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社説:温暖化対策 「部門別」だけで乗り切れない

 温暖化防止の議論で「セクター別アプローチ」という言葉をさかんに聞く。鉄鋼や電力などの産業、家庭、運輸などの部門(セクター)ごとに指標を設け、温室効果ガスの削減を進める方法である。

 京都議定書の約束期間が終わる13年以降(ポスト京都)の削減手法として日本が提唱し、ことあるごとに強調している。胡錦濤・中国国家主席との首脳会談でも改めて提案し、中国側は「重要な手段」と一定の評価を示した。4月の日本・欧州連合(EU)定期首脳協議の共同プレス声明にも「有用で建設的な貢献」との評価が盛り込まれた。

 温室効果ガス削減のために新しいアイデアを示すことには意義があり、国際的に検討することは大事だ。ただ、この手法を主張するだけで、ポスト京都の国際交渉が乗り切れるわけではない。7月の北海道洞爺湖サミットで日本がリーダーシップを握ろうとするなら、6月に発表されるという福田康夫首相の「福田ビジョン」などで、もう一歩踏み込んだ明確な目標を掲げなければならない。

 そのためには、考え方を整理し、国内の意思統一を図ることも必要だ。現在、言われている「セクター別アプローチ」には複数の意味合いがあり、混乱を招きやすい。

 福田首相が1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で示した提案は、セクターごとに削減可能な量をはじき出し、それを積み上げて国別総量目標を決める基礎にしようというものだ。これには、途上国が「自分たちにも国別総量目標を課そうとしている」と反発した。

 一方、この手法には、鉄鋼、電力、セメントなど排出量の多い業種について省エネなど世界共通の指標を設け、削減を進めるとの意味合いもある。国別目標に直結するものではなく、途上国への技術移転にもつながるため、中国なども一定の理解を示している。

 積み上げ方式は先進国の目標作りの参考にはなるだろう。削減目標の根拠を示すことも大事だ。問題は、積み上げ方式だけで必要十分な削減ができるとは思えない点だ。

 日本がセクター別アプローチを提案した背景には、エネルギー効率などを指標とすることで、省エネの進んだ日本が損をしないようにとの思惑がある。確かに、公平性を担保することは必要だ。

 しかし、先進国である日本は、自主的な積み上げだけでなく、気候変動の抑制に必要な削減量という観点から目標を決める必要がある。EUは20年に90年比で20%の削減という目標を掲げている。

 昨年のハイリゲンダム・サミットで、日本は世界の排出量を50年までに半減させることを提案した。洞爺湖サミットでは日本自身の覚悟を語るべきだ。

毎日新聞 2008年5月12日 東京朝刊

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