怖い内臓の冷え
あなたの胃腸は冷えていませんか?
現代医学の見落としているもの
現代医学は大変な進歩を遂げ平均寿命は大幅に延びました。しかし、現代医学が見落としている病気もたくさんあります。
漢方で裏寒(りかん)と呼ぶ病気も、そのうちの一つです。
漢方では
身体の表面(皮膚・筋肉)を 「表」
内側の内臓 を 「裏」 と呼びます
裏寒とは 内臓特に胃腸の冷えていること
新陳代謝、働きが低下していることを言います
「内臓の冷え」は「裏寒」を訳した言葉です。社会環境の変化からいま内臓の冷えは急速に広まっています。また現代医学では内臓の冷えを知る検査は無く、暖める作用の薬も持たないため的確に治療することができません。近い将来内臓の冷えが医療上の大きな問題とされるときが来るかもしれません。
「裏寒」の症状
手足が冷え易い。よく他人に手が冷たいと言われる。
下痢が多い。冷たい物を食べると直ぐ下痢をする。
便秘も多い。便秘しても便はそんなに硬くない。
便通は普通だが、いつも軟らかく、また出てもすっきりしない。
いつも下腹部が気持ち悪い。時にボーンと張って苦しい。
右の下腹が時々痛む。慢性盲腸と言われたことがある。
右の腰が重かったり痛かったりする。
頭の後ろが重かったり痛かったりする。その時首すじ肩が凝る。
冷たい物を飲むと、直ぐ鼻がつまったり、鼻水が出たりする。
明け方にみぞおちや胃が痛かったり、気持ちが悪く目が覚める。
真夜中や明け方に胸が苦しくなることがある。
朝体が重く、気分が憂欝である。やる気が出ない。食欲がない。
以上の中で3つ以上あれば「裏寒」ではないかと疑って見てください。
恐い内臓の冷え
「なんだ、たいした症状ではないな。じゃほっておいてよいじゃない
か。」とお考えの方、気をつけて下さい。この裏寒はしばしば心臓発作
や脳卒中の引金になります。
若者が朝寝床の中で死んでいた。こんな原因不明の突然死はこのよう
な裏寒の人が夜更かしや過労など無理をしたり、薬をのみ過ぎたり、ク
ーラーや扇風機をかけたまま寝た時起こるものです。
また一つも当たらないから私には関係ないと思っているあなた、きっといつかはあなたもこの冷えに悩まされるはずです。人生最後の旅立ちはこの状態から出発するのですから。
「冷え」に対して気をつけること
* 冷たいもの(ビール、ジュース、アイスクリーム)をさける
* 生物(サシミ、生野菜、果物)をさける
* 毎日少し運動する
* 精神の安定をはかり楽しく暮らす努力をする
* 薬(睡眠薬、下剤、安定剤、抗生物質)の常用を避ける
なぜ現代人は冷えやすいか
* 運動量が少ない
* 冷蔵庫が普及し冷たい飲み物食べ物がが身近にある
* 暖冷房が普及し体温調節能力が低下している
* 野菜果物に季節が無くなった
* 精神的負担が多く体の熱が上にのぼりやすい
冷え症と内臓の冷えの違い
体が冷える病気として一般的に冷え症がよく知られています。女性に多く、腰や手足など身体の表面に冷えを感じるものです。このような場合一般に内臓も冷えていて身体の表面を温めることができないと考えられます。しかし、内臓の冷えの症状はもっと複雑で多彩なことが多いものです。体が火照り、汗が出てるとか、喉が焼けるように渇いて冷たい氷水が飲みたくなるなど、まったく冷えていることが自覚できない場合もありますから注意が肝心です。
昔から「喉元過ぎれば熱さを忘れる」といわれるように、内臓には温度感覚がないので、発見が遅れたり、対応が生ぬるくなったりします。
内臓の冷えをもっと良く理解するために
皆さんはおそらく当クリニックに来られる前は内臓の冷えについて聞かれた事はないと思います。内臓の冷えについては適当な本もありません。そこで、なるべく詳しく書いてみますので、十分理解して、病気を治し、健康を守るために役立ててください。
人の身体はなぜ温かい?
人間の体温は 0.1度単位の正確さできちんと維持されています。これは体内の新陳代謝に関係する酵素の働きを守るためです。多くの酵素が関係しますが、その最適な作用温度が37度ですから、円滑に新陳代謝を営むためには身体の中の温度をそれに合わせなくてはならないわけです。
逆に言えばこの温度を守れないことは身体の新陳代謝が乱されることを意味します。もし心臓などの重要な臓器で起これば命に関わることになります。
そのため人の身体には体温をチェックするしくみがあり、体温が上がれば冷やし下がりすぎれば上げる反応が起こるようになっています。
身体が冷える原因
身体が冷える原因は、まず身体を冷やす飲食物を取った場合が考えられます。この場合飲食物そのものが冷たい場合、食べた後そのものは体温と同じ温度まで高められるとき、周囲から熱を奪うので内臓は冷やされます。
一方漢方には飲食物が体内に入ってから体を温める作用があるのか冷やす作用があるのかを問題にしています。冷やす作用のある物はたとえ温かくしてそれを取っても身体は冷やされることになります。
飲食物以外では当然身体を低い気温にさらすことが問題となります。人間の暮らしている環境の多くでは気温は体温より低いので衣服などの保温を必要としているわけです。冷えの起こる場合体温と気温の差よりは身体の側の条件が問題となることが多いのです。たとえば汗をかいたまま身体を冷やすと強く冷えますし、過労などでエネルギーが不足していると冷えに対する抵抗力が落ちてしまいます。
もし体温が下がったら
身体を冷やしたりして体温が下がったら、寒気を感じ、身体が振るえ体温を高める反応がおきます。このように一般に身体を冷やすことがすぐ内臓の冷えを起こすことにはなりません。しかし、永い病気や過労、その他の原因でこのような反応が起き難い場合、内臓に冷えが起こるのです。その場合内臓の冷えは内臓全体に一様に起こるのではないようです。心臓、肝臓、脳などの重要な臓器では温度が下がることは致命的となりますので、これらの温度はきちんと守り、それ以外の、下腹部や腸などの温度が下がるのです。
