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2008年5月12日

◎対中コメ輸出 北陸の食文化売り込む好機

 コメの対中輸出が全面解禁される見通しとなった。検疫条件により精米工場が限定され 、輸出急増は見込めないとしても、世界最大のコメ消費国である中国は長い目でみれば魅力ある市場であり、北陸にとっても、おいしくて安全なコメを中国の富裕層にアピールする好機である。

 昨年、暫定輸出された日本産米は売れ行きが伸び悩み、中国産との大きな価格差が課題 として浮かび上がった。中国にも広がる日本食ブームを追い風に、北陸の地酒や魚介類の加工品、醤油、いしりなど「食文化」をトータルで売り込む工夫も求められよう。

 両政府の対中コメ輸出の合意事項では、精米工場の指定に際し、病害虫が工場に存在し ていない期間を一年間とすることや輸出直前の精米を薫蒸処理することなどが盛り込まれた。この条件をクリアしているのは神奈川県の一工場だけで、輸出量を増やすには指定工場を拡大させる必要がある。

 中国側の検疫体制の変更で停止していたコメの輸出は、昨年に一部再開された。日本産 米の価格は中国産の二十倍程度で、第一陣は物珍しさからすぐに売り切れたものの、第二陣は売れ残った。値段に見合った価値をどう訴えるか、ブランド戦略を練り直す必要があろう。いくら食味に優れていても、水が悪かったり、炊き方が適切でなければおいしくはない。炊飯方法の普及も課題である。

 コメの対中輸出で模様眺めする産地が多い中で、積極的に手を打っているのが九州、沖 縄のJAが設立した九州沖縄農業経済推進機構である。九州産米の統一ブランド「九州男児」を立ち上げ、既に中国商社との間で二千トンの輸出枠を取り付け、いつでも輸出できる態勢を整えている。無洗米をミネラルウオーターとセットで宅配する計画もある。

 中国で富裕層が増え、日本食ブームがさらに浸透すれば、それを支える農水産物への関 心も高まり、国内での産地間競争が中国に舞台を移して展開されることも予想される。石川、富山県でも中国、台湾などに農水産物の販路を開拓する動きが広がってきたが、他の地域に出遅れぬよう官民一体となって輸出戦略を練っておきたい。

◎模擬授業の導入 教える技術をも高めたい

 文部科学省は大学、短大の教職課程に従来の教育実習とは別に、学内で模擬授業などを させて「教える力」を評価する「教職実践演習」を新設、〇九年度から必修科目として加える方針を固めた。教職志望の学生が知識だけの「頭でっかち」にならず、教える技術をも身に付けることは望ましいというより、あるべき姿ではないか。

 義務教育にあっては教員は研究者ではない。平たく言えば、頭がいいだけではだめ。子 どもの心が的確に理解でき、公正で、ものごとを理解させる力があり、子どもから魅力的に見られることが大事だ。わけても理解させる力が子どもを引き付けるのではなかろうか。そうした力にやっと目が向けられるのである。

 中央教育審議会の論議の中から教える力についての発想が出て、文科省に取り組みを提 言したものといわれる。こうした発想が出てくる背景には、文科省が指摘している通り、子どもとコミュニケーションが取れなかったり、指導力が不足したりしている教員の増加が学校教育に対する社会の不信感を招いていることがある。

 最近の若者に共通する傾向として、「付き合い下手」が指摘されている。少子化で、き ょうだいが少ないこと、小さい内から大勢の友達と遊ぶ機会が減ったこと、その反対に独りパソコンなどに向き合う時間が増えたこと等々が、その原因として挙げられている。付き合い下手は子どもに教えることとも大いに関係がありそうに思われる。が、漠然とそう言い合うだけでなく、信頼できて役に立つ調査がほしいところだ。

 文科省は、中教審の意見をあらためて聞いた上で、教職課程を定めた教育職員免許法施 行規則を改正する方針だそうだが、教職実践演習の模擬授業などを、教職課程などの活動を通じて得た知識や体験が、教員として最低限必要な資質の形成につながっているかどうかを最終的に確認する場と位置づけている。

 〇九年度からの教員免許更新制と併せ、教員の質を高めることにつなげたいものである 。


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