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腎移植・レストア腎移植、世界の現状  藤田士朗准教授

2008/02/09 09:55

 


フロリダ大学  フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』から


「腎移植・レストア腎移植、世界の現状は・・・」

-藤田士朗フロリダ大学准教授-


ドイツ・エッセンでの国際生体臓器移植シンポジウムで、
レストア腎移植の論文発表をする藤田士朗准教授
http://hiro110732.iza.ne.jp/blog/entry/195654/



明日、平成20年2月10日(日) 12:30
から、東京都千代田区グランドプリンスホテル赤坂 別館・5階 にて、「第2回国際腎不全シンポジウム」
が開催されることは既にご案内のとおりです。

今回のシンポジウムでは、講演トップとして(12時40分予定)、藤田士朗フロリダ大学准教授から、「日本のレストア腎移植42例」-全米移植外科学会での発表-と題して先の全米移植外科学会での論文発表模様等を含めご講演いただくと伺っております。

講演に先立ちますが、レストア腎移植問題等に対する藤田准教授からの最新のご意見・報告を紹介させていただきます。

アメリカ等海外での移植の現状と世界の流れ、日本の現状等について、詳しく述べられていますので、東京でのシンポジウムに行きたくても行けない私を含めまして、参加できない多くの皆さまの参考になればと思います。


長文です。
藤田先生、誠にありがとうございます。



藤田士朗フロリダ大学准教授からの報告(5)



アメリカのおける移植の現状ですが、腎臓に限って言えば、慢性透析患者は100万人を超えており、7万人あまりの人が、移植を望んで登録しています。年間の移植数は2007年時で17000人前後です。単純計算でも、3-4年の待ち時間であり、血液型によっては、5-6年待ちです(例えばB型の場合)。
 

 

透析を続けるのと、移植をするのでは、母集団をそろえた検討でも、移植を受けた方が、生存率が高いことが証明されており、以前は腎臓移植はただ単にQuality of Life を高めるだけのものと言われていたのが、今では、Life Saving Operationと認識されています。そのため、移植数を増やすのが緊急の課題とされ、アメリカにおいても、様々な試みが最近行われています。


例えば、これまでは、ドナーとして考えていなかったドナーを使う試みが行われています。


ECD (Extended Criteria Donor )というカテゴリーが導入され、60歳以上のドナー や、50-59歳で、以下のうち2つをもつもの(死亡原因が脳血管障害、クレアチニンが1.5以上、高血圧の既往歴がある)を積極的に使おうとしています。これで約20%ドナーが増加する期待されています。(これは端的に言えば、いわゆる病気腎臓です)


その他、高齢者や小さな子供の腎臓を2つ一緒に一人のレシピエントに植えることも行われています。背景は高齢者の腎臓や子供の腎臓は一つでは、通常の成人にはその、身体的要求を満たすだけの大きさ(腎臓のマス)がないと考えられていたため、これまでは、使われずにいたからです。


さらに、以前では病気を伝播させる可能性があるので、やられていなかった、感染症にかかった腎臓も今では、普通に用いられています。もちろん、治療法の確立していないエイズやウエストナイルウイルス、狂犬病などはだめですが、効果がある治療法があると考えられている一般のバクテリア感染症(日本では、法定伝染病に含まれている髄膜炎菌すら含んでいます)はもちろんのこと、B型肝炎、C型肝炎なども、レシピエント側の抗体の有無に寄りますが、普通に移植されています。(これも、いわゆる病気腎臓です)


これまで、アメリカではあまり行われてこなかった心臓停止後のドナーも最近増えてきています。これに関しては、はるかに日本の方が進んでいましたが、日本移植ネットワークが介在するようになり、むしろ、その数が日本では減少しています。


さらに、最近のトピックは、もっと生体ドナーを増やすために、ドナーさんの評価に関わる費用の一部(旅費や滞在費)を援助しようという試みが始まっています。


そして、さらに進んで、丁度フィリピンで先日報道されましたように、ドナーとなった人に、金銭的な報酬を出そうかと言うことまで、アメリカで議論されだしました。 (AP Monaco, Kidney International 69:955-957, 2006)


その他の試みとしては、血液型不適合やクロスマッチ陽性のため、移植が難しいカップル同士でドナーをチェンジして移植を行う試みもされています。既に、韓国やオランダではもう行われています、この点でも日本は韓国にすら、数段遅れている状況です。( JAMA 293: 1716, 2005, Transplant Proc 36: 2949-2951, 2004)