冷えが比較的重要でない臓器のせまい範囲にとどまるかぎり検査に異常は無く、症状も軽いものに過ぎません。このことが医療上内臓の冷えを見落としてきた原因なのでしょう。
内臓の冷えは多くの場合右の下腹から始まります。冷えの程度が強まるにつれ上腹部へ広がっていきます。時には上腹部から冷えが始まることもあります。どこまで冷えてきているかによって症状は様々に変化し、内臓の冷えの診断は非常に難しいものです。
また、内臓の冷えはそれ自体一つの病気ですが、それ以外にも多くの病気の経過の中で現れてきます。この場合、内臓の冷えの症状は本来の病気の症状に隠れてしまい、診断は一層難しくなります。
内臓の冷えがあれば、それを優先して治療することが必要です。冷えは新陳代謝の低下を意味しますから、治癒力が低下するだけでなく、薬などへの反応も悪くなり、治療が長引くだけでなく、思わぬ副作用も起こるのです。
危険な内臓の冷え
身体は心臓などの重要な臓器が冷えない様に守るわけですが、冷えが強まってくると冷えが心臓に迫ってくることになります。これは非常に危険な内臓の冷えと考えられます。
冷えが心臓に近づいてきますと夜中や明け方に胸や胃のあたりの痛み、首肩の凝り、背中の、いわゆる胃裏の付近の痛みなどを感ずるようになります。
このような危険信号を感じたら、厳重に冷たい飲食物を避け、身体を温かくし、過労を避け、気持ちをゆったりして、これ以上冷えが進まない様にしなければなりません。これ以上進めば突然死が待っているからです。
身体がこのような状態になった場合、漢方薬といえども身体の中の熱の移動を考えないと危険です。風邪の処方などにしばしば用いられる桂枝は身体の中心部から外へ熱を散らす作用があります。このような状態で服用すると致命的になることもあります。
内臓の冷えの背景
普通の人が冷たいものを食べても身体を冷やしても、ただ冷えただけでは内臓の冷えは起こりません。内臓の冷えを起こす人は何らかの原因で体温を守る力が弱っているからです。では体温を守る力が弱るにはどんな背景があるのでしょうか。
病気のため体力が低下した場合
人間の身体に外部から何らかの病気の原因が侵入した場合、身体はまず体温を上昇させます。この発熱は最近になって現代医学でも重視されるようになり、ただ熱を下げようとする治療には疑問が出されています。
しかしこの発熱も体力がある程度以上ある場合で、体力が無いと発熱しません。昔から老人の肺炎は熱が無くとも病気が進行している場合があるから注意しろといわれるのはこのためです。
永い経過の病気では、初めのうちは熱が上がりますが、段々病気が進んで体力が落ちてくると症状も軽くなり、熱も上がらなくなります。このような場合が内臓の冷えの一般的な状態となります。
薬を永い間服用している時
現代医学の薬、例えば抗生物質、精神安定剤、下剤、睡眠薬などは身体の新陳代謝を抑え、身体を冷え易くします。このような薬を常用していると身体は徐々に冷えていき、このような薬の効果は段々と弱くなっていきます。
一方漢方薬は、現在多くの医療機関で使われている漢方薬のほとんどは内臓を冷やす作用を持っています。このような薬を内臓の冷えのある人に使うと重大な副作用が出ることがあります。漢方薬は、現代医学の薬に比べ、作用範囲が広く、身体全体に大きく、柔らかく効いてきますので、知らないうちに内臓の冷えが進んでいることがあります。注意しなければなりません。
大きな手術の後
開腹手術などを受けると体力が低下しますが、さらに手術の傷痕を通して冷えが内臓に入り易くなります。又術後は腸の癒着などが多かれ少なかれあるものですが、癒着した腸は冷え易くなります。
胃腸の力の弱い人
胃腸、特に胃の力は身体の暖かさに大きな関係を持っているようです。胃の力の強い人は大きな声で話し、食欲旺盛で元気があります。反対に胃の弱い人はスタミナがなく、疲れ易く、身体も冷え易いのです。
運動不足の人
体温を高めるのに筋肉が大きな役目をします。身体を動かしていると筋肉が常に熱を作っています。このような熱が作られない人は冷え易くなります。
老人
人間は赤ちゃんの頃は新陳代謝が盛んで体温も高いので抱いているととても温かく感じます。20歳を過ぎて成長が止まるとそれからは新陳代謝が歳とともに下がっていきます。老人は基本的に冷え易いと考えて良いでしょう。
運動を止めてしまった人
永い間、かなりハードな運動をしていた人が急に止めると強い内臓の冷えを残すことになります。運動をして筋肉を動かすと大量の熱が作られます。その熱を冷やすために運動選手は特別に身体を冷やす力が強まっています。その人が急に運動を止めると熱が作られないのに身体を冷やす作用が強く働き、冷えるのです。
考えることが多い人
人間は考えたりして精神活動を盛んに行うと脳細胞が大量のエネルギーを必要とすることになります。このような状態が永く続くと身体はそれに適応して変わっていきます。下半身や脚に行くエネルギーを少なくして、頭へ行くエネルギーを多くするように身体を歪めるのです。その結果エネルギーが少なくなった下半身は冷え易くなるのです。
最近コンピュータ作業をする女性の健康問題が話題にされますが、コンピュータの出す電磁波よりこのようなエネルギー不足・冷えの方が大きな問題だと思えます。
冷えの体質
上のような原因で内臓の冷え易い体質が一旦できてしまうとこれを根本的に改善することは難しい場合が多いようです。体質の治療は永い期間を要するため治しきるまで治療を続ける人が少ないという一面もあります。その様な人は常に体調を自己管理して、食事や服装、さらに暖房や暖める薬をうまく使ってより元気に活動的な生活を守るようにすべきなのです。
近年増えている冷え
内臓の冷えは近年急速に増え、重症の冷えも多くなってきていると思われます。それには社会的環境の変化や生活習慣の変化が大きく関係しているように思えます。今回はこの問題について考えて見ましょう。
歩かなくなった
