医療安全調の検討、厚労省の手法に問題

 東大医科学研究所の上昌広特任准教授はこのほど、横浜市内で開かれた神奈川県保険医協会主催の会合で講演し、厚生労働省が設置を検討している「医療安全調査委員会(医療安全調、仮称)」について、「舛添大臣など既存の手法に縛られないリーダーの台頭や、オンラインメディアの発達などにより、厚労省の従来型の合意形成の手法が通用しなくなっているため、検討がうまく進んでいない」との見方を示した。「死因究明制度」のシステムについては、「過失判断は最終的に司法に委ねられる」と指摘。今後の法曹人口の増加と相まって、訴訟社会を招くとの懸念を表明した。

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 上准教授は、舛添要一厚生労働相が厚労省の従来型の政策決定の手法を批判して今年を「厚生労働省改革元年」と位置付け、審議会などにも「自分の役所に好意的な委員を中心に」集めないようにしようとしていることなどを紹介した。医療安全調についても、「厚労省では問題を調整できないために、与野党による議員立法がよい」とする厚労相の考えを述べた。
 また、インターネットの発達により、新聞などのマスメディアが報じなかった厚労省の会議の詳細な内容が暴露されることで、「検討会や審議会は、権威づけのためになされていることが一般にさらけ出されつつある」と指摘。さらに、「厚労省の担当者は2年ごとに変わる」との実態を紹介し、現在の担当分野とこれまでのキャリアが一致していないために、医療安全調が患者や医療者のニーズに応えられない制度設計になると問題視した。 
 その上で、厚労省が政策決定をする際、従来の手法が通じなくなっているため、医療安全調についての検討も迷走していると指摘。「おかしいと気付く人が増えてきている」と述べ、厚労省の手法に問題があったとの見方を示した。

■医療安全調ができると「弁護士がもうかる」
 上准教授は、帝王切開中の患者が死亡し、産科医が逮捕・起訴された福島県立大野病院事件の裁判についても触れ、検察側が「基礎的な知見による基本的な注意義務に違反した悪質なもの」との見解を示したことなどを紹介。その上で、「『厚労省は謙抑的に対応する』と言うが、結局こういう判断を司法は下している。厚労省の説明は意味を成さない」と述べた。
 また、医療安全調が厚労省の試案通りに設置された場合、「得をするのは弁護士」と語った。1億円の損害賠償請求をすれば、弁護士に1110万円の報酬が入るとの試算を示し、「法曹人口は毎年3000人ずつ増えるため、医療訴訟は3000億円の市場になる」と指摘。弁護士の「生き残り」に向けた競争が激化する中で、訴訟社会が到来することへの懸念を示した。


更新:2008/05/12 19:47     キャリアブレイン

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08/01/25配信

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医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。