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【社説】

ヤフー買収断念 マイクロソフトの迷走

2008年5月13日

 ソフト業界の巨人マイクロソフトが検索サイト大手のヤフー買収を断念した。マイクロソフトには資金力にものをいわせるだけでなく、独自技術の開発で利用者の利便を増す努力を期待したい。

 買収断念の理由を、マイクロソフトのバルマー最高経営責任者(CEO)はヤフーCEOのヤン氏にあてた書簡で明らかにした。

 それによると、ヤン氏は買収を防ぐため、ライバルのグーグルとの提携も辞さない動きを見せていたらしい。

 これまで失敗の理由として買収金額が折り合わなかったことが挙げられてきたが、それだけではなかったようだ。自由な社風を尊ぶヤン氏だけに、マイクロソフトの中央集権的な体質を嫌い、グーグルとヤフーの一、二位連合を組んででも買収を拒否するつもりだったとみられる。

 ネット業界を揺るがせた大型買収劇は、いったん白紙に戻ったことになる。生き残りを懸けた買収計画が、頓挫したことでマイクロソフトは、その威信が大きく傷ついたばかりでなく、ネット検索という成長分野で活躍する手掛かりも同時に失った。

 同社の収益源であるウィンドウズは技術開発の頭打ち感がある。もう一つの収益源であるワープロや表計算など単体ソフトもこれ以上の大きな進歩は望み難い。

 収益源に特化して生き残りを図るのか、あくまで成長が期待されるネット検索で首位追撃を目指すのか大きな判断を迫られている。

 買収を拒否したヤフーにとっても、今後の明確な成長戦略を描けているわけではない。買収を期待して値上がりした株価を維持しなければ、株主の不満が噴き出す恐れもある。これからヤフー自体も新たな提携先を探さねばならないのではないか。

 逃げ切りに成功したグーグルでさえ、新技術が現れれば、たちまち競争力を失う可能性もある。

 ネット利用者も安閑とはしていられない。企業間の激しい競争のおかげで無料の検索サービスを受けられるように見えるが、費用はネット広告を出すスポンサーが負担して商品価格に上乗せされる仕組みだ。

 検索を利用するたびに、消費の好みなど個人情報を抜き取られるのも心配になる。

 一見便利なサービスにも裏には複雑な仕掛けが潜んでいる。企業同士の競争が、思わぬ不利益につながらないよう、利用者も注意の目を光らせる必要がありそうだ。

 

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