筋肉の運動は体温を上げるための熱の産生に大きな役割を果たしています。筋肉を使わなくなると熱の産生が減り、身体は冷え易くなります。最近の交通機関の発達は毎日歩く距離を大幅に減少させました。昔は数キロくらいは歩いて出掛けたものですが、最近は数百メートル先のスーパーへも車で出掛けるようになっています。
また工場の中の仕事もロボットなどで自動化され筋肉を使っての労働もぐっと減っているのです。
電気冷蔵庫がやってきた
最近はどこの家庭にも電気冷蔵庫が行き渡りました。それまでは夏に物を冷やすとすれば井戸くらいなものでしたが、最近ではドアを開ければ氷や凍る寸前まで冷えた飲食物が簡単に手に入ることになりました。
体内に入った物はすぐ体温と同じ温度まで温められ、まわりの内臓の熱を奪っていくのです。
食べ物の変化
食べ物、特に野菜果物を中心に、最近の食生活は大きく変化しました。夏に限られた身体を冷やす野菜が、今は一年中手に入ります。又果物も豊富に供給されています。ビタミン不足になると脅かされ、それまでほとんど食べなかった果物、生野菜を、内臓が冷えることも知らず、大量に食べているのです。
暖冷房の普及
電化製品の普及ではもう一つクーラーを忘れてはいけません。クーラーで冷えた気温は、日常生活している環境温度としては決して低いものではありません。しかし、外の暑さで汗をかいた身体は、その温度の差でどんどん冷やされてしまいます。またクーラーをかけたまま寝たりすると、冷えはじわじわと内臓にしみ込んでいくでしょう。
家庭内も公共の場所も乗り物の中も空調が行き渡り、室内の温度は夏冬逆転するくらいなっています。そのため我々の身体は日に何度も温度の差を乗り越えなければなりません。このために冷えに対する抵抗力を失っていくようです。
夜更かしが増えた
夜遊び、夜の仕事の人、その他の理由で夜更かしをする人が増えてきました。家庭内でも遅くまで勉強したり、テレビを見たり、宵っ張りの朝寝坊の人が増えています。
地球上のエネルギーは全て太陽からの贈り物だといえます。太陽の日の出、日の入りと生活がずれるほど身体は冷えていくようです。
高齢化社会
前に書いたように老人の内臓は冷え易いのです。高齢者人口の増加は内臓の冷えている人の増加を意味します。
情報化社会
今、毎日毎日、我々に襲いかかってくる情報の量は莫大なものです。そのために我々の脳細胞は休む暇なく活動しています。そのためのエネルギーもまた莫大なもので、それを確保するためエネルギーは頭に集中し、下半身は慢性的なエネルギー不足にさらされています。そんなエネルギー不足の下半身から冷えが内臓へ登ってくるのです。
医学の進歩
医療と内臓の冷えとの関係はいろいろな場で起きてきます。これを詳しく書くことは容易なことではありません。ここでは極めて重要な三つのことを書いて、他は内臓の冷えと症状とか病気との関係を書く時にお話しましょう。
まず、麻酔の進歩や手術技術の向上で大きな手術が成功するようになったことです。大きな手術の後は内臓の冷え易い体質が残ります。
さらに、医学の進歩はこれまでは命にかかわった重症患者でも治すことができるようになりました。しかし、重篤な病気を乗り越えた後には必ず内臓の冷えを残すものです。
又、成人病などで永く薬をのみ続けなければならない人も増えています。のみ続けるうちに体質が徐々に変わっていき、この人達の何割かはいずれ内臓の冷えを訴えるようになってきます。
医学の進歩が内臓の冷えを増やし、悪化させることに一役買っていることは極めて残念なことです。一番基本的な問題は現代医学がまだ内臓の冷えに気付いていないし、適当な治療手段を持っていないことです。この問題については後で詳しく書くことにします。
抑える治療と高める治療
内臓の冷えの判る検査はない
前に書きましたように現代医学は内臓の冷えを認めていません。内臓の冷えの判る検査方法が無いからです。したがって内臓の冷えを診断するには患者さんの訴える症状と医師の患者さんの身体を詳細に見る診察技術によるほかはありません。そういう意味で内臓の冷えの症状は極めて重要なテーマとなります。
しかし、内臓には熱いや冷たいという感覚はありません。したがって内臓の冷えを直接感ずる症状はありません。内臓の冷えのために起こる症状の多くは冷えから身体を守るために身体が起こしている反応によるものです。
身体が起こす反応は極めて巧妙で複雑なものです。したがって、これを正しく判断するには経験の積み重ねを必要とします。
症状と治療について
現代医学は患者さんに苦痛を与えるいろいろな症状はすべて病気による悪いものと考え、それを抑え、取り除くことを第一に考えています。
しかし漢方では症状は病気の原因に対して身体が反応し、それに打ち勝ち、取り除こうとする反応の結果起こるものと考えています。症状が激しいことは病気が重いことを意味しますが、同時に身体が病気に対して強く抵抗していることも意味しているのです。このように症状は病気と身体との二つの面から捉えなくてはならないのです。
進行したガンの患者さんは時に激しい痛みを訴えることがあります。しかし、その後、ある時を境に痛みが消えてしまうことが、しばしばあります。病気のほうはさらに進んだ状態にあるので、病気の側からは痛みが消えたことは説明できません。病気の進行により身体の抵抗力が低下したため痛みが消えたと考えられるのです。
ここで興味深い事実は、自然治癒力と言われる、身体が自分の力で病気を治そうとする反応は、病気を自然に弱め、症状を軽くしていくような、優しいものばかりではないということです。身体は病気に打ち勝ち生命を守るために、時には激しい症状を伴う異常状態を自ら引き起こすこともあるのです。
内臓の冷えの症状を考える場合、このような身体が生命を守るために起こしている反応を注意して診断しないと大きな誤りをおかす危険があります。
このように考えると、むやみに症状を抑えようとするのは逆行した治療であるといえます。症状が余り激しい場合はやはり一時抑える治療が必要とされる場合もありますが、症状を注意深く分析し、抑えてもよい症状、抑えてはならない症状を見極めることが大事なことなのです。
