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【主張】赤ちゃんポスト 育児への相談窓口充実を
親が育てられない赤ちゃんを匿名で受け入れる慈恵病院(熊本市)の「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」設置から1年が過ぎた。
これまで病院も行政機関も預け入れの有無さえ明らかにしていないが、この間、赤ちゃんはほぼ毎月置かれ、少なくとも計16人が預けられたようである。
熊本市は近く運用状況の一部を公開する考えだというが、社会が赤ちゃんポストの是非を考えるための情報は必要だ。その赤ちゃんの福祉や親のプライバシーに差し障りのない範囲でデータを公表してほしい。
熊本市と県は共同で有識者を交えた会議を開催して検証を進めているともいう。その結果もきちんと公表すべきである。
赤ちゃんポストは、その設置前から「赤ちゃんの命を救う観点からやむを得ない緊急避難措置だ」と容認する意見がある一方で、「捨て子を助長することになる」と反対する声も強かった。厚生労働省や熊本市が「許可しない合理的な理由はない」と苦渋の決断でその設置を認めた経緯もある。
賛否は割れたままだが、社会が大きな関心を持っていることは間違いない。
慈恵病院の蓮田太二理事長は「一番の目的は赤ちゃんを預けるのではなく、育児の悩みをできるだけ相談してもらうことにある」と強調してきた。
そのため、ポストの扉の脇に専門スタッフとつながるインターホンを設け、中の保育器にも「気持ちが変わったら連絡してほしい」と書かれた手紙を置くなどの配慮をした。16人のうち1人は親が引き取りにきたというのは、その成果なのだろう。
慈恵病院や熊本県、熊本市が、赤ちゃんポストの設置を機に相談窓口を強化したところ、3月末現在で計約1500件もの相談が寄せられた。うち判明しているだけで300件以上が熊本県外からだった。大半が20代から30代だ。
相談内容は子育てに関するアドバイスを求めるものから望まない妊娠に対する不安などさまざまで、ほとんどが周囲に相談できないケースだった。
最近、出産や育児に対する若い母親の不安が増大しているという。ポストはそれに応える役割を果たしたともいえる。そうした状況を社会全体が認識し、行政も相談窓口を充実させたい。