2050年には温暖化ガスの排出を60―80%削減する。政府はこれを日本の長期目標として表明する方針だ。京都議定書が採択されてから現在までの11年間、日本は温暖化防止交渉の国際舞台で、京都議定書以降の自らの削減目標については、ひたすら沈黙してきた。
そのことが、環境立国を旗印にする日本が実は相当に「逃げ腰」ではないかという、国際社会の評価につながっている。安倍晋三前首相は50年に世界で半減という前向きの提案をしたが、日本自身の削減目標にまでは言及していない。
7月の主要国首脳会議(洞爺湖サミット)が迫り、政府が長期目標を掲げると決めたことは評価する。しかし、40年以上先の約束手形を1枚切ったぐらいで、サミット議長国として主導権を発揮できるほど、気候変動を巡る交渉は甘くはない。
50年に60―80%減という数字は、欧州がとっくに先進国全体の目標として掲げている。米議会に提出されている温暖化防止法案にも書き込まれ、米大統領選の候補者もみな言及している。日本がこの数字を、欧米から周回遅れでしか口にできなかった理由は何だろう。
日本の産業は省エネが進んでいて、削減余地が少なく、政府の削減計画よりも業界の自主行動で。今や根拠が怪しくなってきた「乾いたぞうきん論」の影響もあってか、この11年間、総量削減目標の策定はおろそかになり、排出量取引など市場を介した削減システムの世界的な潮流からも遠ざかったままだった。
今は、経済成長と温暖化防止を両立させる低炭素社会へかじを切り損ねた日本が、サミットの議長国として仕切り直すチャンスかもしれない。産業の構造も企業の体質も現状維持を前提とした自主行動の積み上げなどでは、60%とか80%の削減などできるはずはないのだから。
福田康夫首相が提唱する低炭素革命、産業や社会の構造変化を促す政策をもっと踏み込んで示せば、環境立国日本の志は世界に伝わる。まず、長期目標だけでなく、ポスト京都議定書、13年以降の枠組みで、日本が削減する目標数値、20年までの中期目標を掲げる必要がある。
次に、中印など大排出国を巻き込むためにも、世界全体で排出量が減少に転じるピークアウトの時期を明示して、先進国と途上国が合意を得られるように議論を主導することだ。どちらも難題だが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告を見れば、政治がいま一歩踏み込まないと、危機は回避できない。