内臓の冷えの治療と養生
現代医学の治療
現代医学は内臓の冷えを診断できないので、それに対する治療法もありません。現代医学の中で、内臓の冷えによる病状の変化にしばしば用いられるのは副腎皮質ステロイドです。これを日常の内臓の冷えに使うことは副作用の面から困難ですから、内臓の冷えの治療は漢方薬の独壇場と言えるでしょう。
冷えの漢方治療
漢方医学は二千年も前から、病気が進行して体力が低下すると体温が維持できなくなり、暖める薬が必要であると書いています。漢方には数種類の内臓の冷えを暖める薬がありますが、内臓の冷えの治療の現状にはいくつかの問題があります。
漢方治療における問題
漢方薬を使う医師は最近急速に増えましたが、現代医学的な考え方の中で新薬として漢方薬を使う医師が多く、漢方医学の持つ理論はなかなか理解されません。漢方の教える冷えの治療原則は他にどんな症状があろうと冷えを疑う症状があれば優先してこれを治療すべきということにあるのですが、これを実践する医師は漢方専門医のなかでも少数です。
重症な冷えの治療は四逆湯という処方を使います。しかしこの処方は健康保険で使えるエキス剤の中には含まれていません。煎じ薬を使わねばなりません。この薬を使うような場合は効き目の強い煎じ薬を、さらにその人の状況に合わせて加減して使わなければならないような重篤なことが少なくないのですが、やはり気軽に飲めるエキス剤も無ければならないものだと思います。
治療の実際
「重症な内臓の冷え」のところで書いた、冷えが心臓に迫ってきているときは四逆湯の類が使われますが、先に書いたようにこれは健康保険で使えるエキス剤にはありません。煎じ薬を使うのが良いのですが、どうしても煎じ薬が使いにくいときは乾姜甘草散というショウキョウとカンゾウの粉末の製剤も売られています。これにブシの粉末か錠剤を加えて使う手もあります。
さらに軽症なら人参湯を流用する手もあります。これにはショウキョウとカンゾウが含まれ心臓に迫った冷えを治療できることがあります。
冷えが右下腹中心にあるときは真武湯を使います。新陳代謝が低下した状況では応用範囲が広く、下痢、便秘、腰痛、眠気、倦怠などに良い効果が得られます。
そのほか胃腸の冷えに当帰四逆加呉茱萸生姜湯や大建中湯など冷えの程度、広がりによって使い分けると良いでしょう。
暖める薬を使い、だんだん温まってくると、風邪様の発熱、上腹部の熱、お血症状など熱の症状が見えるようになることが少なくありません。このような場合、冷えの程度を考慮しながら的確にこれらを治療しなければなりません。この治療を適切に行うことにより体質が改善されたり、治療期間を短縮できたりします。
暖める薬を長期に使う場合は少なめに使わなければなりません。多めに使うと身体がだんだん依存するようになります。
内臓の冷えの治療は薬物治療より次に書く養生がメインです。生活改善がなければ薬物治療は対症療法にとどまり、いつまでも服用を続けなければならないことになります。
内臓の冷えの養生
たとえば真武湯を毎日服用していても冷たいビールをコップ一杯飲めばその効果は消されてしまうでしょう。冷えの治療は養生なくしては成り立たないのです。ビールなんかに負けないくらい強い薬を作ればいいじゃないかと思われるでしょうが、もしそんな薬ができたら温まりすぎの害が続出することでしょう。
養生は大きく食事、運動、保温、精神的な問題の4本の柱から成っています。
食事の養生
アイスクリーム、ビール、さしみ、すし、生野菜などは胃に入ると周りから熱を奪って体温と同じになるまで暖められます。熱を奪われた内臓は冷えます。このような直接冷やす飲食物のほか、温かくして食べてもその作用として身体を冷やすものがあります。トマト,キュウリなどの夏野菜や柿、梨、イチゴなどの果物です。内臓の冷えている程度によりこれらの飲食物を避け、冷やさないようにする必要があります。
漢方で言う食養生では季節季節にその土地の旬のものを食べることを勧めています。結果として夏は冷やす食べ物、冬は温める食べ物を食べるようになるからでしょう。
香辛料は暖める作用を持っています。ショウガ、カラシなどをうまく使うと食も進み、温まることができます。
運動について
前に書いたように現代人が冷えやすい原因として運動不足があります。気軽に身体を動かす習慣をつけると良いでしょう。わざわざ運動に時間を割くのもこの忙しい時代に無駄なことです。家の中、仕事場でほんの少し歩くときも全身の動きを意識して歩くと良いでしょう。
内臓の冷えている人には朝起きるのが辛く、なかなか元気が上がらない人がいます。夕方ころから元気が出てきて夜更かししてしまう。そんな人は朝起きてすぐ一日のウォーミングアップの運動をすることをお勧めします。運動で身体をあたため、やるべきことは早く済ませ、早寝早起きの習慣を作りましょう。
地球上の熱はすべて太陽からの贈り物です。太陽の動きとあわせて生活するほうが冷えにくくなります。早寝早起きがよいのです。夜働く人はできるだけ太陽の光を浴びるようにすると良いでしょう。
浮力で脚に負担がかからないからとプールの中で歩くことを勧める人がいます。温水プールでも水温は29度くらいで体温よりはかなり低く設定されています。水中にいる間いつも体温は奪われているわけで、内臓の冷えのある方は絶対にしてはなりません。
かなりハードな運動を続けていると身体はそれに適応して筋肉から熱が内臓に及ぶことを予想し内臓の温度を低めに設定します。スポーツマン心臓といい、運動しない時の脈拍数が普通の人より少なくなります。このような人が運動をやめてしまうと内臓の冷えが急速に悪化します。このような人は一生ある程度の運動を続ける必要があります。
胃腸の弱い人が筋肉を鍛える運動をすると鍛えられた筋肉に内臓がつぶされてしまうような現象が起こります。まず内臓を良くしてその状況を見ながら筋肉をつけなければなりません。
