2008年05月13日 更新

“西武を変えた男”デーブ大久保コーチ、快進撃の秘密を激白!

強力レオ打線を引っ張る大久保打撃コーチ(右)。チームのムードメーカーでもある。左は片岡

強力レオ打線を引っ張る大久保打撃コーチ(右)。チームのムードメーカーでもある。左は片岡

 開幕前にこの快進撃を予想した人は、どれだけいただろうか? 昨季26年ぶりのBクラスとなる5位に沈んだ西武が、貯金13、2位以下に6ゲーム差をつけて首位を快走している。和田(中日)、カブレラ(オリックス)の両主砲が抜けながら、12球団断トツの56本塁打&195得点をたたき出している強力打線が脚光を浴びる中、新任の大久保博元打撃コーチ(41)に、チーム躍進の要因などについて聞いた。

(聞き手・高橋潤平)

 ――開幕前の予想を覆して、2位日本ハムに6ゲーム差をつけて首位を快走。特に打線が好調で大久保打撃コーチの手腕が発揮されています

 「僕は特に何もしていない。土井(前ヘッドコーチ)さんや立花(前打撃コーチ)さんがしっかり基礎を作ってくれたものが、今、花開いたということでしょう」

 ――40試合で56本塁打の打線が、他球団にとって脅威になっている

 「昨秋からしっかり練習した成果がでて、みんなしっかりスイングができている結果だと思う」

 ――昨季との違いは何か

 「昨季より各打者の打席での制約が減っていると思う。右打ちなど臨機応変の打撃は必要だが、1番から9番まで打撃の定義は一緒。まずは『しっかり振り切る』ことを前提にしている」

 ――選手にも意識付けが浸透している

 「例えば(右打者が)おっつける右打ちなんかは、状況によって必要なときがあるけど、そればかり練習していたら逆にバットのヘッドが下がってしまう。応用編よりも基本を大事にしている。打者によっては2ストライクになっても1発を狙っていいぞ、というときもある」

 ――カブレラ(オリックス)、和田(中日)の両主砲が抜けた影響はなかったのか

 「あの2人は間違いなくいい打者なのは事実。ただ、それを補えるものがあるとも考えていた」

 ――具体的にいうと

 「ファウルの数も1つの例。今月1日時点で(スコアラー陣の調査によるファウルの数が)リーグトップ10でうちの打線から5人出ている。それだけ粘れれば、相手投手の疲労も早まるし、それだけチャンスが多くなるということ」

 ――他に西武打線が持つ長所は

 「アクシデント以外の故障者が出ていないことは誇れると思う。試合に出続けることで成長もできる」

 ――大久保コーチがベンチのムードメーカーにもなっている

 「僕よりも渡辺監督の存在が大きい。試合後のミーティングでも選手をくさした(ミスをとがめた)覚えがない。ミスをしても『それを防ぐための対策を立てなかったオレたち首脳陣が悪い』という考えなので、選手はやりやすいし、僕らコーチも真剣になる」

 ――7日の日本ハム戦(西武ドーム)でサヨナラ勝ちしたときは、喜びのあまり右太ももを肉離れしてしまいました

 「ちょっと恥ずかしかったね(笑)。でも9日から象にも効くらしい(笑)座薬をいれて打撃投手もしたよ。自分だけじゃなく、人のためのほうががんばれるものだよ」

 ――大久保コーチの指導は午前7時半からのアーリーワーク(早朝練習)や個人単位のミーティングなど、ユニークなものが多い

 「評論家を13年間やった経験が生きたのかもしれない。自分は現役時代の実績がほかの方よりなかったので、人一倍勉強して現場の人に取材した。昨年も松坂(大輔)のメジャー初キャンプの仕事のときにレッドソックスの(捕手の)バリテックに練習方法も聞いたりしていたから」

 ――選手の体調や指導内容などを記した独自の「カルテ」などもそうか

 「そうだね。選手の状態や指導方法を記録して保管することは、自分がコーチをやめても、球団の財産として残る。継続的に育てるにはいいアイデアだと思った」

 ――プロゴルファーとしての顔も持っていることは野球のコーチとしても生きたのか

 「レッスンプロとしての講習を180時間受けて、教え方に気を使うようになった。服の色で自分の印象が違うことも意識するようになった」

 ――ゴルフとの共通点はあるのか

 「ゴルフも野球も、慣れ親しんだフォームを変えようとすると、人間の体はすごく違和感を覚えてなかなかうまくいかない。そこを納得してもらって、練習して新しいものをなじませることができるのかが勝負になる。(練習)量が質を生むことがよくあるから」

