小児科医の過労死「労災認定」と逆の判断

 東京地裁が3月14日に出した行政裁判の判決で労災と認定された小児科医・中原利郎さん(当時44歳)の自殺をめぐり、遺族らが勤務先だった病院を運営する立正佼成会に約2億6,000万円の損害賠償を求めていた民事裁判の判決で、同地裁は29日、原告側の訴えを棄却した。

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 14日の裁判では、医師の当直の過重性などが争われ、地裁(佐村浩之裁判長)は病院での過重な業務負担とうつ病発症との因果関係を認め、労災と認定。一方、この日の判決で、湯川弘昭裁判長は「過重な業務をしていたとは認め難い」と、中原さんのうつ病発症と業務との因果関係を否定する正反対の判断を示した。原告側は「同じ裁判で判断が異なり、釈然としない」などと不信感を高めており、控訴を検討している。

 判決によると、中原さんは1999年1月、立正佼成会附属佼成病院(東京都中野区)の小児科部長代行に就任。直後の3月に勤務医2人が退職したにもかかわらず、医師の補充はなく、中原さんは同月だけで8回にわたる宿直をこなすなど、他の医師に比べても、より業務が増えることになった。その後、6月ごろまでにかけて、うつ病を発症し、8月16日、病院の屋上から身を投げた。

 原告側は「部長代行就任の前後で小児科の常勤医が減り、宿直が月に8回あったり、休日も2日しかなかったり、業務は過酷で、うつ病の発生は病院での過重な労働によるもの」と主張。裁判では、中原さんの当時の勤務状況が過重労働に当たるか、また中原さんの自殺に病院側の責任があるか―などが争点になると見られていた。しかし、湯川裁判長は、「宿直中に仮眠ができないほど患者はなく一定の余裕があり、業務が原因でうつ病を発症する危険な状態だったとはいえない」とした上で、うつ病発症との因果関係を否定し、病院を運営する立正佼成会の責任について触れなかった。

 原告で中原さんの妻・のり子さんは「裁判官が違うとはいえ、予想していなかった判決で、驚いている」と述べ、弁護団の川人博弁護士らは「到底承服できない」とした上で、同じ裁判で判断が分かれた点に関し「司法の不信にもつながる」と話した。


更新:2007/03/30 20:32     キャリアブレイン

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