二〇〇七年度の国土交通白書は七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)を控え、地球温暖化対策を前面に打ち出したのが特徴だ。「進行する地球温暖化とわたしたちのくらし」をテーマに掲げ、運輸や都市づくりの分野での地球温暖化防止に向けた課題を取り上げ、とるべき方策を示している。
地球温暖化の一因は二酸化炭素(CO2)であり、国内で排出されるCO2の約二割を占めるのが運輸部門だ。白書は、自動車の平均走行時速を二十キロから六十キロに上げれば、燃費の改善によって一台当たりのCO2排出量は約40%低減すると指摘した。
走行速度を上げ、車の流れを円滑にするために、渋滞対策を挙げており、いわゆる“開かずの踏切”の解消や都心に入り込む車を減らす環状道路の整備を求めている。高速道路は一般道に比べて走行性が高いため、CO2排出量は少ないが、インターチェンジの間隔が長く、乗り降りが不便なことや料金に割高感があり、利便性をさらに向上させる必要があるとした。
国会で道路特定財源の無駄遣いが批判を受ける中、道路整備の必要性をあらためて訴えた形だ。どこまで説得力があるだろうか。もっとも、既に整備されているインフラは、有効に活用するべきだ。高速道路は料金の大幅値下げなど見直しをして、利用促進を図る必要があろう。
白書は車から公共交通機関へのシフトを促している。鉄道のCO2排出量は、自家用車に比べて大幅に少ないという。さらに地方でも公共交通機関を整備して、人口分布や都市機能がまとまった集約型の都市づくりを提唱する。
公共交通機関が整備されている大都市圏に比べ、地方は車に依存している。公共交通機関へのシフトと言われても、鉄道もバスも、どちらも路線がなかったり、あっても本数が少ないなど利用しにくい実態がある。
白書では、青森市の中心市街地の居住人口を増やすコンパクトなまちづくりと、富山市の次世代型路面電車(LRT)整備を集約型の事例として紹介している。都市の活性化を目指した施策が、地球温暖化の防止にもつながる都市づくりとして参考になる。公共交通機関の整備は、郊外に分散した都市機能の集積とあわせて、中長期的に取り組まなければならないまちづくりの課題といえよう。
このほか、温暖化対策として住宅・建築物の省エネ性能の向上などの対策強化も盛り込んでいる。具体的な施策として一層の工夫が求められる。
自民、公明、民主三党が共同提案した「宇宙基本法案」が衆院内閣委員会で、賛成多数で可決された。内閣委員長提案の形で本会議に提出され、今国会で成立する見通しだ。
これまでの日本の宇宙開発は、平和目的に限るとした一九六九年の国会決議に基づき、「非軍事」を原則としてきた。法案は、憲法の平和主義の理念にのっとった上で「安全保障に資するよう行う」として、防衛省による偵察衛星の開発運用などを非侵略の範囲で容認、宇宙の防衛目的の利用に道を開く内容となっている。
法案は、政策の司令塔として内閣に首相を本部長とする宇宙開発戦略本部を設置し、施策の推進のために宇宙基本計画を策定するとしている。また、法施行後一年をめどに、本部機能の内閣府移行や宇宙航空研究開発機構など関係機関の組織見直しをする。
日本の情報収集衛星は一九九八年の北朝鮮のミサイル発射を契機に、これまでに四基が打ち上げられている。事実上の偵察衛星で、撮影画像は防衛省も利用可能だが、近隣諸国からの反発を招かないよう大規模災害など多目的活用を図ることとしていた。
問題は、これまでの情報収集衛星の運用実態が明らかにされていないことだ。どのように活用され、具体的に成果があがっているのか。検証作業をすることが先決だ。
法案が成立すれば、「非軍事」という宇宙開発の原則は一段と崩れ、歯止めがかからなくなる恐れがある。防衛省が独自に運用できるようになった場合、「非侵略の範囲」という条件が、守られるのか要警戒だ。なし崩し的に宇宙の軍事化が進むことがないよう、さらに議論を深めていく必要があろう。
(2008年5月12日掲載)