疲労が蓄積すると内臓の冷えは急速に悪化します。冬山遭難の状況はその例です。疲労の限界はそれを越えて見ないとわかりません。しかし越えてしまって限界を知った時はもう遅いのです。
保温
われわれ周囲の環境は体温より低いことが多く保温は大事な養生です。しかし、冷えには個人差が大きくその人その人が自分にあった保温を心がける必要があります。子供を鍛えるとして園児を全員裸にして遊ばせる幼稚園があるそうですが個人差を考えると無謀なことです。
夜寝ている間は意識が無く身体の冷えに気づかないだけでなく、新陳代謝が低下して身体は冷えやすくなっています。夜暖かく休むことは内臓の冷えの養生として重要なポイントです。
都会の夏はクーラーなしでは眠れなくなってしまいました。しかし、つけっ放しは避けたいものです。夏は汗をかくため皮膚の表面が緩んでいます。寝ている間にじわじわと冷えが浸透してくるのです。同じ部屋に寝る人のあいだで体質の違いがあるとクーラー戦争が勃発します。ここは、より冷えている人に合わせてクーラーを弱めにしていただきたいものです。
入浴はぬるめのお湯で下半身をじっくり温めるのが良いのです。脚からの血液はお腹の中を通るので内臓が温まりやすくなります。カラスの行水では身体の表面が温まるだけで内臓には達しません。
重症の冷えの人は寒い冬に熱い風呂に飛び込むのは危険です。寒い中で少ない熱を守ろうとしてきた身体の反応が乱されてしまうからです。温かい室温に身体を慣らしてから入るとか、まずぬるめのお湯につかるなどの注意が必要です。
入浴後の身体は皮膚の表面が緩み冷えやすくなっています。短い時間だからと薄着でいるのは良くないことです。特に足を温かくしましょう。入浴後に冷たい飲み物を摂る習慣は内蔵の冷えのある人には向きません。
精神的なこと
筋肉は蓄えられたエネルギー源を使い果たすと疲労します。しかし脳細胞は簡単に疲労しません。エネルギー源の蓄えが無いので常に血中から新鮮なエネルギーを得ているからです。自分の子供のころと比べて今の子供たちがどれほど余計に脳細胞を使っているか、これは想像を超える倍率だと思えます。
脳細胞がより多くのエネルギーを要求するようになると身体はそれに適応します。下半身へいくエネルギー(気)を減らし上半身へ集中させようとします。それにより冷えのぼせが起き、内臓が冷えやすくなります。
この現象は重症な冷えのときのエネルギー(気)の集中と、内蔵の冷えに差はあるものの、全く同じことです。脳細胞を使いすぎる人は、何らかの原因で冷えが強く起きたとき、容易に重症の冷えに陥る危険があるのです。
コンピュータを使って作業する人などはこのエネルギー(気)の上半身集中がどんどん進行します。短い作業時間で休憩し、歩くなどしてエネルギーの下半身への誘導を試みる必要があります。
この適応反応は具体的には胸椎の10番目辺りの筋肉を緊張させ背骨をすこしずらしているように見えます。この辺りが痛かったり重かったりする人は要注意です。
怒りや悲しみなどの感情は身体をゆがめエネルギー(気)の流れを乱します。喜びや楽しみの感情は身体の筋肉を緩め全体に温かさを広めます。喜びや楽しみを多く生きることは内臓の冷えに最も良い養生ではないかと思います。
内臓の冷えの症状と対策
内臓の冷えの症状の特徴
身体の表面が冷えを感ずると、手足や背中・腰に寒さや冷たさを感じます。このような症状が内臓の冷えが悪くなる前に感じられることは無論あるのですが、多くの場合このような症状を感じないで内臓の冷えが悪化することがあります。
内臓の冷えのある方は腹が張るとか、腹痛を感ずるかもしれません。これが内臓が冷えを感じている症状といえるかもしれませんが、これは後で述べる身体の冷えに対する反応とも関係が強く、両方が入り交じったものと考えるべきでしょう。
内臓が冷えやすい傾向にある人にはこの段階で身体を温めるとか温かいものを食べたり飲んだりして、用心する必要があります。この段階を過ぎると身体が冷えに対して反応を超してきます。
これは大きく分けて二つの対策がとられます。一つは新陳代謝を高め身体を温めようとすることであり、もう一つは今ある熱を失わない様にする反応です。
身体を温めようとする反応は、身体の表面や上部に偏る傾向があり、結果として発熱とか風邪様の症状となって現れます。
熱を失わない様にする反応は、筋肉の緊張を高め、それによっていくつかの関節を巧みに変形させ、エネルギー(気)の流れをコントロールします。これにより手足から熱が放散されるのを防いだり、胃腸の動きをコントロールしたりするわけです。
一般に夜中から朝にかけて起きたり、悪化したりする症状は冷えによるものと考えて間違いないでしょう。
女性の場合月経前後に起きたり悪化する症状に、基礎体温の高温期から低温期に変わることによる冷えによるものがあります。
風邪様症状
朝起きて、咽がちくちくする、頭が重い、身体がだるい、ちょっと熱っぽいなど、風邪を引いたかなと思う症状は多いものです。このような症状は胃腸が冷えたり、過労などによって身体のエネルギー(気)の流れが弱くなって起こるものです。この時、市販の風邪薬を服用する方が多いのですが、これには問題があります。
内臓の冷えとか過労による場合は風邪薬を服用しなくても、温かいものを飲んだりして身体を温めたりすれば、簡単に治るものです。この時、市販の風邪薬を服用しても症状は軽くなり、治ったような気がしますが、風邪薬には冷えた内臓を温める作用はないので、また同じような症状が起きることになります。
「最近風邪を引きやすくなった、ひと月に何度も風邪をひく、という話をよく聞きます。こんな人は風邪薬を止めて、内臓を温める漢方薬を服用するとよいでしょう。
内臓の冷えなのか、本当の風邪なのか、わからない時は、まず温かくして安静にして様子を見るとよいでしょう。風邪の初期でも安静にして保温をするのは決して間違った養生ではありません。また、熱が十分上がりきらないうちに解熱剤を服用するのは決してよいことではありません。風邪の時の発熱は身体がビールスを退治するために起こしている反応ですから、熱がまだ十分上がらないうちに解熱剤をのんで下げないほうがよいのです。