さらに、おそらくこれは、アメリカならではの状況かも知れませんが、全く自発的に、一つ腎臓を提供したいという申し入れからの、移植さえ行われています。


さらに、アメリカでは政府が後押しして、ドナーを増やすための運動が活発に行われています。


このように、腎臓移植の数が年間17000件をこえるアメリカでさえ、このような努力がされている状況で、それを端的に表しているのが、今年1月にフロリダで行われた、アメリカ移植外科学会のシングルトピックカンファレンスで ドナーをいかに増やすかということが議題となりました。


まとめて言えば、はるかに移植数の多いアメリカにおいても、臓器不足は深刻であり、そのため、様々な努力がされているということです。また、その中には、いわゆる病的腎臓が含まれています(ECDや感染症のドナーなど) 癌を持ったドナーや腎臓を移植する試みは公式にはされていませんが、ご存知のように、丁度万波先生が行ったように、癌を伴った腎臓を摘出して、バックテーブルで腫瘍を切除し、他のレシピエントに移植した14例の症例報告がCinncinatti 大学から出されています (Transplantation Proceedings, 37: 581-582,2005)。再発はなく、すばらしい生存率を報告しています。また、最近のイタリアからの報告(Transplantation 83:13-16,2007)を見ても、癌がレシピエントに移る確率はかなり低い(0.02-0.2%以下)と考えられています。 最近分かったことですが、オーストラリアのブリスベンのニコール先生は万波先生と全く同じような腎臓癌の腎臓を病変部分を切除した後、第三者のレシピエントに植える手術を既に50例近く行っています。その成績は素晴らしいもので、これまでのところ、癌の再発は認めていません。このことは、先日1月20日に東京でニコール先生自身が発表され、大きな反響を呼んだと聞いています。


病気腎移植に関して、いつかの論点から意見を述べさせていただきます。


今年9月に調査委員会の一員として選ばれ、詳細な資料を見る機会を得ました。


これまでの各病院の専門委員会や調査委員会での議論の進め方の詳しい資料を見ると、臨床家とは思えない、稚拙な議論がされていることに驚きを禁じ得ませんでした。


例えば、腎臓癌の症例で、腎臓摘出の必要は無かった、部分切除か、腫瘍部分を切除後自家移植すべきであったとされているようですが、最近では、部分切除も増えてきましたが、大きさが pT 1a の腎臓癌でも、まだまだ、腎臓摘出が行われています。(推定ですが、日本では部分切除は20-30%のみと考えられます)また、体外で腫瘍部を切除後、自家移植することが出来る施設は限られています。実際の臨床からはかけ離れた議論です。 Cincinatti 大学からの報告で、「14例のドナー腎に腎臓癌がみつかり、それをバックテーブルで切除したのちに移植した。癌の大きさは0.5センチから4センチ。術後14ヶ月から200ヶ月(中央値69ヶ月)の追跡調査で癌の再発はなく、1.3.5年の患者および、臓器の生存率はそれぞれ100%、100%、93%だった。」という文献が出ています。( Transplantation Proceedings, 37: 581-582, 2005.)つまり、少なくとも、アメリカで14例に同様の移植がこれまで、されたことがあり、術後転移は認められず、成績もすばらしいものであったということです。


宇和島徳洲会病院における、病気腎臓移植の調査委員会の報告で、「摘出は必要なかった、部分切除か部分切除後の自家移植が適応であった」としていますが、America National Cancer Institute のホームページをご覧になれば分かるように(
http://www.cancer.gov/cancertopics/pdq/treatment/renalcell/HealthProfessional/page5) 限局性腎臓癌の標準的治療は腎臓摘出術です。また、Seminors in Oncology の2006年10月号の腎臓癌の特集より、その外科的治療の総説で、メイヨークリニックの先生が以下のように書かれています。


現在でも大多数の腎臓癌に対する標準的治療は根治的腎臓摘出術である
一部の選択された患者には腎部分切除が有効である。
腎部分切除の適応は以下の通り
絶対的適応:単腎症例など、患側腎臓摘出によって、全腎機能が廃絶する場合
相対的適応:尿路結石、高血圧や糖尿病などの病歴があり、将来的に健側腎の機能低下が危惧される場合。
なお、部分切除を行った場合の局所再発率は5%、腎臓摘出術を行った場合の局所再発率は0.8%と記載されています。


