黄禹錫教授波紋、偽りを払拭し真実の上に再出発しよう
黄禹錫(ファン・ウソク)教授は今月16日、「患者カスタマイズ型幹細胞は確かに作製し、作製できる源泉技術を保有しているが、その後のずさんな管理によって多くの間違いが生じた」とし、「サイエンス誌に掲載した論文は、大きく傷付けられたため、これ以上維持する名分がなくなったので、自ら撤回した」と明らかにした。
また、黄教授は何者かがヒトクローン胚性幹細胞(ES細胞)をミズメディ病院の冷凍幹細胞とすり替えたとし、司法当局の捜査を促した。
これに対して黄教授の共同研究者であるミズメディ病院の盧聖一(ノ・ソンイル)理事長は、「黄教授が作製したという幹細胞11個のうち、9個はにせ物であり、残りの2個も、真偽のほどを究明しなければならないものだが、黄教授は依然として未練を捨てることができず、論文を恣意的に作り上げた事実を認めていない」と述べた。
今、2人の言葉が一致する部分は、昨年末から今年初めにかけて、黄教授研究グループが、患者のカスタマイズ型幹細胞6つを作製したが、その幹細胞は、かびに感染して死んでしまったという点と、サイエンス誌に提出された幹細胞の写真とDNA指紋がねつ造されたものという事実だけだ。
2人のうち、どちらが真実を話しているのか、それとも2人とも依然として嘘をついているのか。幹細胞は存在しないという衝撃的告白で虚脱感に襲われた国民は、今も真実はいったい何なのか見極められないでいる。
現政権は、カスタマイズ型幹細胞研究を「政権的プロジェクト」と位置付けたのに続き、「国家的プロジェクト」として押し上げ、ひいては「21世紀韓国国民の希望のプロジェクト」にまで膨張させながら、数百億ウォンを支援してきた。
大統領府の科学技術補佐官の名前が黄教授論文の共同著者として記載されたこともあり、また黄教授を国家重要施設を保護する水準で保護してきたというこの政権だが、いったいこうした事態が起きるまで何をしていたのだろう。大統領府、首相室、科学技術部は黄教授研究のこのような問題点をいつ把握したのか、また知っていたのなら、なぜ「あまりエスカレートしないように」「事態を見守りたい」という発言に終始して、国民が真実に目を開くことを妨害したのか。
黄教授研究グループには、ソウル大学獣医学科、同医学部、ミズメディ病院などからおよそ60人の専門家が参加しており、問題のサイエンス誌論文には25人が共同著者として記載されている。にもかかわらず、全員が「幹細胞がいくつ残っているかわからない」か 「私は昔の研究に参加した関係で、名前だけを乗せた」と責任逃れをしている。
その理由は、政府が黄教授個人の研究で始まった幹細胞プロジェクトを「政権的プロジェクト」「国家的プロジェクト」「国民的プロジェクト」に拡大・誇張する過程で、科学研究に欠かせない各段階ごとの客観的検証が働くことを不可能にする雰囲気を助長してきたためだ。
大統領は黄教授研究室を訪問して、「大統領になって以来、このように胸が一杯になるほど嬉しい日は初めて」と述べており、首相は黄教授の牧場を訪ねて支援を申し出、長官たちと有力政治家たちは、黄教授後援会を組織するとし、先を争って黄教授の奇跡のような研究に出資した株主のように行動してきた。大統領府の科学技術補佐官は、大統領府政策室長や情報通信部長官などとともに「黄金コウモリ」という黄教授支援グループも組織した。
各大手企業が領収証もなしに数十億ウォンから百億ウォン台の研究資金を提供したことも、こうした政府の雰囲気なしには考えられない。こうした状況で、果たして科学界でどの学者が、大胆にも黄教授の論文に疑問を提起することができただろうか。
もちろんさりとて「政治的雰囲気」「社会的雰囲気」に圧倒されて、科学的検証の基礎原理を忘れた韓国科学界の体質の問題点さえ覆い隠されるわけではない。このままでは国際科学界は、この先韓国の科学者が出した研究論文を釈然としない視線で、改めて見通すことになるだろう。科学界の自省と早急な対策が求められる。その第一の段階は、ソウル大学の検証が、国際学界に認定されるように、厳しく行なわれることだ。
政府に追随し、「国民プロジェクト」「未来プロジェクト」というばら色の美辞麗句を並べながら、黄教授の主張を中継放送するかのように報道してきたメディアも責任を免れることはできないだろう。
科学研究において当然守られるべき「政治」と「科学」の境界が崩れて、混ざり合ってしまったにもかかわらず、メディアはこれに警戒と警告を発するよりは、政府と歩調を合わせて、国民の情緒的反応に便乗した過ちを反省しなければならない。
科学的研究の検証は、科学界自らの問題としても、科学界がそうした理性的な姿勢を維持できるよう、科学界への過度な「社会的作用」が生じないよう配慮することも、メディアが担うべき役割であるためだ。今回の失敗について、メディア側は反省し後に生かすべきだ。
現在、私たちに切に求められる姿勢は、廃墟化した幹細胞研究の遺跡で、茫然自失している雰囲気を払いのけ、今の状況を理性の視線で冷静に見極めることだ。黄教授波紋で世界的水準に達していた幹細胞研究の潜在力そのものが崩れてしまったわけではない。虚偽は選別しながらも、残った真実の土台の上で新しい跳躍を誓わなければならない。それだけが、失敗を失敗のままで終わらせず、その上に明日に向けた礎を築いていく唯一の方法だ。
科学者たちが再び立ち上がり、そこに国民がまた希望を見出してこそ、国が息を吹き返すのだ。
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