発熱
内臓の冷えで最も多い症状の一つが発熱です。微熱程度のことも多いのですが、時に39度を越える高い熱も出ます。内臓の冷えによる発熱の特徴は、熱以外にあまり激しい症状がないことです。寒気が強い、身体ががたがた震える、節々が痛い、頭痛が強い、などの症状がある時は別の原因による発熱と考えられます。
内臓の冷えによる発熱は、高い熱があっても割合元気です。39度の熱があっても平気でテレビを見ている子供さんもいたりします。
内臓の冷えによる発熱は、内臓の冷えを身体が感知して、新陳代謝を高め内臓の温度を上げようとするのですが、なかなか内臓が温まらないため身体の表面の熱が上がりすぎてしまうのだと考えられます。発熱していても内臓を温める薬を使えば、簡単に解熱するものです。
体温が39度を越えている人に温める薬を処方するのは、矛盾した治療法に見えますが、症状だけを見ず、身体の反応を考慮に入れれば当たり前の治療法といえます。
頭痛
内臓の冷えによる頭痛は3種類あります。まず先に書いた風邪様症状によるものがあります。これは比較的軽いもので頭が重いとか、ちょっと痛いくらいです。発熱とか倦怠のほうが強く、頭痛のために何か薬を使うようなことは少ないものです。
内臓の冷えが重症のとき、胃のあたりが冷えると、筋肉が反射的に緊張し、首が前に引かれるようになります。首の付近でエネルギーの流れが乱され、後頭部から首の後ろが痛むようになります。
さらに激しい痛みは肩から首の凝りから始まり偏頭痛の形で激しく痛み、吐き気嘔吐を伴うこともあります。これは冷えとそれに伴う水分の停滞によって起こると考えられます。生理前の女性に、このような痛みが起きることもしばしばあります。このような痛みに呉茱萸湯が効く場合があります。しかし、このような場合も漢方薬は痛みそのものを止めるのでなく、痛みの原因の状態を治すものですから、痛みが強くなってきてからは良い効果を期待できません。肩、首が凝ってきたところで早目に使うと良い効果が得られます。
咽の痛み
咽がちくちくしたり、何か咽に引っかかるような症状は、しばしば内臓の冷えで起こります。漢方では咽へ来るエネルギー(気)は足から上がってくるものと考えています。疲労したり、下腹の内臓が冷えると足からのエネルギーのめぐりが遮断され、咽の痛みが起こってきます。
早めに休んだり、温かくすれば割合簡単に治るものです。
鼻水
花粉症・アレルギー性鼻炎などに見られる水っぽい鼻汁は胃のあたりの冷えが関係しています。日ごろから冷たい飲食物を避け、水分の取り方に気をつければ鼻水はずいぶん少なくすることができるものです。
咳
肺炎・気管支炎など多くの咳は肺の熱によって起こります。しかし、逆に肺の冷えによる咳もあります。風邪の後などで咳が長引いている人や、すぐ咳が出たり、息苦しさを感ずる人は肺の冷えを疑って見る必要があります。
倦怠感・眠気
内臓の冷えは新陳代謝を低下させるため、倦怠感を起こします。これは当然身体が一番冷える、朝に強く感じられます。それほど睡眠時間が短くないのに、寝起きが悪い人は内臓が冷えている可能性が高いと考えるべきです。朝のうち元気が出ない人も、午後になって気温が上がり、身体が温まってくるとだんだん元気が出てきます。元気が出てからがんばって夜更かしをしてしまう人も少なくありません。これでは内臓の冷えもなかなか良くなりません。
内臓の冷えで軽い鬱状態が起こります。温かくして寝て、起きたらちょっと運動して身体を温めると治ることも少なくないでしょう。
内臓の冷えによる新陳代謝の低下は、眠気を起こします。昼間ちょっとゆったりするとすぐ居眠ってしまう人は内臓の冷えがあるでしょう。温かいものを飲んだり、ちょっと身体を動かして新陳代謝を高めるようにすると良いでしょう。
不眠
内臓の冷えにより、夜、寝付けなかったり、夜中に目が覚めてなかなか寝付けなくなってしまうことがあります。こんな症状が何年も続いている人も何人か診たことがあります。一般に睡眠薬とか精神安定剤が使われますが、内臓の冷えのある人は、これらの薬によって内臓の冷えが悪化しますので、薬の使用量が増えたり、効かなくなったりします。このような不眠は、冷えにより胃腸の動きが悪くなり、その不快な感じが安眠を妨げていると考えられます。
真武湯はこのような時よく効きます。真武湯は眠気を治すと本に書いてあり、そんな作用からは、不眠に使うとかえって眠れなくなってしまうのではないかと考えられますが、実際はそうではないのです。一つの薬が、患者さんの状態により、眠気と不眠のように、まったく正反対の症状に有効なことは漢方の世界ではしばしばあることです。
内臓の冷えという一つの状態が眠気と不眠とか、下痢と便秘というまったく正反対の症状を起こすことも覚えておくべき重要な問題だと思います。
腹痛
冷えによる腹痛はしばしば見られます。急激な冷えにより腹が痛くなり下痢するというパターンは珍しいことではありません。
もっとずっと軽い痛みで内臓の冷えに特徴的なものが右下腹部のちくちくする、あるいは張ったような痛みです。外科で診てもらうと慢性虫垂炎とか移動盲腸とかいわれることがあります。この痛みは時に右腰につながって感じられることもあります。
腹部手術をしたことがあり、腸の癒着がある人は冷えにより激しい腹痛と腹がボーンと太鼓のように張ってしまうことがあります。腸閉塞症状で最悪の場合緊急手術が必要となることもあります。しかし、うまく胃腸を温める漢方薬を用いて回復することもあるものです。
下痢と便秘
先に書いたように腹部が冷えると腹痛を伴い下痢をすることがしばしばあります。軽い場合は1,2回の下痢で終わり、温かいものを飲んだり食べたり、、腹部を温めることで容易に回復します。しかし、重症の場合は下痢が長く続くこともあるので、胃腸を温める薬を使う必要があります。
