2005年11月11日(金)「しんぶん赤旗」

アジアの展望を妨害する小泉外交


 「小泉首相の靖国神社参拝は…弱さの表現である。日本衰退の兆候だ」。英国ケンブリッジ大学東アジア研究所のデビッド・ウォール氏の言葉です。(日本の英字紙ジャパン・タイムズ三日付)

 十月十七日の小泉首相の靖国神社参拝、靖国参拝推進派の安倍晋三氏や麻生太郎氏を重要ポストにすえた新内閣人事、日米安保体制を米国の世界戦略に直結させた軍事同盟に強化する動き…。「衰退」とは過大な表現かもしれませんが、このままゆけば小泉外交は大変なことになるとみるのは大げさではありません。

 今回の首相靖国参拝でとくに参拝推進派の中には、歴史問題で日本に厳しい中国や韓国のメディアや国民の反応が、従来に比べれば比較的穏やかと報じられたことから「峠をこしたか」などとする見方もあります。しかし、それをもって現在の参拝問題などを勝手に正当化するのは危険です。

 中国では、より公平な姿勢で深部から日本の問題を論じるという動きが出ていると伝えられる(ジャパン・タイムズ八日付、ラルフ・ジェニングズ氏記事)一方で、むしろ中韓以外のアジア諸国、欧米から厳しい日本批判の声があがっているのが特徴なのです。

 今や、「(小泉首相らの言い分は)日本では通用するかもしれないが、アジアと世界では受け入れられない」(国際情報ネットワーク、ブルムバーグのコラムニスト、ウィリアム・べセック氏)というのが世界の常識です。その常識に挑戦する小泉首相らの姿に、日本の未来の危うさをみないわけにゆきません。

■「無責任な行動」

 小泉首相は、「参拝は個人の自由。憲法に保障された権利」「日本人の心の問題。外国がとやかくいうのは内政干渉」といいますが、他人の声に耳を貸さないこうした姿勢は火に油をそそぐ結果となっています。

 旧日本軍が数十万の華僑住民を虐殺したシンガポール。華字紙の厳しい対日批判論調に比べれば控えめの英字紙ストレーツ・タイムズも厳しい姿勢です。

 十月二十日付の論評(社説)「小泉首相の無責任な行動」は歯に衣(きぬ)着せぬ論調で指摘しています。「靖国参拝に心から反対する国々にあれこれいうのはひどい侮蔑(ぶべつ)である」

 インドネシアの新聞ジャカルタ・ポスト(十月二十四日付)は「日本の不遜(ふそん)」と題する社説を掲載し、国民の怒りを描きました。「日本帝国主義に苦しめられたすべてのアジアの人々にたいする思慮なき侮辱だ」「参拝はたんなる政治的失策でもないし、国内問題でもない。首相再選後の計算しつくされた行動ではないのか」。インドネシア語有力紙コンパスの論調も同様です。

 重要なのは、これらの論評が小泉首相らの言動はアジアの新たな展望を妨害するものと指摘していることです。「小泉首相の行為はこの地域の誠実な協力の展望を傷つけ、今年末におこなわれる歴史的な行事である東アジア首脳会議を妨害するものだ」(ジャカルタ・ポスト論評)「小泉は東アジア共同体の未来を危険にさらしている」(同紙十月二十五日付記事)

 ストレーツ・タイムズ紙論評が「(靖国参拝が)米国以外の国との外交関係にとってどれほどの損害となることか」と書いているのも、同じ視点からの指摘です。

■米国からも批判

 その米国でも、日米同盟堅持の立場もあって自民党政府を擁護してきた政府関係者、政治家、識者の間から批判・懸念の声があがっているのがもう一つの特徴です。

 前政権で国防次官補を務めたジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授は「国際的影響力に与えるマイナスを無視したのは思慮に欠ける行為」とし、イラク戦争でのブッシュ政権と同様に「日本も首相参拝の代償を支払うことになるだろう」(東京新聞十月二十二日付)と言いきっています。

 ブッシュ米大統領がアジア歴訪に先立っての会見で緊張状態にある日中、日韓関係にふれ、「過去の相違の克服」が必要と語りました。自らの思惑があるとしても、発言の背後に、アジアと世界の現実と歴史の重みがうかがえます。

 小泉首相は、先日の民主党前原代表との討論で、靖国参拝を正当化しつ「日本はこれからアジア諸国との関係を重視する」といいました。

■重視でなく蔑視

 しかしその首相は日ごろ「中国が靖国参拝問題をいわなくなるようにさせる。それまで参拝はつづける」といっているといいます。それが本音なら、アジア重視どころかアジア蔑視(べっし)でしょう。

 東南アジアのある国際問題専門家の言葉です。「小泉外交は、日本と各国との関係を損なうだけでなく、アジアの新たな協力への障害になっている。十二月には東アジア共同体をめざす首脳会議も開かれるが、アジアの目の厳しさを日本人も知ってほしい。日本を非難するためではなく日本に期待するからです」

 (三浦一夫)


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