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社説:新学習指導要領 とる物もとりあえずはダメ

 理数に力を入れ、授業を増やす小中学校の新学習指導要領が来春から段階的に前倒し実施される。一方で、初めて閣議決定される予定の「教育振興基本計画」の中央教育審議会答申は、必要な教員増など具体的な数値目標が不足し、現場を落胆させた。「教育再生」をいうなら、財政上しっかりした下支えが必要だ。

 新指導要領完全実施は小学校が2011年度、中学校が12年度からだが、その前に算数・数学、理科の時間増をすませておく。小学校高学年の英語活動もできる学校から始める。

 教育振興基本計画は改正教育基本法で国に策定が義務付けられた。10年後のあるべき状況を見据え、今後5年間に重点的に取り組むべき施策を示すものだ。

 文部科学省の中教審答申はその重要施策の一つに新しい学習指導要領の着実な実施を挙げ、教職員定数の改善をはじめとする条件整備が必要とした。だが、予算措置に必要な数値(人数)や投資額はなく、財務省の意をくむように「財政は大変厳しい。歳出改革の努力を継続する必要がある」という。文科省は予算の裏づけになる目標数値を計画に入れる意図だったが、抑制姿勢を通す財務省との折衝は不調だった。

 中教審委員の中からも「これでは基本計画によって何かが変わるという印象を受けない」と不満の声が出た。閣議決定前になお数値を入れようとする動きが出ているが、こうした状況は、声高に叫ばれる「教育立国」の足元の心もとなさを象徴している。

 教員増員を目指す文科省に障害になっているのは、先の「骨太の方針」や行政改革推進法で減員が方向づけられていることだ。しかし、安倍晋三政権で教育改革を最重要政策課題と位置づけ、教育基本法を改め、学習指導要領を全面的に新しくした流れからいって、方針や法を改めてでも教育環境整備は同時並行で進めなければならないはずだ。

 とる物もとりあえず。大急ぎで当座しのぎをすることをいうが、必要な増員も掛け声倒れになりかねない状況で、教科学習や授業時間を増加させられる現場から見れば、国の文教政策はそんなものか、である。「授業内容3割減」の現行指導要領告示から10年で大転換した新要領。地に足の着いた進め方をしなければ、現場にしわ寄せをしたまま空転しかねない。

 子供たち一人一人の学習成果が上がるなら、前倒しは当然歓迎だ。ただ改訂教科書もなく、適任の人材も不足したまま先を急ぐばかりでは「前のめり」になり、子供の学習意欲をそぎ落とす懸念もある。昨年の全国学力テストは「個々の児童生徒の指導に役立てる」といいながら、結局は都道府県の得点ランキングに目が集まった。

 そんな本末転倒になってはならない。

毎日新聞 2008年5月12日 東京朝刊

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