漢方では便秘を胃腸の熱と考える人がすくなくありません。確かに以前は胃腸に熱がこもった便秘が多かったのですが、最近は冷えによる便秘がほとんだと考えられます。ここで気をつけなければいけないことは昔から便通をつけるのに良いと言い伝えられる方法はすべて胃腸を冷やす効果を持っているということです。バナナを食べるとか冷たい水やミルクを飲むなど、また便秘に使う緩下剤も胃腸を冷やします。胃腸が冷えている便秘には使ってはいけないものです。
一般に急激な冷えは下痢になり、慢性的に徐々に冷えてきた時は便秘になるようです。
内臓が冷えてきた時、身体がどう反応するかで下痢と便秘は分かれるのです。腸のなかのじゃまなものを無くして身体を温めようとすると下痢になり、排便することによって身体の熱が失われるのを嫌う時は便秘になるのです。
昔から便秘は恐いものとされて、一日二日出ないと心配する人がいますが、恐いのは熱がこもった便秘で、冷えによる便秘はそんなに恐いものではありません。
冷えによる便秘の場合は一般に、口がまずくなったり、腹が強く張ることは少ないのです。
内臓を温める薬である真武湯は、効能書には下痢に使うように書かれていますが、これで便通が整う人も多いのです。胃腸が温まり、もう便通を止めている必要がなくなれば便は自然に出るようになるのです。
手足の冷え
内臓の冷えのある人の手足は冷えやすいものです。内臓を温かく保つことができなくなった時、身体は手足のエネルギーのめぐりを少なくして手足から熱が逃げるのを避けようとします。手の冷えは温かさと冷たさの境目が割合はっきりと感ずることができます。その境目の場所で内臓の冷えの強さをはかることができます。当然、腕の上のほうまで冷たいほうが重症です。
また、手足の冷えは精神的な緊張でも起こります。このような手足の冷えは気分がゆったりすれば温かさを取り戻すことができます。眠りに就く時手足は温かくなります。手足が冷たいとなかなか寝付けません。
重症の冷えの場合強度な手足の冷えが認められますが、むやみに手足を温めてはいけません。内臓を先に温め、その温かさが自然に手足に及ぶまで待たねばなりません。
ひざのあたりの冷える人は胃の働きが弱い人に多いのです。
肩や腕の痛み
内臓の冷えにより身体のいろいろな場所の痛みが出ることがあります。夜中や朝に強まる痛みは冷えによるものと考えて間違いないでしょう。身体の痛みは単にその場所が冷えて起こる場合もありますが、内臓の冷えに対する防衛反応として、筋肉の緊張を変えたり、関節を歪めたり、エネルギー(気)の流れを変えたりした結果、起こる痛みも少なくありません。肩や腕の痛みの場合、冷えにより首の付け根が固くこり、そのため腕へ行くエネルギーが不足している時、仕事などで腕や手を酷使すると疲れが溜まり、やがて痛みを起こすようになると考えられます。
このような痛みは痛む場所を温めるだけでなく、さらに内臓を温める(たとえば温かいものを飲む、風呂で腹を温める、内臓を温める漢方薬をのむ)ほうが効果的です。
痛み止めの薬は内臓を冷やすので、のんだ直後は良くても後で痛みが強まることもあります。冷やす湿布も同じことが言えます。その時気分は良くても後で痛みが強まることもしばしばあります。
肩や腕の痛みは上腹部の内臓、胃のあたりの冷えと関係することが多く、次に書く腰痛は下腹部の冷えと関係することが多いのです。
腰痛
腰痛は非常に多い症状です。立って歩く人間の腰椎はそれより上の部分、すなわち上半身の重量をすべて支えなければなりません。そのため腰椎は歪みがなくまっすぐに並んでいなければなりません。少しでも歪みがあると重量を支えきれず、痛みを伴う腰の病気を起こすのです。
前にも書いたように内臓の冷えは、身体が全身を温かく保つためのエネルギーを十分確保できないため、一部をあきらめるために起こります。このような時身体は関節を少し歪めてエネルギー(気)の流れを調節するわけです。このような小さな歪みが腰椎に起きた時、それが原因となって、何かの拍子でぎっくり腰やヘルニアなどが発症してしまうのです。
それほど重症でなくとも、朝起きて腰が痛い、長い時間立っていたり、中腰でいると腰が痛いなどの症状が出る原因になるのです。
内臓の冷えによる典型的な腰痛は右の腰に現れます。一番下の肋骨の下の筋肉が左に比べ強く凝っているのが特徴です。
一般に腰の痛みはしばしば慢性化して長い間悩まされることが少なくないのですが、それは腰の歪みのもとになった胃腸を治さないからです。胃腸を温めたり、働きを高める治療をすることにより、永年苦しめられた腰痛から開放されるケースも少なくありません。このような胃腸を温め、働きを高める治療は漢方しか出来ない領域だと思います。
排尿異常・膀胱炎
一般に身体が冷えると尿の回数や量が増えることがありますが、下腹部の内臓が冷えると排尿時の痛みや不快感が出ます。原因となる細菌が良く分からない膀胱炎は冷えによると考えて治療したほうが結果は良いようです。
むくみ
一般に身体が冷えると排尿回数が増えたり尿量が増したりしますが、逆に内臓の冷えからむくみが起こることがあります。冷えにより身体のエネルギー(気)のめぐりが悪くなり、身体の表面の水分が停滞するためと考えられます。一般に程度は軽いものです。真武湯などを使うとむくみは簡単に消えます。
ふわふわ感
内臓の冷えにより腰椎が歪むとふわふわした感じが出ることがあります。めまいではなく、足が何か柔らかいものを踏んでいるような、何か安定しない感じです。これはむくみより時間はかかりますが、腰の歪みがなくなれば治ります。
月経の異常
内臓の冷えにより様々な月経の異常が起きてきます。生理痛にも冷えによるものがあります。月経周期の異常としてはどんどん早く来るケースや排卵が無く無月経になることもあります。また出血量が多いとか上りが悪くいつまでも出血するケースもあります。内臓の冷えによる不妊も少なくありません。昔から女性はいつも下腹、腰を温かくしている様言い伝えられているのも肯けます。
冷えのぼせ
