
その彼の姿が、そこにあった。
彼も、私の姿を認めていた。
痴漢に弄ばれ、快楽に身を委ねている私の姿を。
胸を揉まれ、スカートの中に腕を差し込まれ、それなのにイヤな顔をせず、惚けたように涎を垂らす私の姿。
黒川はわずかに驚いたような顔をして、それがすぐに納得したような顔で頷くと、スッと視線を外した。
気にせず楽しんでくれ、とでも言うように。
電車が再び揺さぶられ、黒川の姿は人垣の向こうに消えてしまった。
それと同時に、痴漢の指が私の中を深く深くえぐり込んできた。
「っっっっ!!」
その瞬間、私の世界からすべてが消えた。
電車の揺れる音も、周りの乗客も、私の内にあるはずの痴漢の指も、私が握っていたはずの痴漢のソレも、すべてが消えた。
唯一つ、私を見つめる黒川の瞳を覗いては、何物も存在しないその世界に、私は溶けていった。
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