◎硫化水素対策 二次被害防止へ訓練重ねよ
全国で硫化水素による自殺が後を絶たない中、県警や消防機関が二次被害防止の対策徹
底に乗り出すのは当然である。石川、富山県内でも同様の自殺が相次ぎ、射水市では住民約三十人が避難する騒ぎも起きている。考えたくはないが、全国の事例をみれば、マンションやホテル、自動車内など、いつ、どこで起きるか分からない深刻な状況である。
消防庁の集計では、硫化水素による死者(今月七日夕現在)は、三月二十七日以降、少
なくとも八十九人に上り、巻き添えになった負傷者は百五十九人に達した。練炭自殺など、これまでの連鎖的な自殺と決定的に異なるのは、このように第三者の命も危険にさらされていることだ。有害ガスをいとも簡単に発生させている現実にもっと危機感をもつ必要がある。
警察や消防機関は自殺案件というより、一歩間違えば無差別殺人にもつながりかねない
「化学物質犯罪」の側面を重視し、明確な対応指針を定めるとともに、合同訓練などを重ねてほしい。
警察庁は、硫化水素の発生方法を記したインターネット上の書き込みなどを「有害情報
」に指定し、プロバイダーやサイト管理者に削除を要請した。日本チェーンドラッグストア協会は、自殺に使われているとみられる硫黄入り商品の販売を当面自粛することを決めた。自殺を思いとどまらせる決め手がない以上、こうしたネット規制や商品の流通規制など、考えうる手立てを総動員して防止策を講じるしかないだろう。メーカー側にとっては、硫化水素が発生しにくい商品の考案も今後の課題である。
石川県内では、金沢市消防局が全職員対象の硫化水素講習会を始めたほか、県警でも各
署に通達を出し、避難誘導などの手順を確認している。ホテルでも防毒マスクを準備するところが出てきた。
硫化水素はどの程度、ガスが発生し、周囲に拡散しているのか把握は極めて難しい。住
民の避難、負傷者の搬出、救助側の装備充実など、あらゆる事態に即応できるよう万全を期してほしい。既存の「毒劇物対応マニュアル」が、硫化水素でも対応可能か点検する必要もあるだろう。
◎鳥インフル拡大 トキの分散飼育急ぐ必要
秋田県や北海道で、オオハクチョウの死がいから見つかった鳥インフルエンザウイルス
は今後、国内に拡大していく可能性がある。韓国では四月三日に見つかって以来、わずか一カ月で全国三十五カ所に広がり、鶏など六百五十万羽が処分された。野鳥の監視と養鶏農家への防疫体制を強化するのは当然だが、現在、佐渡トキ保護センター(新潟県)と多摩動物公園(東京都日野市)の二カ所だけで飼育されているトキの分散飼育を急ぐ必要がある。
昨年十二月、佐渡トキ保護センターで鳥インフルエンザが発生した場合に備えて、トキ
の繁殖ペア二組が多摩動物公園に送られた。これは万一、感染が及んだ場合、全滅を防ぐための「緊急避難」の意味合いが強く、トキの飼育状況も非公開になっている。それでも今年四月には、一羽のヒナが誕生し、トキ保護センター以外でも繁殖が可能性なことを実証した。
環境省はさらなる分散飼育の候補地として、石川県と島根県出雲市、新潟県長岡市の三
カ所のなかから、新たな飼育場を今年中にも決める予定である。飼育や繁殖のノウハウはほぼ確立されているとはいえ、新天地で新たに飼育を始めるまでには、かなりの時間を要するだろう。鳥インフルエンザ被害の拡大を甘く見ず、飼育地の決定を急いでほしい。
石川県が分散飼育地に選ばれた場合、能美市のいしかわ動物園で受け入れることになる
だろう。同園では既にトキの近縁種「クロトキ」など、十七羽が飼育され、着実に繁殖実績を積み上げている。たとえ、トキの分散飼育地に決まったとしても、当面は「非公開」となりそうだが、繁殖の実績が上がれば、一般公開への道が開けるはずだ。
愛鳥週間に合わせて、石川県最後のトキ「能里(のり)」のはく製の特別展示が金沢市
の県立歴史博物館で始まった。能里は、一九七〇年に穴水町で捕獲された能登半島最後のトキで、佐渡に送られた翌年、トキ保護センターで死亡した。トキ保護センターで生まれたトキが、石川県に「里帰り」する日を心待ちにしている。