人間の身体の熱は一般に上半身が高く、下半身は低くなっています。東洋医学では、人間の身体のエネルギー(気)の流れは顔から頭、後頭部から背中、腰、脚の外後ろ側を下がり、足から下腹部、胸から咽へとめぐると考えています。この循環がどこかで滞ると上半身が熱く、下半身が冷える、いわゆる「冷えのぼせ」が起こります。
内臓の冷えがある場合身体がこのようなエネルギーの循環を止めてしまうので、当然冷えのぼせが起こります。ここで厄介なことは、しばしば上半身の熱の症状のみが強く現れ、冷えの症状が隠されてしまい、患者さんも医者も身体を冷やさなければならないと誤認することです。これは次に述べる重症な冷えのとき特に起こりやすく、そのため誤った治療により徒に死期を早めてしまう結果にもつながりかねません。
重症な冷えの症状
内臓の冷えは一般に心臓から遠いところから始まり、進行するにつれ心臓に近いところに迫ってきます。恐ろしいことですが、冷えが心臓に入れば心臓は止まります。
ここで言う重症な冷えとは冷えが心臓に近づいたことを指しています。
夜中から明け方にかけて、胸や心下部(胃のあたり)の痛み、首が前に引かれるような凝り、胃の裏あたり、背骨の両わきの痛みなどの症状は重症な冷えである可能性が高く、注意が必要です。
重症な内臓の冷えの場合、熱と冷えの症状が複雑に入り組んで現れることがあります。寒く感じていたのに急に汗が出るほど熱く感じたり、咽が焼けるように渇いたり、口が苦く舌が熱っぽく感じたりします。
このような症状は重篤な病気の末期に現れます。身体全体が冷えてきて上半身の一部分だけに熱が残っている上に、身体が最後の力を振り絞って身体の温かさを回復しようとがんばっている症状だといえましょう。
このようなときに使う漢方薬は内臓を温める薬の中でも、そのような状態のために考えられた四逆湯の類を使う以外にありません。残念ながら四逆湯は健康保険に採用されたエキス製剤の中にはありません。煎じ薬を使わなければなりません。
桂枝を含んだ漢方処方はたくさんありますが、このような時は禁忌です。桂枝は内臓の熱を体表へ散らす作用があり、残し少ない熱を一気に失うことになり、悲劇的な結末になります。冷え性に良いとコマーシャルをしている養命酒も同じ理由で危険です。
一見健康に見える人でも疲労が溜まったり、精神的な負担が長い間続いたり、夜更かしが続いて、睡眠不足が重なったりすると内臓の冷えが重症になっていることがあります。
特に日ごろ体力に自信のある人の場合、精神力で乗り切れると考えていることが多く、危険です。健康に自信のある人は内臓の冷えで起こるような軽い症状は感じないか、無視してしまう傾向があり、疲労が蓄積しているにもかかわらず、ストレス解消と称してビールを飲んだり、プールで泳いだり、身体を冷やすことに無頓着になり、突然重大な病気を起こしたり、最悪の場合突然死にいたってしまうことは残念なことです。
人間の身体はある程度の無理は乗り越える力を持っています。しかし、それには限界があり、それを越えれば破綻を来します。この限界は越えてみなければ分かりません。限界を越えてしまって倒れてから、その限界を知っても、重大な後遺症を残してしまったり、命を落としてしまっては何にもなりません。
重症な冷えの時、さらに冷えが加わると心臓の発作を起こしたり、脳卒中の発作や、突然の大出血を起こす危険性があります。そうです、突然死の原因として内臓の冷えは重要な意味を持っているのです。
重症な内臓の冷えの場合には、身体を冷やしたり、冷たいものを飲んだり食べたりすることを厳重に止めて、疲れがあれば温かくして休むこと、また悩み事や考え事があれば、しばらくはそれを避け、ゆったり過ごす必要があります。他に苦痛があっても温める薬以外は服用を避けるのが賢明です。特に風邪薬は危険です。身体の中のエネルギー(気)をかき混ぜてしまい、残り少ない身体の暖かみを体外へ放出してしまうからです。
内臓の冷えの症状のまとめ
これまで書いてきたように内臓の冷えの症状は多彩です。中には内臓の冷えに固有の症状ではなくほかの原因でも同様な症状を起こるものもあり、判断の難しいことも少なくありません。症状の組み合わせや、悪化する時間等を総合的に判断する必要があります。
しかし、一般に、老人は特に、冷たい飲食物を裂け、身体を温かく守ることは健康上悪いことではありません。内臓の冷えが疑われる場合はこんな注意を守り、これ以上冷えない様にすると良いでしょう。
終りに
現代医学は内臓の冷えに気づいていないし、適当な治療薬も持っていません。一方では病院の内外に内臓の冷えの人はあふれています。内臓の冷えが何らかのきっかけで認識されたら大きな恩恵がもたらされ、医学も一段と進歩することでしょう。
しかし、今内臓の冷えで悩んでいる人たちはそれまで待っているわけにはいきません。その人たちのためにこの小冊子を作りました。養生法などを詳しく書いたつもりです。生活を変え、養生して少しでも良い生活を送って下さい。
内臓の冷えの治療は漢方に頼らなければならない現状ですが、漢方医は少なく、内臓の冷えに詳しい医師はその中のさらに少数です。もし近くに適当な医師が見当たらない場合は薬局などで購入して自己責任で服用されることも必要かもしれません。
終わりまで読んでいただいてありがとうございます。
内臓の冷えは現代人に広く蔓延しています。何かお気づきのことがありましたか。冷えに注目して生活管理されることはきっとあなたの幸せにつながることと思います。
内臓の冷えを考慮すべき病気
内臓の冷えが大きな要因となっている病気、内臓の冷えの程度が経過や予後に大きな関係を持っている病気はたくさんあります。以下の病気はその一部です。
アトピー性皮膚炎 花粉症 甲状腺機能亢進症 膠原病 高血圧症 低血圧症 糖尿病 いくつかの難病 腰痛 狭心症
筆者への還元についてこちらをお読みください。。なおこれは強制ではありません。
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