労災認定と逆判断に批判相次ぐ

 過重だった仕事の実態を過小評価した、とんでもない判決…。小児科医・中原利郎さん(当時44歳)の過労死をめぐる訴訟。3月14日の行政裁判で労災認定されながら、勤務先の病院を運営する立正佼成会に損害賠償を求めた29日の判決では、一転して中原さんの業務を「過重ではなかった」と正反対の見解を示した。行政裁判で厚生労働省が控訴を断念して労災が確定した後だっただけに、病院による医師の業務管理の在り方を司法がどう判断するか注目されたが、その前提となる業務の過重性そのものを全面否定した。原告の妻・のり子さんは「次の裁判で判決が全く違っていることを立証していきたい」などと、弁護団や支援者と控訴を検討していく考えを表明した。

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 14日の行政裁判では、中原さんの当時の勤務実態について「うつ病になる直前の1999年3月には、同僚2人の退職が決まり、宿直が8回に増え、休日は2日しかなかった。後任の医師が確保できず、管理職として強いストレスがかかっていた」と認定。「うつ病の原因として業務外のできごとは見当たらず、病院での業務が精神疾患を発症させ得る危険性を内在していた」と、業務負担とうつ病発症との因果関係を認め、労災認定した。

 一方、29日の民事裁判では「宿直中に仮眠ができないほど患者はなく、一定の余裕があった」などとした上で「宿直が8回に増えたとしても過酷ではなかった。業務が原因でうつ病を発症する危険な状態だったとはいえない」として業務負担とうつ病発症との因果関係を認めなかった。

 原告側は、中原さんが過重な労働実態にあったことと、使用者としての病院の責任についての2点を問うたが、病院に使用者としての責任があったかどうかの判断基準となる当時の中原さんの労働実態自体を司法は「過重ではなかった」と判断。行政裁判と民事裁判で、被告の違いはあっても、8回にわたる医師の当直の過重性などをどう判断するかという面では同様の裁判でありながら、全く正反対の判断が下された。

 判決後の集会で、弁護団の川人博弁護士らは「労災が認められ、病院の労務管理に相応の責任があることや安全な職場環境づくりに配慮していたかが問われるべき事案だっただけに、意外であり残念」と語り、「同じ裁判で180度も異なる判断が示され、法律家として釈然としない。これでは、司法の不信にもつながる」と危惧した。

 中原のりこさんも「予想しなかったことで驚いているが、次の裁判で判決が違っていることを立証していきたい」などと控訴を検討する考えを話した。また、医師を目指す支援者は「こういう判決が出されると、やる気を失せてしまう。医師を守らず、病院の劣悪な環境を守る非常に危険な判断だ」と憤りをあらわにした。小児科の現役医師も「健康に仕事を続けられる環境でないと、小児科の勤務医はどんどん辞めていき、医師不足が加速する。過重な労働を強いた病院に責任がある」などと語気を強めた。


更新:2007/04/02 11:02     キャリアブレイン

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08/01/25配信

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医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。