医師「過労死裁判」で遺族ら控訴

 東京都内の病院に勤務していた小児科医・中原利郎さん=当時44歳=の過労死をめぐる民事訴訟で、勤務先だった病院を運営する立正佼成会を相手取り、遺族らが4月11日、東京高裁に控訴した。妻の中原のり子さんらが立正佼成会に損害賠償を求めた東京地裁の3月29日の判決では、中原さんの当時の業務を「過重ではなかった」と訴えを棄却。遺族と支援者らが控訴に向け検討を進めていた。

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 中原さんの過労死をめぐっては、同29日の民事裁判に先立つ14日の行政裁判で、当時の勤務実態について「うつ病になる直前の1999年3月には、同僚2人の退職が決まり、宿直が8回に増え、休日は2日しかなかった。後任の医師が確保できず、管理職として強いストレスがかかっていた」と、東京地裁が業務の過重性を認める判断を下した。その上で「うつ病の原因として業務外のできごとは見当たらず、病院での業務が精神疾患を発症させ得る危険性を内在していた」と、業務負担とうつ病発症との因果関係を認め、労災認定した。

 一方、同29日の民事裁判では一転して「宿直中に仮眠ができないほど患者はなく、一定の余裕があった」などと判断。「宿直が8回に増えたとしても過酷ではなかった。業務が原因でうつ病を発症する危険な状態だったとはいえない」として、業務負担とうつ病発症との因果関係を認めず、原告の訴えを退けた。

 遺族ら原告団は民事訴訟で、中原さんが過重な労働実態にあったことと、使用者としての病院の責任についての2点を主に問うていた。しかし、病院に使用者としての責任があったかどうかの基準となる当時の中原さんの労働実態について、民事裁判では「過重ではなかった」と認定。月8回にわたる医師の当直の過重性をどう判断するかという面で行政裁判、民事裁判ともに同様の争点でありながら、全く正反対の見解が示されるという異例の事態を迎えていた。

 行政裁判では、厚生労働省が控訴を断念して労災が既に確定しており、今後、控訴審で医師の当直の加重性について、司法がどのような判断を示すかが注目される。


更新:2007/04/11 16:57     キャリアブレイン

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08/01/25配信

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医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。