何ともうさん臭い後期高齢者医療制度だが、個人的には「差し迫ったテーマ」ではない、と思っていた。すでに両親はこの世にいない。本人も元気な63歳。75歳には時間がある。
ところが、そんな悠長なことが言えなくなった。僕は脳卒中の後遺症で右半身不随の1級障害者。黙っていると、65歳から後期高齢者医療制度に加入させられる。
なぜ、後期高齢者は「75歳から」なのか、障害者は「65歳から」なのか? その判断材料がよく分からない。
そればかりではない。この4月からセットで導入された「終末期相談支援料」がくせ者である。下手をすると国家に殺される!
終末期相談支援料とは……終末期における療養について「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」などを参考にして、患者の十分な理解を得るために話し合い、その内容を文書(電子媒体を含む)または映像により記録した媒体にまとめて提供した場合には患者1人につき1回に限り2000円の医療報酬が支払われる、という仕組みだ。
ガイドラインには「終末期の判断」というタイトル。診断名のあとに「予想される生存期間」を(1)2週間以内(2)1カ月以内(3)数カ月以内(4)不明……とあり、医師がいずれかに○をつける。余命宣告である。
2枚目に「患者の希望」。点滴、人工呼吸器、蘇生術、急変時の搬送……などの有無が記載される。「いりません。死なせてください」と意思表明せざるを得ない雰囲気? 障害者仲間の一人が「周囲の圧力を感じて、人工呼吸器を外してください、と言いそうだな」と笑った。
1年間の終末期医療は約9000億円。助からない患者に使うカネを5000億円程度節約するのが、国家の狙いなのだろう。
延命治療のあり方には議論があって当然だ。家族の感情で医療費がかさむのを放置するわけにもいかない。しかし、あまりに唐突な提案。ヤブ医者に「終末期」と言われたらおしまいだ。
後期高齢者医療制度は小泉さんが「おれの時代は消費税を上げない!」と宣言して以来、困り果てた官僚が遮二無二「数字合わせ」に走った末の茶番劇。われわれは、選挙が怖くて、まともな税制改革を怠った政治家たちの犠牲になって良いのか?
黙ってはいられない。起(た)て! 万国の高齢者!と歌いたい気分である。(専門編集委員)
毎日新聞 2008年5月13日 東京夕刊
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