臓器摘出手技に関しても、「癌の標準術式である、最初にまず血管を縛るることをしていないので、最初に移植ありきの術式であり、認められない」とされていますが、「まず血管を縛る」というのは、40年近く前の1969年にRobson先生らによって確立された「根治的腎摘出術」の要点の一つですが、現在では必ずしも重視されていません。
一例を挙げますと、早期の腎臓癌の治療として最近盛んに腎の部分切除術が行われるようになってきていますが、その場合、腎臓およびそれにつながる血管を周囲からきれいに剥がし、腎臓に超音波の機械を当てて癌の位置や大きさを確認し、次いで腎臓の周りにガーゼやビニールシートを敷き詰めてから、初めて血管鉗子で腎臓の血を遮断します。この間腎臓には血液が流れているまま手術を行います。その後、腎臓の組織障害を防ぐため、腎臓を氷で一気に冷やし、十分冷えたところで部分切除を開始します。すなわち、生体腎移植の際に行う腎臓摘出術と同様に、腎臓全体が周囲組織から剥がされた後に血流が遮断されるわけです。


また、M.D.アンダーソン癌センターとクリーブランドクリニックという、世界でも有数の優れた医療機関から出された数百例規模の臨床データによれば、一般に腎の部分切除の適応となり得る直径4cmまでの腎臓癌に対して、根治的腎摘出術を行った場合と、腎部分切除術を行った場合の術後の転移率は、それぞれ7.1%と5.8%だったそうです。すなわち、血管を先に縛ろうが後に縛ろうが、転移の頻度は実際には変わらないと言えます。


要するに、血管を縛ってから摘出する手術方法(「根治的腎摘出術」の要点の1つ)は、40年前に確立していた手術方法でしたが、現在の医療現場では、血液が流れているままの手術方法が盛んに行われている、特に、早期の腎臓癌の治療として最近盛んに実施している腎の部分切除術では、そういった手法が実施されている、というわけです


ネフローゼの治療は内科的治療であり、腎臓摘出などあり得ないと専門委員の方は言われていますが、高度のネフローゼのため、肺水腫から、心停止を起こした症例にあたったことはないのでしょうか。


もちろん、ネフローゼの治療の根本が内科的治療であることは、確かです。そして、最近ではその中に、免疫抑制剤まで含まれています。しかし、それらをすべて、試しても、どうしてもネフローゼが改善しない症例があります。その方達の中には、肺水腫から心不全になり無くなられる方もおられます。多くのネフローゼ患者を見たことのなる臨床医ならば、一人か二人、そのような経過で失った症例を持っているでしょう。そして、そういった治療に抵抗するネフローゼ症候群には、最後の手段として残されているのが、腎臓機能の廃絶(外科的腎臓摘出術、もしくは腎臓動脈塞栓術による内科的腎臓機能廃絶術)です。小児においても( Nephrol Dia Transpl 17 (supple.4): 55-58, 2002)、成人においても (J Am Soc Nephrol 12:S44-S47, 2001)、腎臓摘出が最終手段であることは、権威ある論文で述べられています。


万波氏は、現在の内科的治療法のすべて、免疫抑制剤まで投与して、それでも、改善しなかった患者さんから、本人の承諾を得て臓器を得ています。


調査委員会の先生方にはこれらドナーとなったネフローゼ症候群の患者さんから術前どれほどの状態であったのか、直接話を聞いていただきたく思います。術後1-2ヶ月間のカルテだけをみて、まだ、蛋白尿が残っているということで、やるべきでなかったというのは、科学的なフォローアップと言えないと思います。現在も蛋白尿があるのか、ネフローゼが再発していないのかを調べるべきです。実際の所、現在生存中の患者さんは、 ネフローゼが再発していないことを確認しました。


現実の医療現場においては、その治療方針に関して、多くの選択枝があることが普通です。多くの治療方針の中から、その患者さんにもっとも良いと思う治療法を選択するのが、医者の役目であり、それには、知識と経験と技術と自信が必要です。「後だしジャイケン」で、「この方が良かったはず」と非難をすることは簡単ですが、現場で悩みながら、その都度最良と思われる方法を取ってきた臨床家の決定を、医者の裁量権として尊重すべきではないでしょうか。


インフォームドコンセントについては、議論があると思います。万波先生はご存じなかったようですが、実は現場の看護婦さんが、手術に関する承諾書を全例取り付けていることが分かりました。ドナーさんもまたレシピエントさんもサインされています。余談ですが、僕の働いているアメリカの病院でも、手術の承諾書は患者さんのサインをもらっていますが、日本で言うところの、インフォームドコンセントはどの手術でも取っていません。 日本は欧米から見ても、あまりにも、杓子定規なインフォームドコンセントの定義をしていると見られます。もちろん、今後は、日本の風土にあったインフォームドコンセントを取るべきでしょうが、この一点をもって病気腎臓移植を否定してしまうのは、やり過ぎでしょう。それこそ、木を見て森を見ずのたとえのごとく、本筋を見誤った所作と考えます。


