市民を無差別に殺傷するクラスター爆弾を禁止する国際条約交渉が最終段階を迎える。賛同国が条約作りに取り組む「オスロ・プロセス」は19日からアイルランド・ダブリンで最後の国際会議を開く。この会議で条約案を採択し、12月に加盟国が署名する日程だ。
2001年アフガニスタン、03年イラク、06年レバノン。戦争のたびに、クラスター爆弾が使われ、民間人の犠牲が増え続ける。住民は保護され、無用の苦痛をもたらす兵器は禁止される。そうした国際法の原則をこの兵器に適用すべきだ。罪のない子供や市民が殺される不条理を終わらせる機会を逃してはならない。全面禁止か、例外を認めるか、など条約案に争点は残る。国際規範となる強い条約を策定する決意を参加国に促したい。
毎日新聞は、日本政府がオスロ・プロセスの禁止条約に賛成するよう繰り返し求めてきた。今年中の条約制定を掲げた政治宣言に日本は2月、ようやく署名した。だが、交渉をリードする立場でないのは残念だ。
クラスター爆弾は容器に詰まった数個から数百個の子爆弾が数百メートルの広い範囲に飛び散る。軍事目標と民間人を区別せずに攻撃する。さらに戦闘後も不発弾として残るため、地雷と同じように、突然、爆発して死傷者が増える。国際非政府組織の調査では、25カ国・地域で4億4000万個以上の子爆弾が使われた。死傷者の98%が民間人で、27%は子供だった。
国際会議で公式に禁止に賛同した日本が、クラスター爆弾保有を正当とする立場を続けるのはおかしい。
例えば、石破茂防衛相はクラスター爆弾を「抑止力として持つ」と述べ「使う場合は民間人を退避させ、不発弾が残っていないことを完全に確認して住民が戻る」と説明した。戦闘中に民間人の避難が可能なのか、不発弾の完全除去が実行できるのか、疑問だ。
ベトナム戦争で米軍が使ったクラスター爆弾の不発弾による死傷者はいまも出ている。これまでの使用国が自国内ではなく敵国攻撃で使ったのは、自軍の兵士や自国民を危険にさらさないためでもある。「防御用」という日本の論理に説得力はあるだろうか。
97年、採択された対人地雷禁止条約でも日本は加盟に慎重だったが、小渕恵三外相(当時)の決断で方針を変え署名した。保有していた地雷約100万個を全廃したし、各国の地雷除去を推進し感謝されている。
クラスター爆弾も地雷と同じように一般人を殺傷する非人道兵器だ。地雷は全廃したのにクラスター爆弾を保有するのは矛盾している。河野洋平衆院議長を代表とする超党派のクラスター爆弾禁止推進議連も発足した。福田康夫首相の政治決断で禁止の旗を掲げる時だ。軍縮の理想を追求する日本の国際評価を高める好機でもある。
毎日新聞 2008年5月13日 東京朝刊