 ――今後の西武打線の目標は

 「あえて目標を置かないようにしている。これもゴルフのラウンドをする心構えに似ているけど、シーズンチーム通算200本塁打を狙える打線でも、それを意識したら打撃を崩してしまうし、達成しても気が抜けてしまう。1試合1試合戦っていくだけです」


■大久保 博元(おおくぼ・ひろもと)

 1967(昭和42)年2月1日、茨城県生まれ、41歳。水戸商高から85年ドラフト1位で西武入団。92年途中に巨人へトレード移籍。持ち前の長打力と明るさで人気者となる。95年に現役引退。通算成績は303試合に出場、打率.249、41本塁打、100打点。引退後はサンケイスポーツ専属評論家ほか、フジテレビ、ニッポン放送の解説者としても活躍。プロゴルファーとしてもトーナメントに出場した。右投げ右打ち。愛称「デーブ」。

★特製カルテ

 大久保打撃コーチが発案して、今季から2軍を含めた野手全員の指導内容や体調、打撃の課題などを顔写真つきの書類にまとめている。首脳陣が定期的にそのカルテをチェックすることで、チーム全体の情報共有と長期的、計画的な選手育成に役立てている。4月5日に不調で2軍落ちしていたボカチカが、同26日に1軍に再昇格していきなり5戦4本塁打と大活躍。2軍からの詳細な情報を受けての抜てきだった。

★服の色の効果も

 大久保打撃コーチはユニホーム以外の私服やジャージーの色にも気を使っている。「赤系の服は、攻撃的なイメージだからあまり他人に受け入れられない。選手を指導する人間としてちょっとね。青とかなるべく落ち着いた色を選ぶようにしているよ」。服の色も指導に役立てている。

◆西武・熊沢打撃コーチ補佐

「相手のミスや四球を絶対に得点に結びつけてやろうという意識が強いから、相手に与えるダメージが大きいと思う」

◆西武・中島

「昨年と変わったことをしているつもりはないけど、みんなが打つから負けられないという気持ちがあります」

★渡辺監督、投手も評価

 チームの快進撃の要因について、渡辺監督は強力打線とともに投手陣の頑張りがあると分析している。「救援陣もいいし、先発が6回を3失点くらいで試合を作ってくれている。途中まで打線がダメでも“射程内”の点差を保ってくれるからやる気が違うよね」。40試合を終えて、先発投手が6回3失点以内で抑えた試合は実に7割を超える29試合。5勝1敗の石井一を中心に、チーム防御率はリーグ2位の3.25と投手陣も奮闘している。

■データで見る好調西武

★本塁打量産
 打線はチーム打率.259がリーグ3位だが、56本塁打はリーグ1位。昨年の40試合時よりも18本アップ。このペースでいけばシーズン201本までいく計算だ。
 カブレラ、和田の退団で長打力も不安があったが、ブラゼル&ボカチカの新外国人勢で計19本。昨年からの主力組である中島、中村、G.G.佐藤も着実に本数を増やしており、4月25−30日にはプロ野球タイの「5試合連続3本塁打以上」を記録した。
 本拠地・西武ドームでは22試合で40本、1試合平均1.82本。残り46試合で83本放ち、最終的に123本のペース。西武ライオンズとなり所沢に本拠地を移した79年以降の同球場でのシーズン最多は01年の94本。1試合平均の最多は80年の1.54本。どちらも上まわる驚異的なペースで量産している。
★先発陣も好調
 先発だけで18勝(9敗)は昨年の40試合時と同じだが、負け数は14敗から5つ減少。先発防御率3.07と先発の平均投球回6.60は昨年と比較して大幅によい。また「1人の投手による完封」は11日の帆足で4度目(帆足、岸とも各2)、早くも昨年に並んだ(岸2、涌井、帆足各1)。

★石井一、13日鷹戦先発へ準備万端

 13日のソフトバンク戦に先発する石井一が、ダッシュなどで最終調整を行った。サンマリンスタジアムでの登板は初めてとあって、マウンドの固さを入念にチェック。「少しやわらかいけど大丈夫。お互い手の内がわかってきたけどがんばります」と今季4度目の対戦に気合を入れた。

(宮崎)

★新弁当発売

 西武は21日のヤクルト戦(西武ドーム)から中島裕之内野手(25)がプロデュースする「ホームラン弁当 ナカジバージョン」を1200円で発売すると発表した。