「安全な食」への関心の高まりを背景に、地元の朝採り野菜や魚介類、ブランド肉などを扱って人気を集める「直売所」に変化が起きている。福岡県内では近年、大型スーパー並みの売り場面積と駐車場を備えた直売所が相次いでオープンする一方、先発組である中小規模の直売所は淘汰(とうた)の波に洗われている。識者からは「地産地消の持ち味や地域それぞれの特色が失われないか」と懸念する声も出始めた。
福岡市に隣接する福岡県前原市の国道バイパス沿いに、昨春に開店したJA糸島産直市場「伊都菜彩(いとさいさい)」。400台分の駐車場を備え、売り場面積約1300平方メートルは農水省調べによる全国平均の7倍もある。10日に来店した福岡市城南区の男性(73)は「野菜の形はふぞろいでも安くて新鮮。月数回は車でまとめ買いにくる」と話した。
同時期にオープンした同県宗像市の「道の駅むなかた」(約1.4ヘクタール)の直売所は、当初見込みの3倍を超す1日平均6400人が来店。急きょ市は渋滞する国道の拡幅工事をし、第2駐車場も確保した。
福岡県内では昨年以降、朝倉市や筑前町にも大型直売所が開業。久留米市や宮若市でも年間数億円の売り上げを狙う直売所の開業計画がある。
同県によると、県内全域の直売所の推定売上高は、2000年の計68億円から07年は計200億円に急増。一方で、直売所数は04年3月末の259カ所をピークに減少に転じ、07年3月末には230カ所まで減った。
九州の直売所事情を調べた福岡市の民間調査機関「よかネット」の原啓介研究員によると、同市近郊や佐賀、熊本両県北部など福岡都市圏住民の日帰り圏内が直売所の激戦地。中には大型スーパー並みの品ぞろえを確保するため、地元にない品を域外から調達する直売所もあるという。
原さんは「中小規模の直売所は苦戦しており、生産者が高齢化した地域では品数が確保できず、閉鎖する直売所も目立つ」と指摘。農産物直売所を研究し、九州大大学院で博士号を取得した樋口泰範さん(前福岡県うきは市教育長)は「行き過ぎた大型化や商業化の路線は、直売所の本来の特色を失いかねない」と警鐘を鳴らす。
=2008/05/12付 西日本新聞朝刊=