れんがを一つ一つ積み上げていく。その数二百三十万個にも上り、職人たちによる地道な作業が続く。JR東京駅にほど近い丸の内のオフィス街で進む「三菱一号館」の復元工事だ。
一八九四年に丸の内で最初のオフィスビルとして誕生した赤れんが造り。当時のデザインや建築技術、部材にこだわって再生している。来春完成の予定で、準備期間を経て美術館として利用される。
現在、三階建ての二階部分まで積み上がった。赤れんがに映える基壇の白い御影石に使われたのが、笠岡市・北木島産の北木石だ。もとの建物は一九六八年に解体され、どこの石を使用していたか記録がなかった。建設当時の産地や運搬の状況から瀬戸内産と推測し、北木石が選ばれた。
すぐ近くにある昭和初期の重要文化財・明治生命館にも北木石が使われている。三年前に終えた修復の際も、担当者が北木島を訪れて建設時と似た石を注文したという。
北木石は、質の良さや石工の技術に支えられ、明治期に販路を拡大した。北木石材組合などによると、日本橋や日本銀行本店、三越本店といった北木石を使った東京都心の著名な建築物は多い。
日本の近代化の中で、瀬戸内の石の島が果たした役割は小さくない。これら建築物の維持補修のためにも、島の石材産業は重要だ。