大きな視点にたって、公平な報道をされることを期待します。


ちなみに日本における現状を申しあげますと、現在26万人の方(500人に1人)の方が透析を受けられていて、移植を望んで登録しても、脳死や心臓死からの腎臓は年間150前後しかなく、平均の待機年数は16年となっています。その間に、70%の方が、亡くなられています。生存率は透析の場合10年で約40%、移植をした場合10年で約80%です(日本透析医学会のホームページおよび、日本移植ファクトブックより)



万波先生たちの病気腎移植が昨年5月にサンフランシスコで開かれる米移植議会で発表されることになりました。この米移植議会というのは、米移植外科学会と米移植学会が6-7年前より共同で開催している学術会議であわせて3600あまりのメンバーを擁し、毎年、全世界より、5000人ほどの参加者を集めるアメリカで唯一最大の移植関連学会です。


特に、万波先生たちの論文はLate-Breaking Abstract と呼ばれるセッションで採択されました。本来の応募締め切りは一昨年の12月1日だったのですが、その応募には間に合わなかったが、翌年の会議(この学会は年に1度開催されています)まで、発表を先送りするには惜しい、とても重要でエポックメイキングな演題のみが採用されるセッションです(応募期限2月1日)。このことは、もっとも控えめにいっても、アメリカの移植関係者がとても関心を持っていることを示していると思いますし、もっと端的にいえば、わざわざ日本から招待してまでも、聞いてみたい、参考にしたいという思いが込められていると考えます。


ところが、日本移植外科学会理事長の田中紘一氏が 米移植外科学会会長のDr.Matas 先生に、あたかも警察が調査中であるかのような手紙を送ったため、この発表はキャンセルとなりました。これは、学問の世界で最も大切な言論の自由に対する許しがたい冒涜です。


幸か不幸か、田中紘一先生も万波誠先生も個人的に知っています。どちらも手術の腕前で言えば、その分野では右に出る者はいない達人です。田中先生も日本で生体肝臓移植をここまでの高みに発展された功績は素晴らしいもので、世界的にも注目されています。しかし、最近の行動は以前と違い、良識を逸しており、 詳しいことは、個人への非難となるため、この場では述べることは出来ませんが、日本の移植の将来に禍根を残す危惧を抱いています。 日本の争いを好まない、また、未だにある白い巨塔のしがらみから、これらの事実が表に出てこないところに、その根の深さを感じます。


その後、ドイツのエッセンやフランスのパリでの国際学会で、また、アメリカシカゴの学会で万波氏らの、病腎臓移植の症例を報告する機会を得ました。反応は様々ですが、移植症例の少ないアジアや中近東の医師達からは、熱い注目を得ました。


万波氏らの行った42例の詳細を記した論文がAmerican Jouonral of Transplantation という、移植の世界では最も権威のある医学雑誌への掲載が先日認められました(発行は数ヶ月あとと思われます)また、今年1月末にフロリダ南部で行われる全米移植外科学会冬季シンポジウムのトップ10の演題に選ばれ、1000ドルの賞金と、3日間のホテル代のプレゼントをいただけることになりました。このように、世界では、このレストア腎移植(病腎移植)は次第に認められる様になって来ています。


万波先生らの病気腎移植が、日本でも、再度始まり、多くの腎不全患者さんの福音となることを願ってやみません。


以上




フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』から

フロリダ大学University of Florida、略称:UF)はアメリカ合衆国フロリダ州ゲインズビル (Gainesville) にある研究中心の州立大学1853年創設。

州都タラハシーから車で2時間半、オーランドから2時間、ジャクソンビルから1時間半の場所にある。全米第4位の学生数(学生数50000人、学部生35000人+大学院生15000人)と全米第8位の運営費(約20億ドル)の規模を誇る州内一の名門州立大学。ナショナル・メリット推奨者(トップクラスの生徒に与えられるメリット奨学金選考に選ばれた優秀生)の数はハーバード大学についで2位。スポーツドリンクの草分け的存在であるゲータレードが発明されたことでも知られている。

フロリダ大学はフロリダ州立大学システムの1つで、U.S. News & World Reportのランキングでは学部レベルで47位(州立大学全体では13位)であり、
カリフォルニア大学バークレー校などと並んでパブリック・アイビー(アイビーリーグレベルの公立大学)の1つでもある。フロリダ大学は非常に優秀な学府しか入ることのできないthe Association of American Universitiesのメンバーでもあり、The 2006 Academic Ranking of World Universitiesでは世界の大学中53位にリサーチと教授陣の評価でランクされている。





 

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