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社会保障費の抑制 もう限界ではないのか '08/5/13

 いくら財政再建をめざすためとはいえ、社会保障費の増大分を毎年二千二百億円も削って、国民の健康や老後の安心が守れるのだろうか。医師不足など地域医療の崩壊が進む中で、政府の方針はもう限界と言わざるを得ない。

 舛添要一厚生労働相は「抑制は限界だ」と現状を述べ、自民党の伊吹文明幹事長らも見直しの必要性を唱えている。福田康夫首相も「難しい段階に来ている」との認識を示す。

 しかし、「小さな政府」を掲げる財務省はおいそれと受け入れそうにない。現に額賀福志郎財務相は抑制を続けることを言明している。来月にも閣議決定される「骨太の方針2008」に向けて、政府・与党は難しい調整を迫られることになりそうだ。

 社会保障費の抑制見直しがここにきて政権維持のキーワードとなったのは、医療や介護の現場にもたらされた混乱と疲弊がある。七十五歳以上を別枠にした後期高齢者医療制度、療養病床の大幅削減、産科や小児科医の不足、介護報酬切り下げによる人材難…。国は財政再建を名目に社会保障費関連の歳出を抑えてきたが、国民の間には大きな不満が残った。

 宙に浮いた年金問題でまず「ノー」を突きつけたのが安倍政権下の昨年七月の参院選だ。自民党は参院の第一党の座を奪われた。後を継いだ福田内閣は、今年四月の衆院山口2区補選でも敗れた。足を引っ張ったのは、事前の説明が不十分のため混乱した後期高齢者医療制度だった。

 この制度については、自民、公明両党が、一部高齢者の保険料の免除を十月以降も延長する検討に入った。

 社会保障費の抑制は小泉内閣時代の「骨太の方針2006」にさかのぼる。国・地方の基礎的財政収支を二〇一一年度で黒字にするとして、〇七年度から五年間で歳出を計一兆一千億円圧縮する計画だ。

 それだけに、財務省には与党の要求でも譲れない事情がある。額賀財務相は今後の経済財政運営の基本的な考え方として、骨太の方針の改革姿勢は変えないという構えだ。財務省内には、社会保障費でたがが外れれば、なし崩し的な歳出増になると警戒心が強い。

 見直し論浮上の直接の理由は、本年度予算に織り込まれた二千二百億円抑制の実現が危ぶまれているためだ。政府は圧縮分のうち約一千億円について、政府管掌健康保険(政管健保)の国庫補助を健康保険組合などに肩代わりさせる特例措置で捻出(ねんしゅつ)する計画だった。ところが、「ねじれ国会」で成立のめどが立っていない。

 福田内閣の支持率が19%と低落していることもあり、与党内には「これでは衆院選に勝てない」との声が強まっている。社会保障政策の立て直しなしには、政権の浮揚はあり得ない。ただ、小手先の見直しに終わらせてはなるまい。給付と負担をどうするのか、社会保障の将来ビジョンを国民に明確に提示すべきだ。




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